第40話 合言葉はジャパン
ゴールデンウィークになり、占いの館の初日が始まろうとしている。
俺は心配でこっそり見に行った。十時になりオープンした。咲のいるブースに行くと、とても狭い作りで人が二人入るのがやっとに見えた。入口に真菜が占い師のコスプレで立ちお客さんを待っている。
俺を見つけると小さく手を振った。
「ノンさん、来るの待っていました。咲さん中にいて霊力全開で人が来るの待ってます。ちょっとだけ中に入りますか?」
「それじゃあ顔だけ見たらすぐに帰るよ。」
中に入ると木綿の様なものを身にまとい、目元だけ出した咲が水晶を見つめている。
「ノン、これは遊びじゃ無いからね。あたしは真剣だから。」
咲は不思議なオーラを放ち俺を見つめた。
俺は外に出て他の占いも見た。なんだか胡散臭い占い師もいる。五日間の辛抱だ。咲を見守ろう。昼ご飯に喫茶店でミラノサンドのAセットとアイスコーヒーを注文して喫煙室でのんびり過ごした。咲がカリスマ占い師になるとも知らずに。
午後三時、ノアの占いの館に様子を伺いに寄ると、咲のいるブースにだけ人が十人くらい並んでいる。真菜は最後方で「今日は定員オーバーです。明日来て下さい。」と来る人にお詫びしている。
見ると女性しかいない。真菜に聞くと咲は初めから女性限定に占いをすると決めていたらしい。
通りすがりの女性が「ここの水晶占い凄いらしいよ。行けば分かるって言われたの。明日来てみよう。」と話している。
俺は邪魔なので家に帰る事にした。
家に帰ると風呂に入り早めの夕食にした。冷蔵庫にハイボールとワインが入れてあるが今日は止めておこう。
午後七時に咲が帰ってきた。夕食は真菜と牛丼を食べたそうだ。咲は終始笑顔で機嫌が良さそうだ。大盛況だったので報酬は現金一万円もらったと喜んでいる。その一万円を俺にくれると言う。
「初めてのお給料だからノンに受け取って欲しいの。パチンコは悲しくなるから駄目だよ。」
「占いはどうだったの?」
「来てくれた女子に心の声を聴く霊力をあげたの。キチンとルールがあり、違反すると霊力を失うの。霊力を持つ女子がマナーを守る為の合言葉が欲しいのだけど何かある?」
「合言葉はポセイドンじゃないの?」
「ポセイドンは地球人類全ての合言葉だから駄目だよ。日本規模の合言葉。」
「わかりやすくジャパンはどう?」
「合言葉はジャパン。子供でも分かるから良いかも!」そう言うと咲はお風呂に入った。
九時になりベッドに入ると咲はマチルダに戻った。余程疲れたのだろう。俺の首元でスースーと寝息をたてている。
俺は調子が悪く、もう死んでしまいたいと思う様になっていた。
*~*~*
翌日、咲の水晶占いのブースは若い女子で長蛇の列になった。
真菜は一人の制限時間を十分として対応した。霊力を得た女子を真菜がサポートした。心の声を聴く霊力を持て余し放棄する女子もいた。
霊力を得た者の合言葉は「ジャパン」この日、咲は昼食時間を短縮して三十二人に霊力を授けた。
ゴールデンウィークはあっという間に過ぎた。この五日間で約百五十人に咲は霊力を授けた。真菜はその対応に追われている。
咲の水晶占いは爆発的に若い女子にうけた。占いの館の責任者から継続の依頼があったが、咲は断った。
「ノンとの時間が取れないのと、夕食などの準備が出来ないでしょ。真菜のヘルプも高校に行くので頼めないし。」
咲は忽然と姿を消してしまう。
咲の残した百五十人のDNAは、真実の愛を探し求め、この街をさまようのであった。
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