第13話 礼拝初参加
「おはよう、ノン。起きないと遅れちゃうよ!!」
咲の元気な、いつもの声で目が覚めた。今日の朝食はコーンフレークに牛乳をかけた物だ。咲の分は牛乳が入っていない。べちゃべちゃになるのが嫌だそうで、カリカリ感が猫ご飯みたいで好きだと言いながら食べている。
「あたしね、イエス・キリストって実在していたと思うの。神様の存在と死んでも霊として生き続けるっていう考えに共感するわ。」
少し興奮気味に話す咲に、俺は「うん、うん」と頷きながら、服を着替え外に出た。
待ち合わせ場所のコンビニに、午前九時前に着いた。前田の姿は無く、九時を過ぎた時点で携帯に電話した。腹を下し、コンビニのトイレから出られないと答えた。
そして少しして前田が来た。
桜田教会は歩いて十五分だそうで、二人で向かった。教会に着くと、関係者らしき人が二人立っている。俺と前田が、教会の前で待とうとすると、いきなり「まだ時間前だからここに立っていちゃ駄目だ!」と怒鳴られた。きっと近所から苦情が来るのだろう。
前田が、「裏に公園があるのでそこで待ちましょう。」と、言うのでついて行った。
公園に着くと、見た顔がいる。そうだ、昨日炊き出しで前田が声をかけられ知り合ったと言っていた斎藤というホームレスの男だ。斎藤は五人の男たちの輪に混じり立ち話をしている。目が合うと軽く会釈して俺と前田は公園内のベンチに腰かけた。
公園では町内会の人達がボランティアで掃除をしている。
俺たちを横目でチラチラ見ながら掃除をしている顔は、何か汚いモノを見る様な感じだ。ベンチに座る俺達のギリギリをホウキで掃いているその目は、そこをどけと言わんばかりだ。
ちょっと離れた所にいる斎藤達は、煙草を吹かしそれをポーンと投げ捨てている。それを町内会の人がホウキで掃除している。これでは嫌われて当然だ。俺は、同じ仲間だと思われていると思うと気分が悪くなった。
午前九時四十五分から教会の入室が始まる。
時間になり、受付を済ませ、靴を脱ぎ教会の中に入った。小さな教会で礼拝堂はステンドグラスも無く、正面に大きな十字架が掲げてある。五十人も入れば満員だろう。プログラムを渡され席についた。
午前十時半、礼拝が始まる。席は満員で座り切れず、パイプ椅子を出し五人程それに腰かけた。
司会は、伝道師の鈴木さん。全員起立して黙祷から始まった。それからパイプオルガンの生演奏で賛美歌を歌う。終わると起立したまま交読文で、イエス・キリストの最も有名な山上の垂訓でマタイ伝五章を読む。
「幸いなるかな心の貧しき者、天国はその人のものなり」から始まる新約聖書だ。幸いなるかな~を伝道師の鈴木さんが読み、後半の天国は~を参加者が読む。俺は初参加なのでどうして良いかわからず黙って聞いていた。
それが終わると、起立をしたまま「主の祈り」を読む。「天にまします我らの父よ」から始まるやつだ。
終わると全員着席して聖書の朗読が始まる。
これも、伝道師の鈴木さんが読んだ。ローマの使徒への手紙、八章二十四節~三十節だ。
朗読が終わると、全員起立して祈祷。その次に賛美歌を歌う。そして全員着席。
これの後、「祈りとは何か」と言う題名で牧師の藤原さんが説教を始めた。これが一番強烈で辛かった。手にはカンペを持ち、大声を張り上げ、棒読みで感情が無く、何を話しているのか分からない。
牧師の藤原さんは女性で歳は七十くらいだろうか。俺は懸命に聞くが全く意味不明だ。隣に座る前田を見ると、スースーと寝息を立ててる。席を見渡すとさらに驚いた。ほぼ全員目を閉じ寝ているのだ。
この説教が延々と二十分続いた。教会での説教のイメージは、牧師が参加者に優しく語りかけ、聖書を分かり易く教えるものだと思っていた。俺のイメージがガラガラと音を立て完全に崩れた。
ようやく説教が終わると全員起立して、祈祷、黙祷。賛美歌を歌い全員着席。
そして全員に小さな紙の小袋が配られた。
献身と呼ばれるお布施みたいなものだ。
俺は聞いていない。前田からは「無料でご飯が食べられる」とだけ聞いて来たのだ。これは斎藤が前田に教えたのだろうか。お金は入れなくて良いと。俺も確かに金が無い。もたもたしていると、献身の回収が始まった。
男女一人ずつ名前を呼ばれ、前に出るとかごを持ち、紙袋を集め始めた。女の子は若いダウン症の人だ。一生懸命に集めている。
俺は結局、お金を入れず空で出した。前田は悪びれず当然の様な顔をしている。俺は申し訳無い気持ちで一杯になった。
最後に、全員起立して、頌栄と言う賛美歌の様な歌を歌った。
祝祷、そして黙祷。
礼拝の全てのプログラムが終了した。
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