ミライバ改革編

ヒントを求めるのなら身近な存在から






 宮田と衝突してから、約三日後。怪我をした右手も無事に治り、包帯を外した。

 握ったり開けたりと具合確認しながら、傷口こそは少しまだ残ってしまっているが、特に問題はないようだった。


 心配してくれていた涼音と旋梨ちゃんにも大丈夫というサインで見せてみたら、安心してくれたものの無理はしないよう強く言われた。


 そして今日は、二人のスケジュールは休みにしてある。というのも、今日は予定より早く実家の方へ帰るつもりだからだ。


 宮田を潰すと意気込んだはいいものの、準備こそ順調に進められたが、気持ち的に余裕が無いと海斗に促され、相談で親父に電話。


 事の次第を説明すると、親父からは一度帰ってこいとだけ言われてしまったわけだ。


「……それで、なぜお前らが居んの?」


「いやぁ、ほんと偶然ッスね! まさか都合良くオレたちも休暇日だったなんて!」



「本当にごめんなさい、私は止めたんです。でもお兄ちゃん、言う事聞かなくて……」


「いや赤城兄妹もそうなんだが、遠藤さんも別に着いてこなくていいのでは?」


「い、一応この子たちの両親方に保護者の代わりを任されていますので……。その、温かく目を瞑って下さると嬉しいです……」


 弱々しく、そして申し訳なさそうに謝ってくる遠藤さん。いや、まぁ確かに赤城兄妹……特に翔太くんの制御できるの恐らくこの人しか居ないだろうし仕方ない気はする。


 しかもこうなった理由としては、涼音がきっと休みである今日は実家に帰る、そしてその実家がラーメン店ということも含め、色々と教えてしまったからだろう。


 じゃなきゃ、翔太くんらが興味を示すわけもないんだよな。


「むぅ……兄さんの隣、座りたかった……」


「そう不貞腐れるなよ、涼音。一応遠藤さんは俺の上司に当たる人なんだから……」


「わ、私は別によかったんですよ!?」


「いいえ、そこはしっかりしますよ。それに涼音も、わかってくれるよな?」


「うん……」


「じゃあ間を取って私が隣に座るばい!」


「アホか」


 ちなみに乗っている車は贅沢にも黒のヴェ〇ファイアで、そこそこ余裕がある。

 後ろから旋梨ちゃんがなにか言ってるが、俺は一言で返す。


 三列目には赤城が、二列目に涼音と旋梨ちゃんで、助手席には遠藤さんという並びだ。


 運転する者として安全運転を心掛けている中で耳に付けていたBluetoothのイヤホンが着信を受信し、俺は応答する。


『もしもし、俺だけど』


「オレオレ詐欺は古いぞ、出直してこい」


『あ? 後ろから突っ込むぞコラッ』


 応答した先に聞こえてくるのは海斗の声。ふざけて始まる会話に、それを聞いていた遠藤さんたちは笑う。


『途中でパーキング寄るか?』


「あー、そうだな。ちょっとした菓子類や飲み物も買いたいし」


『了解。あっ、ちなみになんだが……』


「んあ?」


『……すんげぇ言いづらいんだけど、そして今更なんだけどよ。俺の車に八神さんと鳴海ちゃんも乗ってるから親父さんに人数付け足して報告しといてくれねぇか』


「……はぁ!?」


 俺の驚愕に、今度はその場の全員がビクッと身体を震わせた。


 どういうことなのかと聞いてみると、なんでも車を発進させる前に八神さんが運転席の窓から見つめていたという。


 何か用があるのかと聞いてみれば、なんでも俺のことを知りたいという事と、鳴海ちゃんの息抜き……つまりは鈴音たちとの交流を更に深めておきたいという理由だった。


