第2話 夢

 翌朝、あたしはお乳をもらい、龍は作業所に出かけた。作業所は午後二時に終わるそうで二時半には家に帰り、それからあたしを動物病院に連れて行くそうだ。


 昨日、龍に拾われたが、もう何年も一緒にいる感じがする。


 龍は精神障害者の二級に認定されているらしいが、人間の世界では偏見と差別で生きるのがかなりきついらしい。龍はいつも死にたいと考えていて、あたしとしてもとても辛く悲しい。


 龍が作業所を終え家に帰って来た。


 あたしにお乳を飲ませ、どこから持って来たのかペット用のかごにあたしを入れ、自転車に乗り動物病院に向かった。予防注射を打たれたが、健康には問題無く検査は無事終わった。


 家に帰ると龍は風呂に入り、まだ早い時間なのに唐揚げをつまみにお酒を飲んでいる。精神薬とお酒の相性は、悪くはないのだろうか。寂しさを紛らわす為かもしれないけど心配だ。


 昨日からあたしがいるのだ。龍に早死にされたらあたしが困る。あたしは三十歳まで生きると、天の神様のお墨付きなのだ。


 龍にあたしが心で会話が出来る事を早く教えたい。それにはあたしが幼すぎる。あたしの本領発揮出来るのは半年後だ。それまでに龍の事を知り、自殺願望を消し去るのだ。


 あたしは龍の夢に出る様に試みた。黒猫のマチルダが少女に変身して龍に語りかける。


(リュウ、あなたの一番欲しいモノは愛情でしょう。お酒を止める事を条件に、このあたしをあなたに捧げましょう。これからは毎日ミルクを飲みなさい。心も体も健康になるわ)


 龍が「はっ」と目を覚ますと、幼い黒猫のあたしが首元で寝ている。


(何だかまずいな。結構リアルな夢だけど妄想癖が出て来たのかな?今週末はメンタルクリニックの診察日だから十文字さんに相談しよう。)


 夢とはいえ、あたしが少女に化けたのが余程驚いたと見える。時間はたっぷりある。龍に生きる希望を持たせるのだ。そしてお酒を止めさせるのだ。


 龍は週末になると、メンタルクリニックの診察に出かけた。担当の十文字さんに相談してみた。


「幼い黒猫を拾い、一緒に暮らす様になったのですが、龍と僕の名を呼ぶ声が聞こえたり、かなりリアルな夢でお酒を止める様にしなさいとか言われたり。これって入院レベルの症状ですか?」


 その問いに

「生き物と一緒に暮らすのは、生活リズムが変化する事だからね。辛いなら里親募集で引き取り手を探す事だね。まだ入院する段階では無いと思うよ。子猫とはいえ、命が宿っているのだから大切に育てられると良いね。」


 龍は十文字さんのアドバイスを聞き、しばらくあたしと暮らす道を選んだ。


 あたしは家で、龍の言葉を遠くから聞き分けていた。龍が引き続きあたしと暮らす事を決めた時、嬉しくて泣いた。


 精神病に勝った気がした。


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