俺とVTuber達の作戦会議









 親父からアドバイスを受け、完成したラーメンを皆に提供した。より力を、そして気持ちを込めて作ったからなのか、自信があった。

 

 元気よくいただきます!と翔太くんに続いて、全員が口にラーメンを啜った。

 しばらく味を噛み締め、スープを一口。口に合っているだろうかと少し不安にもなったが、わなわなと翔太くんが震えだし叫んだ。


「うっ……美味ええええええええええええええええええええええええええッ!!!」


「ん〜! 幸せやけん〜!!」


「うむ、彼らの言う通りこれは絶品だ。コクの効いたスープに、程よい麺のコシ……。いやはや、病みつきになってしまうというものだな」


「これをタダなんて、もったいないぐらい美味しいです!!」


「裕也と親父さん、相変わらず美味いもん作るよなぁ」


 全員がそれぞれ感想を言っていき、笑顔で食べてくれた。

 俺と親父はそんな全員の幸せを感じ取りながらも、手の甲でハイタッチをした。


 それから昼食を取り終えた後。片付けをして俺とVTuber組は二階にある部屋へ。

 親父と奏さんは遠藤さんと八神さん、そして海斗と話すことがあると言って、二つのグループに分かれた。


 てっきり女子組と男子組で分かれるのかと思いきや、全員俺の部屋に集まった。

 別に入られて困るような部屋じゃない為いいのだが、入ると同時に翔太くんは一目散に俺のベッド下を覗き込んだ。


「ちょっとお兄ちゃん! なにをしてるの!?」


「いや……神代の兄貴もちゃんと男なのかと思ってエロ本探してるんだけど、無いなぁ……」


「ンなもんねぇよ、なにやってんだバカ」


「痛い!?」


 うつ伏せになっている翔太くんのケツを軽く蹴り、俺はデスクトップが置かれているテーブルの前の椅子に座った。


 部屋にしてはそこそこの広さがある為に、6人が居ても狭さは感じない。

 俺は涼音に棚の間に挟んである折りたたみ式のテーブルを使っていいと言った。


「よいしょ……。んっ、旋梨さん……?」


「これがお兄さんの寝てる……ベッド……!」


「ッ! だ、だめ……!」


「もう遅いば〜い!」


「「「ッ!?」」」


 涼音が言われた通りにテーブルを設置したその時、旋梨ちゃんは俺の使用しているベッドに向かってダイブした。


 そんな彼女の行動に、翔太くんと恵果ちゃん、そして鳴海ちゃんの三人はギョッとする。


「んふふ〜!」


「離れて、旋梨さん……!」


 頬を膨らませながらベッドでじたばたする旋梨ちゃんに、涼音は引き離そうとする。

 しかし離れる気は毛頭ないようで、そのまま涼音の腕を掴んで引きずり込んだ。


「ふあぁ……!?」


「二人で使えば問題ないとね?」


「そ、そういうことじゃ……!」


「神代の兄貴、目の前で起きている状況になにか一言を」


「……ノーコメント」


「前から思ってたんですけど、旋梨さんってお兄ちゃんには厳しいのに、裕也さんには凄く懐いてますよね。付き合ってるんですか?」


「これからそうなる予定やけん」


「ち、違うもん……!!」


「あらぁ、これは修羅場になりそうやねぇ」


 エアーマイクを近付けてくる翔太くんの手を払い退け、俺はデスクトップを起動させる。

 恵果ちゃんの爆弾発言にアホなことを言い出す旋梨ちゃんと、否定する鈴音。


 そして何故かワクワクというか、ウキウキしている鳴海ちゃん。


「けど実際どうなんスか? 旋梨さんはともかくとして、涼音もなんか神代の兄貴に気があるような感じ出しまくってるけど」


「確かにそれ気になるわぁ。さっきも旋梨ちゃんに対して対抗してたみたいやし、もしかして禁断の恋ってものなん?」


「……説明すると長くなるからノーコメントで」


「なるほど、神代の兄貴は二股しているということで認知するしかないっスね」


「おい待てコラッ」


