第71話 敵なし

 翌日の朝九時に、咲を連れ雀荘に入った。


 咲の噂を聞きつけ、女流プロ雀士が二人待ち構えていた。それに常連の男と咲が入り対局が始まった。咲に心の声を送る。

 

(昨日と同じサウナに行くから何かあれば言ってね。今日、勝てなくても、昨日の勝ち分があるから気楽に楽しんで。午後六時半頃に戻るから。それじゃ行くよ。)

 

(わかった。ノンもゆっくりしてね。あたしも頑張るよ。それじゃ後で。) 

 

 俺は雀荘を出ると、カプセルホテルに向かった。


 二日続けてサウナとはなんて贅沢なんだろう。サウナに入り、タップリと汗を流した。昨日と同じようにカプセルホテル内の居酒屋で飲んだ。すき焼きをつまみにビールを飲んだ。時間はまだ午前十一時だ。

 

 腹を満たし、俺は居酒屋を出て休憩室のリクライニングシートに座り横になった。余りの気持ち良さに目を閉じると深い眠りについた。何時間寝ていただろう。「ハッ!」と気が付き、時間を見ると午後六時を過ぎていた。


 咲から心の声が届く。

(ノン、ラス半だよ。今日も楽勝だよ。)

 

(そうか、今そっちに行くから。)

 

 俺は急いで着替え、カプセルホテルを出て雀荘に向かった。俺が雀荘に入ると、ラストの対局を終えた咲が受付で清算している所だった。種銭の五万円を差し引くと二十六万円のプラスになった。


 楽しかったと三十一万円全額俺に渡す咲。幾らかでも咲に取る様に言うと、「それじゃ、一枚だけ貰うね。」と笑顔の咲。店員に次はいつ来るのか聞かれ、気が向いたら来ますと答えた。


 女流プロはどうだったのか咲に問うと「強かったよ。でもあのレベルでプロになれるならあたしもプロになれるね。霊力を使うまでも無いかな。」今日は半荘十三回戦やり全てトップだったそうだ。


 雀荘を後にして旧東海道の焼肉屋に行く事にした。今日は正月明けの三日で、美味しい店は休みだ。咲は麻雀で圧勝して機嫌が良い。焼肉屋に入り焼肉を適当に頼み、

俺はビールで、咲は生レモンハイで乾杯した。話題は真菜の受験についてだ。

 

「真菜が東大受験しないって言い出してるんだよね。心理カウンセラーの専門大学に行きたいって。そうしたら、両親と大喧嘩になって、東大に行かないなら一人暮らしは駄目だって言われたらしい。あたしも、真菜のバックアップする準備万端でいたのに。霊力を持つ女子の支柱である真菜が、あたしのサポートをしてくれるのは有難いけど、これで良いのか悩んじゃって。真菜はノンに心配かけたくないって言ってたよ。」

 

「そうなんだ。どうせ明日三人で会うんだからその時聞こうよ。でも東大に入る力が有るのに勿体無いね。真菜は責任感が強いから『TEAM JAPAN』のメンバーからの信頼も厚いからね。今こうしている時も相談とかされてるのかな?」

 

「相談されてる可能性はあるね。真菜の霊力なら心をブロック出来るんだけどね。今考えてもしょうがないからお肉食べよう。」

 

 この焼肉屋は、値段が安いが味はまあまあだ。以前、タンポポの暑気払いランチで来た事があり、お店は年中無休だ。咲と二人でお腹いっぱい食べても、一万円でお釣りが来る。全フロア喫煙可で、愛煙家の俺には有難い。


 食事を済ませ、焼肉屋を後にして家路に向かった。家に着くと、咲がシャワーを浴びたいと言い浴室に入った。俺はサウナに入ったので、シャワーを浴びず、八時の精神薬を飲み寝る事にした。


 しかし眠れない。サウナで昼間から六時間くらい熟睡したのだ。精神障害者になり一度リズムを狂わすと、元の調子に戻すのが大変なのだ。


 咲が二日間連続で麻雀に大勝して、俺が躁状態だと言う事も眠れない原因の一つなのだろう。


 そんな俺に咲が敏感に反応した。俺をベッドに寝かせ腕枕を咲にして、頭や腕などをそっと、優しくさすってくれる。まるでお母さんが幼い子供にしてあげる様に。


 咲の母性本能が自然とそうさせるのだろう。

 目を閉じると俺は深い眠りについていた。

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