 宮田を潰す計画に加担してる者として、俺を見定める必要があるのはわかる。

 しかし、実家にまで付いてくるとなると、あまり信用されてないのかと不安にもなる。


まぁけど、鳴海ちゃんも鈴音のことを気にかけたり、旋梨ちゃんの事情を聞いてなにか手伝えることがあればと積極的になってくれているから悪くは無いのかもしれない。


 それについてきてしまっている以上は途中で降ろすわけにもいかないし、俺は海斗に了解とだけ返して、途中のパーキングエリアで休憩を挟む間に親父へとメールした。


【親父、人数追加で。計8人ぐらいだ。世話になってる上司の方々も居るから、挨拶もしたいとのことで把握よろしく】


すると、すぐに連絡が返ってきた。


【8人!? 随分と大団円だなぁ! とりあえず奏にも伝えておく、気をつけて帰ってこいよ】


 そんな親父のメールを確認した後、道中で嗜む菓子や飲み物を買ってきた鈴音たち。

 俺は遠藤さんに一言だけ残し、海斗と合流して喫煙所へ。


「あれ、一本だけしか持ってねぇの?」


「涼音に管理されてんだよ。タバコの申請して許可が出れば吸える」


「ははははっ!! なんだそれ、妹に管理されるのは大笑いものだわ。嫌味ったらしく二本吸いしてやるわ」


「そのままさっさとくたばれ」


 口にタバコを咥えると、海斗がZIPPOを近付けて火を灯してきた。

 

 俺は先端を近付け、火をつける。そして海斗からZIPPOを受け取り、同じように先端へ火を灯して付けた。


「ふぅ……。それにしても、この短期間で色々なことが起きたもんだな」


「あぁ、そうだな。新人の立場でありながらやる事が多すぎる」


「宮田だっけか。話聞く限りでは、かなり手強いぞ。大丈夫なのか?」


「……正直、不気味で何を考えているのかわからない。自分の悪い噂自体、知ってるような素振りしてたしな。けどそれを理解していながら、大胆にも行動できるのは余程隠しきれる自信があるからだろうな」


「あ〜、間違いないな」


 互いに煙を吐き出しながら、宮田に対する対策を考え合う。

 一応、前に話していた木島 燐という人物の手を借り、あらゆる対策アイテムは手に入れた。


 今回は帰省するというのもあり、付けていないが、ミライバでの活動する際は常にボイスレコーダーを旋梨ちゃんには持って貰っている。


 それに加え、燐の自作である特殊な緊急用ボタンも預けてある。

 仕組みとしてはワンタッチで俺のスマホに位置情報を知らせるものだ。


 もしも一人の場を狙って宮田が旋梨ちゃんに接した時、スマホを取って助けを呼ぶ余裕はないと思われる。


 それ故に、とっさの判断で素早く緊急を知らせるアイテムだ。

 ちなみに製造方法は教えて貰えなかった。なんでも、企業秘密……みたく断られた。


「学生時代に宮田みたいな野郎が居たら殴って解決なのに、今は立場が違うもんなぁ。陥れるというのも新人である俺らが考えるのもおかしな話だが、生け簀かねぇのも違いない」


「それに、きっと宮田は俺がしようとしていることは全て見抜いている気がする。例えば旋梨ちゃんにボイスレコーダーを持たせて警戒させていることとかな……」


「けど、それだけでも行動に制限を掛けられるのは大きい。今は互いに冷戦状態、そして探り合いの真っ只中だろう。……はぁ、ほんとお前と関わってるとろくなことになんねぇな。いつも巻き添え、トラブルだ」


