堕天四姉妹×ゲーマーズ
「……ということがあった。俺の勝手な想像に過ぎないかもしれない、それでも俺は絶対に負けない。だから、本当にすまない」
「に、兄さん……」
宮田との談話を切り上げ、俺は楽屋に戻ってすぐに土下座をした。
そんな俺の行動に涼音と旋梨ちゃんはびっくり仰天、からの説明を求められた。
俺は洗いざらい、宮田を誘い込むことが出来たものの、引き受ける条件の中に涼音を巻き込んでしまったことを話した。
すると涼音は少し困った感じの様子で、土下座する俺の前で屈んだ。
「兄さん、顔を上げて……? 私、別に怒ってないから……。それよりも、宮田さんになにもされていない……?」
「あぁ、この通り特には。けど、怒ってないとはいえ独自の判断で涼音を危険に晒してしまっている事実は変わらない。だから、これぐらいの謝罪だけはさせてほしい」
「ううん、本当に大丈夫だよ……。それに私は兄さんを信じているから……。だから、顔を上げてほしいな……」
涼音の言葉に、俺は頭を上げる。そこには優しい笑みを浮かべる涼音の姿があった。
「それにしても、宮田マネージャーはやっぱり一筋縄じゃいかんかったとね……。まさか、鈴音ちゃんまで……」
「私は別に大丈夫だよ……。でも、兄さんに負担が凄く掛かっちゃうのが、すごく心配……」
確かに負担はより大きく掛かる。
瀬川さんから日程の連絡が来るまでに、提案した企画に不足している人数集めや、様々なジャンルに応じたゲーム練習。
それだけでなく涼音や旋梨ちゃん、DreamLifeの公式Twitterにて宣伝をしなくてはならない。
まぁそこに関しては夏のコラボ企画と称せば問題はないだろう。
「ゆうにぃ、午後の配信は16時からやけん。それも私と涼音ちゃんのコラボ配信、開始自体は同じばい。やけん、今のうちに息抜きしたほうが思うとね」
「まぁ、確かに配信の時間まではまだある。けど息抜きなんて、なにをすれば……」
海斗と遊びに出かけるとしても、あいつは仕事で忙しい。
ゲームでも……と思ったが、そんな気分にはなれない。
旋梨ちゃんの気遣いとも言える提案に悩んでいると、涼音がもじもじとしながら俺の方をチラチラと見てきた。
「んあっ、どうした?」
「あ、あのね……。最近兄さん、旋梨さんの件やマネージャーとしての仕事で忙しくしてて、私に構ってくれる時間が、その……少なくなったというか……」
「あ〜……確かに実家に居た頃と比べると確かにそうだな……」
「だ、だから……あのね……。特に予定とかないなら、デートとか……してくれないかな……」
椅子に座りスマホでなにか息抜きできる相手やゲームのアプリを探していると、涼音からデートに誘われた。
その言葉に俺はさりげなく検索で『デートとは』と調べた。
すると初めて知ったのだが、別に付き合ってなくても成立するそうだ。
「デート、かぁ……。俺そういうのよくわからないけど、行きたい所とかあるのか?」
「に、兄さんと一緒なら私は……。えっと、旋梨さん行きたい所とか、あるかな……?」
「んー、そうやけんねぇ……」
「ちょいちょい!? 待ってくれ! えっ、涼音だけじゃないの? えっ?」
「……? もちろん、旋梨さんも一緒だよ……?」
てっきり涼音と二人でデートかと思いきや、まさかの旋梨ちゃんもだった。
俺が困惑していると、涼音の隣に座る旋梨ちゃんがしょんぼりと、そしてうるうるとした目で見つめてくる。
「ゆうにぃ、だめ……?」
「いや……大丈夫だ……」
「ッ! ふふっ、やったけん」
どうもまぁ、幸せそうな表情。
断ることもできず、涼音と旋梨ちゃんとデートする事に決定した。
しかし俺は知っている。この手の話題に敏感なのが居るということ。
コンコン……。
ノックされるドア。頭に浮かぶのは赤髪のパンツマン……。
俺も、ついにはエスパー能力を手に入れてしまったようで。
どうせ開けた矢先に、ロックンロール!!と叫び散らかすのだろう。
もはや予想ができると考えた末に、俺はドアを開けて構えた。
「やっほ、裕也さん。なんかこっちの方で面白そうなときめきを感じてな? 通りかかるついでに寄ったんよ!」
「いや、鳴海ちゃんかい!!」
「ほえ?」
俺の期待は裏切られた。
いや、別に鳴海ちゃんは翔太くんと比べると一段マシに見えるからいいけども!
