第45話 咲、死を語る
翌日俺は精神病院に入院した。
自殺未遂をしている俺に病院はピリピリしていた。本来自殺願望の強い患者は、なかなか病院は受け入れてくれない。
問診をした後、隔離室に入れられ逃げ出さないように下半身を縛られオムツをはかされた。俺はこの、病院の処置を経験済みで驚く事は無かった。ただ咲の泣き声が幻聴の様に聴こえ辛かった。
一週間後、閉鎖病棟の六人部屋に移された。まともな会話が出来る患者がいない。またゼロからのスタートだ。
咲は水晶占いを再開した。俺が退院するまでだと言い占いの時間を午後七時まで延ばした。真菜も授業が終わると咲と合流してサポートした。
俺の自殺未遂以降、咲はしきりに死を語り始めた。
「大半の人間は、地上だけが人間の住む世界だと考えています。現在の生活が人間生活の全てであると思い込み、そこで物的なものを、いずれは残して死んでいかなければならないものなのに、せっせと蓄積しようとします。
戦争・流血・悲劇・病気の数々も、元はといえば、人間が今この時点において立派に霊的存在であること、つまり人間は肉体のみの存在では無いという生命の神秘を知らない人が多すぎるからです。
人間は肉体を通して自我を表現している霊魂なのです。それが、地上という物質の世界での生活を通じて魂を成長させ発達させて、死後に始まる本来の霊の世界における生活に備えているのです。」
人生を成功させたいと願うОLにはこう語る。
「世間でいう、成功者になるかならないかは、どうでもよい事です。いわゆるこの世的な成功によって手に入れたものは、そのうちあっさりと価値を失ってしまいます。
大切なのは、自分の霊性の最高のものに対して誠実であること、自分でこれこそ真実であると信じるものに目をつぶる事無く本当の自分自身に忠実であること、良心の命令に素直に従える事です。
これさえできれば、世間がどう見ようと、自分は自分としての最善を尽くしたという信念が沸いてきます。そしていよいよ地上生活に別れを告げる時が来た時、死後に待ち受ける生活への備えが十分にできているという自信を持って、平然として死を迎える事が出来ます。」
死にたいと訴える女性にはこう語る。
「事態を改善するよりも悪化させるようなことは、いかなる人間に対してもお勧めするわけにはいきません。自殺行為によって地上生活に終止符を打つような事は絶対にすべきではありません。
もしそのような事をしたら、それ相当の代償を支払わねばならなくなります。それが自然の摂理なのです。地上の誰ひとりとして、何かの手違いの為にその人が克服できないほどの障害に遭遇するような事は絶対にありません。」
死を恐れている少女には、
「死ぬと言う事は、霊が肉体から脱皮して姿を現す過程の事です。何ひとつ怖がる要素がありません。霊はいつか肉体から離れる時が来ます。人間は、それを死と呼んでいます。
人間にとって死は、相変わらず恐ろしく、そして怖く、できることなら死にたくないと思われるようですが、それは間違った考えです。霊界側から見れば、死は霊の誕生なのです。」
俺は咲の心の声を病院のベッドに横になり聴いていた。
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