第18話 発情期
俺は、自叙伝「人間のカケラ」を書き始めた。
目標は、原稿用紙に三百枚以上書く事にした。卒業アルバムや貰った手紙などを資料として書き出した。タンポポから帰り、風呂に入り、午後三時から五時まで咲とカード麻雀をして夕食を食べ、パソコンに向かった。
この時咲は「あたしもノンの過去を知り、一緒に体感したい。」と、マチルダに戻り俺の膝に乗り、霊感全開にして聞き入った。
午後八時の精神薬と午後九時の就寝時間は厳守する事にした。
俺がパソコンに入力し始めるとマチルダが心の声で(おっ!)とか(へーそうなんだ)とか聞こえる様に言っている。その相ずちが俺のインスピレーションを研ぎ澄ませ筆が進む。長期戦になるので、無理せず書く事を心に誓った。
俺がマチルダを拾い、半年が過ぎた。そろそろ発情期が来る。避妊手術をすれば咲にも大きな影響が出る筈だ。何もせず自然に任せる事にした。
ある日、タンポポから帰ると、咲が頬を赤くして出迎えた。
キッチンには、パックの赤飯が二つ用意してある。「何の祝い事だ?」と聞く俺に「初潮だよ。大人の女性の仲間入りだよ。」と答えた。マチルダの発情期が来たようで、人間の咲とのずれがあるようだ。
まあ取りあえずおめでたい日だ。俺は止めていた缶チューハイと、咲は牛乳で乾杯した。
「生理用品はノンから貰ったお金で買ったから。それと一緒にコンドームも買ってあるからね。」と言う咲の言葉に、俺は思わず飲んでいた缶チューハイを「ぶっ!」と噴き出した。
「初体験は女の子にとって、とても大切な事なんだよ。今後の性生活の善し悪しを決定づけるんだからね。ガラス細工みたいに壊れやすいんだから優しくしてよ。」
そう話す咲の顔は真っ赤で火を噴きそうだ。こんな咲は見た事が無い。マチルダに戻ると発情期で鳴き叫ぶので、今夜は咲のままでいると言う。
俺がソファーで別に寝ると言うと、精神が不安定になるからベッドで一緒に寝てくれとせがんだ。咲で夜を過ごすのは初めてなのだ。怖いと言い震えている咲を見て、セックスはしないという事を条件に一緒にベッドで寝る事にした。
午後九時になり寝る時間が来た。俺が先にベッドに入ると、咲は何かお祈りをしている。
「天の神様に、ノンと出会わせて頂いた事を感謝したの。死ぬまで、いいえ死んだ後も一緒だよ。よろしくね、ノン。」
咲は、俺の横に潜り込むと「おやすみのキスくらい良いでしょ。マチルダの時は散々キスしてるんだから。」と言い顔を近づけた。
「咲、キスは一番大切で愛してる人にするものだよ。俺なんか…」と言いかけると、咲が口づけてきた。俺の腕を枕に目を閉じているが震えている。心の声も聞こえない。
目を閉じると俺は眠りについていた。
☆
翌日も咲はマチルダに戻らない。
俺は咲の成長の早さに驚いていた。咲は小柄で身長は百五十cmあるか無いかだ。胸の膨らみに気が付いた。そろそろブラジャーが必要だ。今はノーブラなので俺には目の毒だ。「触りたい?」と聞く咲に「ノー、ノー」と答えるのが精一杯だ。
就寝時間になると、咲のお祈りが始まる。
何かブツブツ言うのが聴こえるが日本語では無いのが分かる。約十分すると俺のいるベッドに潜り込み、軽くキスを交わし眠りにつく。
それが一週間続いた。落ち着いて来たのでマチルダに戻ると言ってきた。やはりマチルダに夜、戻らないと天の神様と交信が出来ないらしい。
俺は了解した。やはり咲の言う通り、二人で寝るには俺のベッドでは狭い様だ。しかし生理になると、マチルダに戻れないようで咲のまま過ごす様になった。
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