「すまないね、裕也くん。午前の配信が終わって楽屋に戻る道中だったんだが、楓がなにかを嗅ぎつけたようで」
遅れて八神さんも現れる。
俺は目をキラキラと輝かせる鳴海ちゃんと、それを止めようとする八神さんを見ながら、なんでもないと言い逃れしようとした。
だが両脇にそれぞれ涼音と旋梨ちゃんが顔を出して、鳴海ちゃんと挨拶を交わした。
「私たち今からデートするけん。鳴海先輩、邪魔しないでほしいばい」
「えっ、デートするん!? ええやん、うちも混ざりたいやんな!」
「こらこら、君にはまだやることがあるだろう。残念だが、許可はできない」
「えぇ!? 八神さんのいけずやなぁ!!」
ノリノリな鳴海ちゃんの首根っこを掴み、静かに咎める八神さん。
顔合わせた時、ウインクをされた。どうやら、気遣って貰えたくれたようだ。
「しかし、次のスケジュールまで時間はある。多少の雑談程度なら許可しよう」
「むぅ……。仕方ないからそれで許したる。じゃあ二人とも、少しだけ話そ!」
まぁそれぐらいならと、俺は鳴海ちゃんを楽屋に招いた。
二人の腕を引いて進む鳴海ちゃんに続こうとした時、八神さんに肩を叩かれた。
「裕也くん、ちょっと話がある。いいかね?」
「……わかりました、ちょっと涼音たちに一言だけ掛けてきます」
なにやら真剣な表情で話したいことがあると言う八神さんに、俺は涼音たちに声を掛け、少し席を外すと伝えた。
俺と八神さんはエレベーターのあるホールまで移動し、そこにある椅子に座った。
「すまないね、裕也くん」
「いえ、大丈夫です。それでなにかあったんですか?」
「君、午前で宮田くんと談話したそうだね。瀬川くんから連絡があったのだよ」
「はははっ、瀬川さんは本当に連絡が早い人ですね。……えぇ、話をしてきました。結果的に言えば誘うことはできました。ただ……」
「ただ、なにかね?」
「奴の抱くVTuberに対する価値観、そして思想感はかなりねじ曲がっていました……」
談話での出来事を俺は八神さんに話した。
何一つ、理解しかねないその思想。そして、救いようのない価値観。
間近で感じる不気味さと得体の知れない考えに末恐ろしい部分があるということ。
「なるほど、そんなことが……。しかし、それでも成果を出しているのが実に皮肉だな。彼よりも弟さんの方が実に立派だというのに」
「えっ、宮田マネージャーって弟いるんですか!?」
「あぁ、ミライバの派系先である子会社、アスノテというVTuber支援会社があるのだよ。ここと比べたら小さいがね」
「ミライバってそんなに凄い会社だったんですね……。ちなみに、その弟さんと知り合いなんですか?」
「過去に楓と用事で出向いた時があってね。その時にアスノテを案内してくれたのが弟の宮田翔斗だったのだよ。彼はアスノテで瀬川くんと同じ立場、マネージャーの取締役をしているそうだ」
VTuber支援会社【アスノテ】。
ここよりは数少なく、会社も小さいものであるが、新人VTuberの採用率は非常に高く、その会社の制度も極めてVTuberに対して定められているとのこと。
そこではVTuberを一期生や二期生と言ったような形で上下の制度を儲けているらしい。
そしてそんなアスノテのマネージャーの取締役をしているのが、宮田の弟さん。
兄とは違い、善良な方とのこと。アスノテからミライバへ移転するように指示が出たこともあったらしいが、兄である宮田が居るという理由だけで断ったそうだ。
「翔斗くんは兄である彼と極めて仲も悪く、根本的に考えがそぐわないらしい。フフッ、君も一度翔斗くんを見れば、納得するだろうな。さて、そろそろ本題に移ろうか。君が提案した企画、すなわちゲームをメインとした勝負事だ。となると相手の情報は少しでもあったほうが、策を考える上で楽になるのではないか?」
「そうですね……、一応ですが四人で1チームとしてジャンルに沿って一対一で事進めていこうかなと思ってますので」
とはいえ、こちらには今のところ旋梨ちゃんと鳴海ちゃんしか居ない。
残りの二人をどうするかを悩むが、それ以前に相手の情報を知るのは良いことだ。
「宮田くんの担当するVTuberである彼女たちを見たなら、名前を見れば誰なのか薄らとわかるだろう。そこで、彼女たちの情報をまとめた資料を君に渡そう」
