第43話 不倫

 土曜日、日曜日、祝日の占いは休みだ。咲は俺との時間を大切にしてくれる。

 真菜とは別行動で自由にさせている。


 この日、繫華街を歩いていると高校生くらいの女子が噴水広場で「ジャパン!ジャパン!」と通りすがりの人達に声をかけている。よく見ると俺が籍を置いている、デイケアセンターで会った事が有る子だ。


 名前は矢野由利子。俺と同じ統合失調症の二級に認定されている。


 咲の水晶占いを受け霊力を得たが、妄想と幻聴が強く今の由利子は恐らく精神病院に入院して治療をするレベルだろう。咲が由利子に近づこうとすると二人の女子が割って入った。


 一人が「この子駄目だわ。霊力を失い気が動転している。ネエさんに相談しよう。」そう言うと由利子の手を引き立ち去った。


 咲はこの光景を、唇を噛みしめ見つめている。


「精神障害者ってあんなもんだよ。一度障害者に認定されると死ぬまでこいつと闘わなければならない。精神薬に依存して生きていくしか無いんだ。」


 俺の言葉に首を横に振る咲。


「ノン、あたしは勇気を持って前に進んでいくよ。落胆や失敗が無いというんじゃないの。これからも数多くの落胆と失敗があると思う。でもいかなる事態にあってもあたしたちの背後には、困難に際しては情熱を、疲れた時には元気を、落胆しそうな時には励ましを与えてくれる霊が控えてくれている事を忘れないようにしよう。あたしもノンも一人ぼっちということは決して無いよ。」


 由利子の事が気になるので、真菜とファミレスで待ち合わせ、ランチを一緒にする事にした。入口に着くと真菜が待っていた。中に入りランチにドリンクバーを付け注文した。


 今日も咲と真菜が並んで座り、俺が一人で座った。真菜が口を開いた。

 

「由利子さん、セックス依存症で複数の男性と関係を持っていたんです。霊力を得て真実の愛を探す決心をしたのですが、言い寄る男達を避けられず、おこずかいを貰い、関係を断ち切れずズルズルと過ごしていました。


 ある男性に惚れた由利子さんは心の声の秘密を打ち明けてしまいます。妻子あるこの男性は驚き、姿を消してしまいました。残された由利子さんのお腹には、新しい命が宿っていました。


 両親に打ち明けると、お腹の子をおろす様に説得され、それに従ってしまいます。その後、友達に成り行きを話してしまい霊力を失いました。霊力を失った事が理解出来ず今回の行動に出てしまったという訳です。


 助けた女子が由利子さんに付き添い、家まで送りました。わたしには、咲さんの様に他人に霊力を授ける力はありません。由利子さんにもう一度霊力を使えるチャンスをあげられないでしょうか。」


 咲が答える。

「一人ひとりの人間が、自分の行為に自分で責任を取るの。それが自然の摂理なの。それが例えば愛する人であれ、その人に代わって責任を取る訳にはいかない。その人の行為の結果を誰かが背負うことはできないの。それを因果律と言うの。過ちを犯したら、過ちを犯した当人がその償いをする。霊的法則がそうなっているの。由利子は約束を破ってしまった。もうあたしには何も出来ない。天の神様に祈る事しか。」


 俺は二人の話を黙って聞いていた。咲の言う通り由利子は自分で償うしか無いだろう。


「真菜は多くの霊力を得た女子の相談を受けているけど何か成果があった?」俺が聞くと

 

「わたしは、『TEAM JAPAN』と呼んでいます。とても優れている女子の集まりになろうとしています。


 愛するパートナーと出逢い、心の方程式を解き、ポセイドンの存在を知り、ノンさんを探す猛者が十三組います。その中に例の麻雀日本一になった美代子さんもいます。麻雀仲間の男性と付き合い一緒に住んでいます。


 初心を忘れない様にと言い、今も毎週土曜日のパンの配給と月末のカレーの炊き出しに参加して、ホームレスの人達に愛を説いています。みんな早くノンさんに出会い、永遠を手にしたいと願っています。」


 俺をターゲットにしている人が十三組に増えている事を聴き驚いていると咲が話した。


 「ノンはまだターゲットになる事の重大さが分からないだろうね。あたしと真菜には未来予想図が出来ている。だからどんなキツイ試練が有っても乗り越えて行けるんだ。ノンはただあたしを傍に置き、日々心を込めて全力で生きれば良いんだ。簡単でしょ。」


 咲の言葉とは裏腹に俺はうつ状態になって行く事になる。俺は自殺を考えていた。  俺がいなくても咲は上手く生きていくだろう。


 早く死に楽になりたかった。


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