第38話 ポセイドンプロジェクト

 駅に着くと、真菜が咲の真似をして帽子にマスクをして伊達メガネをかけている。 この二人、変に目立つ。


 近くに寄ると真菜が

(ノンさん、豚カツは次回にしてファミレスで軽く何か食べ、ドリンクバーにしてお話しましょう。)と心の声で言う。


(良いよ。)と俺。


(ノン、真菜は優秀だよ。邪念が無いから心の声を聴くのが上手い。あたしの様に相手に話しかける事が出来るのもすぐだね。)


 ファミレスに着くと俺が一人で座り、向かい側に咲と真菜が並んで座る。何かの面接の様に見える。咲が話しを始める。


「ノン、あたしアルバイトして良い?ノアの七階で占いコーナーが出来るの。易者、手相占い、水晶占い、タロット占いがあって水晶占いにあたしが選ばれたの。ゴールデンウィークの五日間限定で評判が良ければ平日も継続してやらせてもらえるの。歩合制で午前十時~午後五時まで。どう?」


「俺が反対してもやるだろ。身元保証人とか必要な事や困った事が有ればすぐに相談してよ。」


「ありがとう、頑張るよ。真菜にはあたしのアシスタントをしてもらうの。そして心の声を授ける子を探すの。心の方程式が説く、愛とは何かを心の声を使い解いていくの。」


「真菜は、受験勉強とか大丈夫なの?いざという時、咲が助けるの?」


「大学受験が全てじゃありません。咲さんと出合い心が変わりました。地球人類全てを巻き込むこのスケールの大きなゲームに参加出来て嬉しいです。」


真菜はそう答えると注文したパスタを美味しそうに口にした。


「でも、ただゲームって言うのも味気ないわね。何か合言葉の様な呼び名は無いかな?ノン、何か考えてよ。」


「ポセイドンってどう?」


「ギリシャ神話に出て来るポセイドン?」


「そう、合言葉はポセイドン。」


「強そうで良いじゃないですか。」と真菜。


「それじゃ、合言葉はポセイドンに決定だね。この地球人類全てをポセイドンで埋め尽くそう!」


 時間は午後七時だ。真菜は特に門限は無いらしい。大型のマンションに住んでいて今日、咲が真菜の家に遊びに行ったそうだ。


 今度の土曜日は、ゴールデンウィーク前のホームレスの炊き出しに参加する。明日からまたお互いの日々の生活に戻る。ファミレスから出ると、真菜を駅まで送る。そして俺と咲はバスで帰る。今日の十文字さんの話は良かった。また呼んでもらえると良いなと考えていた。


 家に着き風呂に入る。咲が入り、俺が後から入る。俺は一つ気がかりな事が有った。咲がマチルダと言う黒猫だと、真菜は知っているのか?咲に尋ねた。


「真菜はマチルダの存在は知らない。あたしがもし黒猫だとバレたら全てが終わるわ。ノンの協力無しにポセイドンは完成しない。お殿様、どうかこの姫をお守り下さい。」

 

 そう言うとマチルダに戻りベッドにもぐり込んだ。家にいる時のマチルダは本当に可愛い。もしもの時の為、トイレとカリカリ猫ご飯も用意してある。それを自然体で使う。俺は当たり前の様にトイレ掃除をしてご飯を補充するのだ。


 ポセイドンをクリアした時、そこには何が待っているのだろう。俺達の冒険は始まったばかりだ。ベッドに入るとすぐに眠りについた。


*~*~*


 一週間はあっという間に過ぎた。


 ホームレスの炊き出しに参加すると前田を思い出す。ケガをした前田はギャンブル依存症が治らず、結局施設に戻るらしい。連絡が取れないので前田と会う事は無いだろう。


 午前八時半、咲を連れて駅で真菜と待ち合わせた。


 土手の水門がある場所に九時に着くと、いた。ホームレス達が五十人くらいたむろしている。俺は炊き出しの職員に社会勉強をさせて欲しいと交渉して参加を許可された。まず炊き出しの終わった後頂けるパンの番号札を貰った。


 十時過ぎになったので、車に積まれている炊き出しの道具を土手の平地まで運ぶ作業が始まる。咲も真菜も額に汗をかき一生懸命運んでいる。テントを組み立て準備が進む。野菜を刻む作業に二人は加わった。野菜を煮込み始めると、時間は午前十一時だ。


 土手沿いの大掃除が始まる。俺達は無言でゴミを拾い集めた。大掃除が終わり、テントの前に集まる。今日の参加者は七十人をゆうに超えている。カレーを頂く前に、寄付された服が支給される。


「初参加の者は前に。」と言う声に促され咲と真菜が前に出た。


「あなた達は特別参加なので最後にして下さい。」と言われ後ろに下がった。二人とも服は受け取らなかった。


 いよいよカレーの配給だ。列に並び俺達三人とも大盛を頼んだ。咲も真菜も炊き出しは初参加だ。三人並んで川沿いに立ちカレーを食べた。


 真菜はホームレスの多さに驚いている。心の声は聞こえているのか?桜田教会でホームレスに対して免疫が出来たのか、この日の真菜は毅然と振る舞っている。


 カレーが終わるとおにぎりのお持ち帰りが待っている。列に加わりおにぎりを頂いた。カレーの使い捨ての皿を分別して、炊き出しが終了した。


 俺達は使い終わった道具を車まで運ぶ作業に加わった。運搬が終わると、最後にパンの配給だ。


 頑張ったご褒美だと職員に言われ、最前列に並んだ。俺はバターロールを、咲はパンケーキを、真菜はカレーパンを選んだ。


 こうして俺達の炊き出し体験が終わった。

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