第5話 少女の名は咲

【ここから龍神昇視線です】



 時間は午後三時だ。二人でバスに乗り、駅近の洋品店に行った。


 ブカブカのジャンバーを身にまとったマチルダは、美人でとても目立ち人目をひいた。下着を買う時、ブラジャーもすぐに必要になるからとせがまれ購入した。服もすぐに成長して着られなくなると言い大きめのサイズにした。着替え用に服を3着買った。


 買った服を試着室で着替えさせた。さすがにまだブラの必要は無かった。合計三万円弱かかった。作業所通いの俺としては手痛い出費だ。


 心の中でつぶやいているとマチルダは突然心の声で話かけてくる。

(ありがとう、龍)


 ほらね。でも幻聴よりましかな。俺はマチルダと、暗くなりライトアップされた繁華街を歩いた。


 心の声の会話が続く。

(呼び名だけど日本人なのにマチルダっておかしいよね。)と俺。


(じゃあ龍がつけてよ。)


(咲、というのはどう?華やかな人生が咲くって言う意味でサキ。)と俺。


(じゃあ、龍神咲だね。今からあたしを咲と呼んで。あたしは龍をノンと呼ぶわ。知ってるのよ、あなたが身内にノンって呼ばれてるの。あたしも身内だから良いよね。)


 こちらを見て微笑む咲を見て、何て可愛い子なのだと思う気持ちと、何て不釣り合いな組み合わせなのだろうと思う気持ちが俺の中で交差した。


 家に帰ると午後七時を過ぎていた。咲は買った服の値札を取りクローゼットの空いている場所にしまい込んだ。どこで覚えたのかとても手際が良い。

 

「あたしが黒猫の時は今まで通りマチルダと呼んで。人になれる秘密を、ノン以外に知られると二度と咲になれなくなるから十分に注意してね。ご飯はミルクじゃなくて、カリカリのもので大丈夫だから。おトイレのお掃除もよろしくね!」

 

「はい!」と気合を入れると稲妻が光り、咲は黒猫のマチルダになった。


 俺は、まるで夢を見てる様だった。今日はまだ月曜日だ。長い一週間になりそうだ。自炊にしようと決めたのに、今日もほか弁を買ってしまった。


 飲みかけの缶チューハイを口にして、ほか弁を食べながらマチルダを見ると、疲れたのか俺のベッドに横たわっている。心の声も聞こえない。


 歯を磨き、寝る前の精神薬を飲み、寝床についた。マチルダは俺の首元でゴロゴロと言って甘えている。


 守るべきパートナーが出来た思いがして、幸せを感じながら眠りについた。

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