第14話 食事会

 時間は丁度、十二時になった。


 伝道師の鈴木さんが「今日、初参加の人はいますか?」と聞くので、俺は「はい!」と手を挙げた。手を挙げたのは俺一人だった。

 名前を聞くので「龍神昇と申します。宜しくお願いします。」と挨拶した。

 

 そしていよいよ待ちに待った食事会だ。


 礼拝堂の机と椅子を移動して食事の準備が始まった。俺と前田がモタモタしていると、教会関係者が「ボーっとしてないで動けよ!」と凄んで見せた。すると「あっ!今日初めての人ね。ごめんね。」と急に優しくなった。面白い人だなと思った。


 おかずのメニューは、ポテトサラダ、サンマの甘露煮、ミートローフ、厚揚げ、コンニャク、肉団子だ。一枚の皿に盛りつけてあり、なかなかボリューム感がある。ご飯は大盛だ。そして具沢さんの味噌汁。


 いただきますを言い、食べようとするとみんな一斉にテーブルの下から長方形の使い捨てパックを取り出し、おかず半分とご飯全部を詰め始めた。持ち帰り夕食にするのだ。


 教会関係者がご飯のおかわりを配ると参加者は嬉々として貰うのであった。     

 パックは教会が用意している様だ。


 昨日、咲が話していた様に物凄いエネルギーが感じられた。


 食事会が終了すると、机と椅子を元に戻す仕事がある。これに参加すると、コーヒーとケーキが貰え懇談会になる。


 俺と前田は参加せず教会の外に出た。そこに斎藤が立ち、声をかけてきた。

「夜に、振興会館の前でパンを配るらしいけど知ってる?」知らないと答えると「知らないの?しょうがないなぁ。行くでしょ?」

と聞くので、行かないと答えた。


 それにしても凄い情報網だなと感心した。

 

 時間は午後二時になろうとしている。前田のアパートに行く事にして、スーパーに寄り、酒とつまみを買う事にした。昨日は、缶チューハイを一人一本買ったが物足らなかった。


 前田が「もう一本ずつ買えば良いじゃないですか。俺、これ飲みたいんですけど良いですか?」と言い、手にはジーマを持ちニコニコしている。この男、笑うとアライグマそっくりだ。


 憎めない奴だなと思いながら「良いよ」と答え、つまみにポテトチップを買い店を出た。勿論お金は俺が出した。


 前田のアパートに着き、まずはビールで乾杯した。俺は、前田がいなければキリスト教会に行く事は無いだろう。今日の体験はとても刺激になった。昨日の炊き出しといい、下手な啓発セミナーよりも勉強になった。俺は前田に礼を言いビールを飲んだ。

 

 宗教の話になり、前田は二十代の頃は〇〇会員だったと言った。地区のリーダーも務め、大きな会合で体験発表もしたらしい。かなり熱中していて、選挙の時も有権者に電話をかけまくり、直に会い投票をお願いした。


 その時、付き合っていた彼女が〇〇会活動に夢中な前田に愛想を尽かし、私を取るか○○会を取るか、どちらかに決めろと迫ってきたらしい。


 前田は「○○会を辞めたら、死ぬまでお前が俺の面倒を見てくれるのか?責任を取ってくれるのならお前を取る。」そう答える前田に彼女が「全て責任を取る。」と言った。


 それを聞いた前田は、○〇会を退会する旨を幹部に伝え、何を考えたのか持っているご神体を、お寺の護摩などを焼き祈祷してもらう場所に置いて来たというのだ。


 ○○会員にとって、ご神体は祈りの対象であり、命の次に大切な物だ。その話を聞いた幹部は激怒し、前田は○○会を破門になった。その時の彼女が元奥さんだ。


 俺は二本目のビールを開け、前田の話を黙って聞いていた。元々、○○会に興味の無い俺にとり、どうでも良い話だ。

 

 話題を変え、前田との話が続く。

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