「はっきりせんと男として情けないで?」


「お前らはどうしても恋バナしたいのかよ。めんどくせぇな」


 起動させたデスクトップで動画サイトのページを開き、音楽を流す。

 問い詰めというなの尋問が始まり、しつこくどうなのかと聞かれる始末。


「旋梨ちゃんには悪いが、俺の中では涼音って決めてる。それだけだ」


「えっ!? でも、涼音ちゃんって妹なんですよね……?」


「妹って言っても、義理のな。だから好きになっても、ギリ許されるんじゃねえの」


「なんちゅう適当なことを言うねん。まぁハッキリしてるならいいとは思うけど、旋梨ちゃんが報われへんなぁ」


「あっ、私は涼音ちゃんが義妹ってこともお兄さんが涼音ちゃんを好きってことは知ってるばい」


「えっ、知ってんスか!? 知ってて神代の兄貴のこと好きなんスか!?」


「そんなのもちろんやけん。それも涼音ちゃんとは正式のライバルたい。欲しいものは手に入れる主義やけん、奪えばよかと」


「意外にも肉食だった……。けど、まさかお二人とも義兄妹だったんですね。ちょっと気になるんですけど、聞いても大丈夫ですか?」


「んあっ、まぁ恵果ちゃんたちには仲良くしてもらってるし、別にいいけど長くなるぞ?」


 それでもいいならと聞いてみると、寧ろ俺と涼音のことを知りたいと言って頷いてきた。

 だから俺は涼音と交互に自分たちのことを深く話をした。


 俺の過去、鈴音の過去。それらに加え再婚してからの出来事や、今に至るまでの出来事。

 前までだったら話すのも互いに辛かった出来事だったが、今は違う。


 その証拠に涼音もすっかりと皆を信用しているのか、弱々しい赴きというよりかは既に吹っ切れているような話し方だった。


数十分と俺たちのことを話した後ーー。


「うっ……えぐっ……! そんなことがありながらも、神代の兄貴に涼音は……! オレ、ますます神代の兄貴に惚れちまうっス……!」


「汚ねぇなオイ、鼻水拭けや」


「うぅ……面目ねぇっス……! ズビー!!」


「いや、ほんとに汚いよお兄ちゃん」


「だって、だってよぉ……!」


 どこぞの謝罪会見をした議員みたく顔をぐちゃぐちゃにして泣き晴らす翔太くんに、俺は近くにあったティッシュを渡した。


「けど二人ともよく乗り越えられたもんやね。うちだったら立ち直るのに結構かかったかもしれへんのに」


「まぁほとんど気合いみたいなもんだったところあるけどな。けど後悔はもうしてねぇよ、それに今を楽しまなきゃ寧ろ損だしな」


「オレも兄貴なら同性でもイケる気がするっス」


「翔太くん、ちょっと黙っててくれる?」


 危ない発言に匂いを漂わせる翔太くんに、俺だけじゃなく恵果ちゃんすらドン引きしている。

 

 とまぁこんな感じでそれぞれが話して楽しんだ後、俺は本題に移ることにした。


「さて、そろそろ本題に入ろうと思う」


「本題ですか?」


「あぁ。この場の全員が既に知ってる現状の一つとして、宮田マネージャーに関することだ」


 宮田の名前を出した瞬間、全員の表情が一斉に豹変する。それはふざける様子を感じさせない真面目な表情。


 その中でも特に、旋梨ちゃんは被害者の一人である為に、曇った表情をしている。


「元々俺が実家に帰ってきた理由として、宮田に対して不気味な雰囲気、そして情けない話だが少し恐怖を感じたことから来る息抜き、そして親父に促されたからなんだ」


「不気味……確かにそうやね。裕也さんも思っているかもしれへんけど、あの男はまさに蛇。何を考えているのかが全く読めへん」


「それだけじゃないっスよ。これだけ悪い噂が流れていながらも余裕を見せるところが余計に怖いところなんスよね」


「翔太くんの言う通り、そこもやけに引っかかる所がある。まぁ俺も実際に奴と接触して一つの推測を立てたんだが、あの余裕は恐らく裏でなにか秘策を持っていると思うんだよ」


