第19話 タンポポでの作業

 作業所、タンポポでは作業がハードだ。


 混合と呼ばれる、石鹸の原料を手でちぎる作業と、トラックでの廃油の回収と、石鹸の配達は時給が百円アップして七百円になる。作業時間は長くハードだが確実に稼げる。


 普通の作業も回収した廃油をタンクに移し、その空き缶を潰す作業がある。メンバーの間では、この油空け缶潰しが一番キツイという声が多い。


 お試しで作業に加わる障害者が来るが、作業の厳しさに驚き、一日で来なくなる人が多く、今現在メンバー不足だ。就活の為、退所したり体調を崩し入院してしまったメンバーもいる。人手不足に不安を訴えるメンバーの声もあるが、今いる者たちで頑張るしか無い。


 仕事の内容と工賃の額のバランスが悪いと、俺は感じる。スタートが時給三百円というのもネックだと思う。精神障害者といえども、ピンキリだ。ある程度能力があれば普通の就労に行ってしまう。俺の場合タンポポに来るまでが、滅茶苦茶だったので丁度いい感じだ。


 俺の一番お気に入りの作業はチラシ折りだ。椅子に座り黙々と作業する。


 この静寂を打ち破るのが、通所五年目の本間さんだ。とにかくよく喋る。現場のリーダーである女性の加藤さんによく叱られるが全く効かない。「あんたに、注意される筋合いが無い。」と加藤さんに食ってかかった事がある。俺が加藤さんの立場ならとっくにクビにしてると思う。


 どのメンバーもそうだがみんな精神障害者なのだ。心に波があり作業が上手く行かない時もある。根気強い指導をする加藤さんに頭が下がる。

 

 今日の作業は、トラックに乗り小学校に石鹸を配達する。コンビを組むのは、伊東とドライバーは職員でもある女性の薄田さんだ。


 三人でタンポポで製造した粉石鹸を二百ケース、十五校に配る予定だ。


 薄田さんは、常に通所メンバーの事を考えていて、俺達精神障害者を一人の人間として扱ってくれる。作業に関しては鬼となるが、心が優しく現場のリーダーの加藤さんと並ぶタンポポのけん引車だ。


 若いメンバーからの人気も高く、俺が職員の中で誰が一番のタイプか聞くと、必ず薄田さんの名前が挙がる。頭と体をフル回転していつも忙しくしているので、まるでマグロですねと笑った事が有る。マグロはいつも動き続け、止まると死んでしまうと言われているからだ。


 配達が始まると、俺と伊東に的確な指示が出る。順調に作業が進み、昼食の時間になる。  

 

 作業が終わると時間は午後三時半だ。


 今日は大判焼きをご馳走してくれると言う。毎回では無いが、パンやコンビニでアイスクリームなど買い、一日の労をねぎらってくれる。

 

 伊東が先日見た夢の天使の話をして「あれ以来体調が良いんですよ。」と笑った。マチルダの霊力だとはいえ、プラスに働けば咲も喜ぶだろうなと思った。


 タンポポに戻ると時間は午後四時半だ。今日の作業時間は、七時間になった。時給七百円なので、四千九百円の稼ぎだ。何もない平日は二千百円の稼ぎだから、その倍以上になる。


 精神障害者としての稼ぎでは破格だろう。

 

 配達の作業がある時は、帰りのバスが運行時間に無い為、三十分かけて歩きになる。ウオークマンで音楽を聴きながら、ゆっくりと歩いて家路につくのだ。

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