「俺は別に無理して付き合えなんて言ってねぇからな」


「……マブダチが困ってんのに、見てないふりできるかよ」


「自分で言って恥ずかしくなってんじゃねえよ、気持ち悪いな」


「うるせぇ」


 俺の起こす厄介事に、なんだかんだ付き合ってきてくれて来た。

 無理強いはしない俺の性格を唯一理解した上でそう判断してくれるのは、やはり本当の意味での親友だからなのだろうか。


 それからいつものように駄べり、バカな会話をして一服の時間が過ぎる。

 喫煙所から離れて互いに車の方へ戻ろうとした時、悲痛に満ちた誰かの声が響いた。


「ぜぇ……、ぜぇ……! だ、誰かその人を捕まえてくれええええええっ!!」


「ひったくりか……! おい、裕也!!」


「言われずともわかってらァ!!」


 翔太くんと同じぐらいの少年が、その場で膝を着きながらも指差しで犯人を示していた。

 俺はとっさに少年の方を海斗に任せ、俺は犯人の方へ走り、距離を詰めた。


 そして背後から思い切って抱きつき、念の為に怪我は負わせまいと自分が下敷きになる形で押さえ込んだ。


「は、離せッ!!」


「こんな朝っぱらから大勢の場でひったくりとはいい度胸してんじゃねえか! おい海斗! その子は無事か!?」


「なんだか呼吸が荒い状況だ! 恐らく喘息の発作かもしれない! ……そうか! 裕也! なんでも、その野郎が奪ったカバンの中に携帯吸入器があるみたいだ!」


「あァ!? ンなこと言ったって、こっちはこの野郎を抑えてねぇと……!!」


 じたばたと逃れようと足掻く犯人に、俺は地固めで逃げられないようにする。

 周りは騒然としているだけで、誰も手伝おうとすらしねぇ……!


つーか、写真撮ってんじゃねぇよ……!


 俺は仕方なしに片手を空け、すぐ側にあったカバンを雑に漁り、携帯吸入器を取り出す。

 そして俺はそのまま離れている海斗に向かって放り投げた。


「さんきゅ、裕也!!」


「礼はいいから早く警備員でもなんでも呼んでくれねぇか!? おい周りのアンタらもただ見てないで手伝うとかしろやァ!!」


 俺の怒号に、周りはたじろぐ。ただそれでも届いたのか、次々と男性たちが近付いてきては一斉に取り押さえる。


 それからしばらくして奥の方から女性が警察を連れて、走ってきた。


「君、大丈夫かい! よくやってくれた、後は私たちに任せてくれ!」


「じゃあお言葉に甘えてお願いします!」


 警察に犯人を引き渡し、俺は解放されてすぐにカバンを持って海斗の方へ向かった。

 すると俺が犯人を取り押さえている間に吸引することができたのだろう。


 少年は呼吸をゆっくり整えながらも、安堵のため息を吐いていた。


「おい、大丈夫か?」


「あ、はい……。おかげさまで、なんとか……。この度は本当にありがとうございます……」


 少年はカバンを大事そうに抱き締めながら、小さく頭を下げて礼を言ってきた。

 ひとまずという形で俺と海斗は少年を日陰になっているベンチの所まで誘導し、座らせた。


 その隣にある自動販売機で水を買い、少年にそれを差し出す。


「ネットやテレビでの知識だが、喘息は水を飲んだりして深呼吸がいいんだろ? 別に金は取らないから、これを飲みな。それと海斗、ちょっとこの子のこと頼むわ。車に戻って、待機してる涼音たちに事情を話してくる」


「互いに停めた場所遠いしな……。わかった、なら八神さん達にも事情を説明しておいてくれ」


「あぁ、じゃあちょっと行ってくる」


 俺は海斗にこの場を任せ、停めている車の方へ戻り鈴音たちに事情を説明した。

 海斗の言うように停めた場所が遠いだけに、事態に気付いてなかったようだ。


 それから犯行現場に関与したことで、俺と海斗と少年は事情聴取を受けた。

 事細かく、どういう経由でこうなったのかなど繊細に説明したせいで、予定より大幅に帰省する時間が遅れてしまった。


 一応親父にもこの事を連絡しておいた。しかし返信を見る暇もなかったので、警察の事情聴取に加えて少年が無事であることを確認して、すぐに車を発信させた。


 ちなみに後からではあるが、海斗によると少年の名前は天道 祐樹と言うらしい。

 しかも驚くことに、ミライバとは別のVTuberを支援する会社でVTuber活動をしているとのこと。


 まだ一年にも満たない新人VTuberとも言ってたみたいだが、それでもしっかりしているという印象があった。


 というか、別の会社のVTuber……か。ミライバ以外のライバーはどういった活動をしているのか気になってしまうな。



 そんなことを考えながらも運転し、やがては久々という感覚で実家に帰ってきたーー。

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