「兄さん……それって……」


「ほんとにこれはあくまで推測だが、恐らくミライバの社長が下手に手出しできない存在が宮田の背後に居る可能性がある」


俺の言葉に、全員が言葉を詰まらせる。


 どうも引っかかる部分として宮田もそうだが、なによりミライバの社長にも引っかかるところがあると俺は踏んだ。


 そりゃ会社としての売り上げに貢献している宮田の存在は大きいだろう。

 しかしその反面、社内にいる社員たちに悪い噂が流れている事実は確かにある。


 すれば必然的にミライバという会社そのものに汚点があると言っているようなものだ。

 だがそれでも確たる証拠が無ければどうすることもできないという社長の考えには、些か怪しいところがある。


 ミライバの社長が安易に手出しできない理由として考えられるのは、宮田の背後に居るであろう人物が社長同格の存在。


 もしくは汚いやり取りとして、宮田自身かその背後に居る存在による賄賂説……。


 どちらにせよ現状におけるミライバは変えなきゃいけないものであるのに変わりない。


「でも、これまで悪い噂だけが流れてるだけで誰も確たる証拠は集められなかったんですよね。となるとやっぱり、裕也さんの言うように賄賂とかで揉み消しにしてる……ってこともありえるのかもしれませんね」


「まぁ推測ではあるが、その可能性も少なからずあるってだけだな」


「じゃあ、証拠集めはやっぱり難しいと……?」


「旋梨ちゃんには申し訳ないけど、その選択をした場合どうしても時間が掛かりすぎる。その期間の間、必ずしも旋梨ちゃんの安全性を保証することができない。だからーー」


「「「「「だから……?」」」」」


「俺は奴を挑発して、誘い込もうと思う」


 俺の言葉に全員が首を傾げた。だからこそ分かりやすいように、俺はスケッチブックとペンを取り出して折り畳み式のテーブルの上に広げた。


「いいかお前ら、俺が言いたいことはつまりこういうことだ」


 スケッチブックに俺は全員に分かりやすくペンで書き記し、説明する。


 まず第一段階として、俺が宮田にあえて挑発する素振りをチラつかせる。

 だが一度接触した上で、宮田はその時点で警戒して探りを入れてくるだろう。


 だからこそ第二段階として、奴が俺の挑発に乗る燃料を投下する。

 それは表面上ごく普通のVTuberによるコラボ企画で、実際は俺と宮田の勝負だ。


 無論、新人である俺が企画を持ち込んだところでおかしな話だ。

 だからこそ瀬川さんの許可をもらう必要性がある。


 もし許可を貰えたなら、瀬川さんから許可を得たというこじつけが出来るからだ。

 此処に関しては心配する必要性が無い。きっと瀬川さんは協力してくれる。


 そして第三段階として、挑発に乗ってきた宮田と俺の間で交わす契約内容について。

 今現状で考えついているものとして、俺が勝負に勝てば宮田が自発的にマネージャーから降りて貰うことだ。


 逆に俺はそれに見合った対価として、それ以上のものを賭けなくてはならない。

 こちらが出せるカードとしては、旋梨ちゃんを宮田に預けることと、俺自身が今後一切関わらない為に会社を辞めることだ。


「奴は間違いなく旋梨ちゃんを欲する。その為ならきっと、こんなバカげた俺の挑発に乗ってくるはずだ。ただこれは俺が現状で思い付いている考えに過ぎない……。遠目で見てもこちら側のリスクが高い故、その中心となる旋梨ちゃんの意見を聞きたい」


「私は……」

 

 圧をかけないように、俺は決して視線を合わせることをせずに答えを待つ。

 対する翔太くんたちも、リスクを考えた上で簡単に頷けるものじゃなかった。


 だがそれでも、宮田を手っ取り早く旋梨ちゃんから引き離すには最適な作戦だと思う。

 過ぎる時間が長ければ長いほど、宮田はなにを考え仕掛けてくるかわからない。


 ならばこちら側から手を出す他は無く、仕掛ける必要性がある。


 旋梨ちゃんは深く考える。それが数分と続いたが、やがて口が開かれる。


「……長い期間を有して証拠を集めるその間、ずっと怖い思いをするのは耐えられないけん。だったらいっそのこと、早く解決したいばい。それに私はお兄さんを信じてるけん、きっとなんとかしてくれるって」