「えっ?」
手提げカバンから、書類の入った封筒を俺に渡してくる。
それを受け取り、中身を確認してみると宮田の楽屋で会った彼女たちのVTuber活動やプロフィールが記載されていた。
「個人情報ではないから安心したまえ。彼女たちの活動傾向、及びVTuberとしてのプロフィールが書かれているものだからね。ホームページを通せば見れるが、この方がいいかと思ってね」
「凄いですね……。ちょっと今、目を通しても大丈夫ですかね」
「うむ、構わない」
俺は八神さんに許可を頂き、まずは渡された資料の簡易的な部分にだけ目を通す。
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【※神崎夏目】
名前:クロナ 種族:堕天使(長女)
登録者数:69万人
所属:ゲーマーズ
得意ジャンル:アクションゲーム
【※柊真奈】
名前:セレナ 種族:堕天使(次女)
登録者数:54万人
所属:ゲーマーズ
得意ジャンル:パズルゲーム
【※沢田やよい】
名前:ヨルナ 種族:堕天使(三女)
登録者数:58万人
所属:ゲーマーズ
得意ジャンル:音楽ゲーム
【※エカチェリーナ】
名前:エリナ 種族:堕天使(四女)
登録者数:72万人
所属:ゲーマーズ
得意ジャンル:全般
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「大丈夫かね、裕也くん」
「……ッ」
なっ……なんじゃこりゃあ!?
VTuberの設定よりもこの所属してるゲーマーズってなんぞや!?
えっ、もしかしてこの手のプロ?
勝ち目なくねぇか?
「や、八神さん……。ゲーマーズって、ナンデスカ?」
「やはりそこが引っかかったかね。うむ、現実を見るのも大事だ。そのままの通り、彼女たちはゲームのプロ集団なのだよ。愛くるしい見た目に反して、ガチ勢というやつさ」
「俺、終わったかもしれねぇ……」
四枚の資料に目を通す度、現実を受け入れることが出来ず落胆する。
というかあの見た目でゲームガチ勢、それも女性プレイヤーってどういうことだよ。
ギャップ萌えの領域展開じゃねえか……。
「けど、深く考えたって仕方ない……か。今はこの資料にある情報を頼りに策を練る以外なにもできないし……。八神さん、資料ありがとうございます」
「私にできることはこれぐらいだ。感謝されるほどのことでもないさ。しかし楓はパズルゲームが得意でね、ぷ○ぷ○やテト○スはランキング上位に入るぐらいだ。それを考えると、楓の相手は真奈くんにするといいだろう」
「ジャンルで言えばそうですね。音楽ゲームに関しても、こっちには旋梨ちゃんが心強いのでやよいさんと対立させると考えた方が無難かもしれませんね。ただ問題は空席の二人……か」
きっと宮田のことだ。
自分が担当するVTuberの得意ジャンルで挑んでくるのは目に見える。
一応、瀬川さんには宮田の意見も取り入れてジャンルは定めるとも言ってあるし。
予想外なのはゲーム集団だったということに加えて、それぞれが得意ジャンルを持っている。
鳴海ちゃんがパズルゲーム。
そして、旋梨ちゃんが音楽ゲーム。
唯一の救いとしてそこだけは確定で決まっていることだろうな。
「おっと、すまない。そろそろ楓を連れて次の予定に向けて打ち合わせをしなければならない時間のようだ。私はこれにて失礼するよ」
「あっ、こちらこそ長々とすみません。ありがとうございました」
「気にすることはない。雀の涙程度の情報しか渡せないが、それでも何かの足しになれたら光栄というものだよ」
八神さんに時間が来たということで、楽屋へ戻ることにした。
そこで楽しげに話していた鳴海ちゃんに声を掛けて、やがて別れを惜しみながらも鳴海ちゃんは八神さんと次の予定へと向かった。
頭の中で交差する悩み。
しかしこういう時だからこそ、旋梨ちゃんが提案してくれた息抜きをするべきなのだろう。
「涼音、旋梨ちゃん。準備しな。昼は外食で好きなもの食いに行って、色々周って息抜きしよう」
俺の言葉に二人は頷き、すぐに支度する。
八神さんから渡された書類を引き出しにしまい込み、俺も準備をしたーー。
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