第11話 前田のアパートへ訪問

 炊き出しの終わったあと、俺は歩いて行けるという前田の新居に遊びに行く事にした。途中、コンビニで缶チューハイ二本とコーラ二リットル一本、ポップコーンを買った。お金は俺が出した。


 前田のアパートに着き、部屋に入ると布団がひきっぱなしで枕元にトイレットペーパーとエロ本が数冊置いてある。


 お金が無いと言い、家電製品が一つも無い。それどころかお湯を沸かす鍋も無いのだ。パチンコで負けた八万円が有れば、必要最低限の家電や鍋は揃えられただろう。ユニットバスで部屋は十畳あるという。

 

 取りあえず、缶チューハイで乾杯した。前田はまだ三十七歳で若い。


 俺は枕元にあるトイレットペーパーとエロ本を指差し「毎日してるのか?」と、聞くと「ハイ!やり過ぎで腰が痛いです。」と答えた。


 生活保護者の利用している寮にいる時は、人目が気になり思い切り自慰行為が出来なかったが、今は思う存分出来ると言った。

 

 元奥さんと子供の話になると、前田という人間の性癖があらわになった。具体的にどこでどういうセックスをしたという話を自慢げにした。


 子供の出来た理由も、友達が女は生理前だと生でやっても妊娠しないと聞き、試しに真似したら一発で妊娠したと話した。驚いた前田は元奥さんに子供をおろす様に願ったが、聞き入れられず産む事にして、結婚式も挙げず籍だけ入れたらしい。

 

 子供が産まれると一人、逃げる様に地方の工場に住み込みで入社して寮生活を二年した。元奥さんは、地元を離れるのを拒み一人で子供を育てた。結局、親子一つ屋根の下で生活する事が無かったらしい。

 

 淡々と話す前田を見て少しイラっとした。

 

(ノン、薬の時間だよ)

 咲の心の声が聞こえ、時間を見ると午後八時を過ぎていた。


 明日の日曜日はキリスト教会だ。前田と打ち合わせ、午前九時にコンビニで待ち合わせる事にした。炊き出しで貰ったパンは前田にあげた。


 俺は部屋を出て帰りのバス停へ急いだ。

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