 その言葉、そして綺麗な瞳。儚くも決意に満ちた表情に、俺は微かに微笑む。


「あぁ、出来る限り……いや、絶対になんとかする。ありがとう、旋梨ちゃん」


「本人がそう言うんなら、この作戦は決行できそうやなぁ。けど、企画と言っても形上とはいえ視聴者らが盛り上がるようなもんにせんと、VTuberとして話にならへんよ?」


「鳴海ちゃんの言う通り、そうだよな。だからそこに関しても俺は頭の中で企画の内容を思い描いている」


「どんな企画なんスか?」


「ズバリ、企画に名前をつけるならこうだ」


【ミライバ対抗戦!

    DreamLife VS SmileRoad 】


「兄さん、これってつまり……!」


「俺が担当するVTuber、つまり涼音と旋梨ちゃんのDreamLifeと、宮田が担当するSmileRoadのVTuberによるチーム対抗戦を企画として考えている」


「なるほど、これは確かに面白いやんなぁ! もしこの勝負で勝てば、マネージャーとしての素質に対するプライドはへし折れるやろうし、三流と裕也さんを煽ってた言葉が返される……! それだけじゃない、視聴者を楽しませるゆう条件も満たされてるやん……!」


「対抗戦とあれば、オレたちVTuberの技術も然りマネージャーとして指示を出す側の素質も必要されたりするッスもんね。ただ視聴者からすれば単純にVTuberが楽しんでる様子しか伺えないし、これはいい提案かもしれないッスね」


「うーん、そうだけど……」


「どうした恵果ちゃん」


「裕也さんのところは鈴音ちゃんと旋梨先輩の二人に対して、確か宮田マネージャーのところは四人VTuberを担当しているんですよね……」


「……え“っ」


 そもそもの問題点を突いてきた恵果ちゃんに、俺は濁点の付いた驚きの声を上げる。

 鳴海ちゃんたちも『あ〜……』と、苦笑しながら思い出していた。


 瀬川さんから基本的に一人のマネージャーに三人のVTuberが〜と聞いていた為に、まさか宮田の野郎が4人も抱えていたとは……。


 立て続けに恵果ちゃんから、SmileRoadは涼音たちが所属しているDreamLifeに比べてVTuberが多いらしく、上限超えは普通とのこと。


「4人……4人、かぁ……」


「まぁでも深く考える必要性はあらへんと思うわぁ。足りへんなら足せばええだけのこと、宮田マネージャーにも人数合わせとして補充だけはすると言っても通用すると思うで。ちなみになんやけど、ジャンルと方式はどうするん?」


「ジャンルはゲームだな、その方が視聴者たちも白熱して楽しめるだろうし。勝負の方式としては1VS1の三本勝負にしようと考えている。ゲームの種類はまだだがな」


「お〜、ええやん。まぁゲームの種類は宮田マネージャーと打ち合わせするべきやな。こちらで決めるのはあまりにも向こうが不利やろうし」


「あぁ、そうするつもりだ。ちなみにだが、この中でゲームが得意って奴はどれくらい居る?」


 少し頭を抱える俺はふと聞いてみた。すると周りはそれぞれ顔を見合わせた後、ゲームを得意とする人だけが手を挙げた。


ーー旋梨ちゃんと、鳴海ちゃんだった。


……結局二人足りないんだよなぁ。


 5人中2人だけしか得意じゃないことを知った俺は苦笑しながら天井を見上げた。

 そんな俺の真っ白に燃え尽きたぜの雰囲気を感じ取った翔太くんが、ゆっくりとギターを手に取って和ませようとしてきた。


「えー……神代の兄貴が真っ白になってるということで元気にしたいと思います。聞いてください、Go To Pants」


「……ッ」


どんだけ気に入ってんだよ。


 ジャカジャカと弾き始め、デスボでは無く覇気のない声で歌い出す翔太くん。

 その場の全員がなんともいえない感情を抱きながらも、虚しさを感じた。


 俺の部屋全体に、パンツマンの歌声だけが悲しく響いたのであったーー。

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