心の方程式
龍神 昇
第1章 つながった絆
第1話 出逢い
あたしは今日、産み落とされた。
生まれて来た喜びに大声で泣いた。
とても強い解放感に酔いしれ、これから始まる物語に期待して胸を躍らせた。
「ニャーニャー」
そう、あたしは野良猫を親として持つメスの黒猫だ。生まれたばかりのあたしに、ママはお乳をくれた。その日暮らしの野良猫なのにとても強い愛情を感じた。
しかし幸せは突然壊された。人間の野良猫狩りだ。ママは逃げてしまい、あたしだけ取り残された。ママとは十日位しか一緒に生活出来なかった。
人間に捕われず、草陰に取り残されたあたしには生きて行く術が無い。人間に拾われるのは恐怖でしかない。もう死んでしまうしかないのか?
そんな時、男の声を聞いた。
(子猫がいるぞ。親とはぐれたのか?)
「ニャー?」
あたしは耳を疑った。男の心の声が聞こえ、話してる言葉が分かるのだ。しかも感情まで手に取る様に分かるのだ。
男はあたしを手のひらに乗せるとじっと見つめ、コートのポケットに忍ばせた。
(静かにしていろよ)
男はスーパーのペットショップに入り哺乳瓶とミルク、そしてトイレ用の砂を買った。
あたしは男の心の声に従い、おとなしくしていた。男はあたしをどうするのだろう。悪い男では無いようだし、このままついて行くしかない。季節は冬でとても寒い。この男に賭けよう。
家に着くとポケットからあたしを取り出して、風呂場に連れて行き突然洗い出したので驚いた。
「ニャー!ニャー!」
抵抗するが、なす術が無い。男はタオルであたしを綺麗に拭いてくれた。ミルクの箱に書いてある説明書を見ながら、あたしのお乳をこしらえている。出来たお乳を哺乳瓶に入れ、優しくあたしに飲ませてくれた。
男がつぶやく。
「俺の部屋はペット禁止なんだよな。兄貴に見つかったら里親募集に出すか。明日、動物病院で検査してもらったら俺の相棒にしてあげるから。よろしくな。」
そしてこの時知った。人には一人一人に守護霊が片時も離れず寄り添っていて、その人が行った事、言動、心で感じつぶやいた事、その全てを記録し、この世を生き抜いて死んだ後、天の神様の裁きを受ける事を。人間だけに授けられた重い責任を負って日々生きていると云う事を。あたしは天の神様の声を聞いた。この男と生きて行くと云う事を。
あたしは男の守護霊に生い立ちを尋ねた。
男の名は、
龍神の守護霊と話し、あたしは泣いていた。
(なんて哀しい男なんだ。)
龍神はあたしを膝の上に乗せパソコンを操作している。自然と喉がゴロゴロと鳴り甘えさせてもらう。
(お互いに癒し癒される関係になれたらいいな。よろしくね龍神。)
(この黒猫名前何にしよう。女の子だし映画レオンのヒロイン、マチルダが良いな。)
「子猫ちゃん、君の名はマチルダだよ。俺の事は龍と呼んでくれ。」
(了解です、龍)
龍は風呂に入り、夕食にほか弁を食べながら缶チューハイを飲んだ。
寝る前の精神薬は十錠ある。龍はそれを飲むと溜息をついた。
(薬は止められない。副作用が強すぎて恐ろしくなる。俺には何も無い。俺が死んで困る者はいない。)
あたしは龍に心の声を送った。
(リュウ)
龍はまるで幻聴でも聞いたかのように驚き目を丸くしてあたしを見た。
「マチルダ、いたずらはやめよう。俺を精神病院に送りたいのかい?あそこはヤバい所だから。」
龍に話しかけるのはまだ早いので止めておく事にした。こんな事で精神病院に入院されたら元も子もない。
(幼いあたしが成長したら龍の本当に欲しいモノをあげたい。お楽しみはこれからだ。龍にすぐ追いつくからね。)
夜になり龍はベッドに横になった。あたしの寝床を作ってくれたが寂しくて眠れない。
龍のベッドに忍び込み、首元に丸くなり甘えながら眠りについた。
幸せを感じながら……。
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