一話・魔法の1歩⑩

 アンライトは、僕の前を真っ逆さまに通過するとき、ニコッと笑った。そして、手に持っている杖を一振りした。すると、勝ちを確信しているアズトの前にあるホウキがアンライトの落ちた方向に向かって行く。ホウキが地面すれすれでアンライトを拾い、ホウキに乗ったアンライトは、アズトの後ろに回ってその背中に杖を当てた。


 「な、なんで…、ホウキに触れていないのになんで操作ができるのよ!」


 アズトは、目を見開いている。もちろん、僕は分かっている。これも、彼の練習の成果だ。アンライトは、自称得意技の浮遊の魔法でホウキを操ったのだ。正直にいうと、成功するのかかなり心配だったのだが…。


 アンライトは、エア・スライドをアズトの背中に打ち込む。アズトがふらりと落下していくが、アンライトがホウキで向かい、キャッチして優しく地面に置く。そして、自分もホウキに降りた。


 審判はアズトが動かないのを確認してから、アンライトの腕を持ち上げた。そのあとすぐに、アンライトの優勝を伝える放送が入った。放送を聞いた観客は、だんだんと文句を言っていく。


 「魔女が魔法使いに負けるとかありえんのかよ!」


 「ズルしてたんじゃないのか⁉」


 そうか…彼らは、魔女が魔法使いに負けたのが気に食わないんだ。


 アンライトは観客からの文句を聞き、首を傾げる。それから、頭に手を伸ばすがそこには当然、何もない。アンライトは、ハッとしてからポケットに手をやり、小さく畳められた物を取り出した。慌てて広げるそれは、今日の空のような水色の三角帽子だった。アンライトはそれを被り、ホッとした表情になる。観客や審判、僕までもが口をあんぐりと開けた。そう、アンライトは魔女だったのだ。


 観客はさっきまでとは違い、祝福の声が多く発せられた。なんとも、きれいな手のひら返し…。


 表彰式でアンライトは、大会で使ったホウキを貰っていた。それから、放送関係であろう魔女がアンライトにマイクを向ける。アンライトは、戸惑いながらも今の気持ちを述べた。


 「ほんの数年前から、ウィッチマ国内で魔法使いへの嫌がらせが発生するようになりました。僕もこの一人称と見た目で魔法使いだとよく間違えられて嫌がらせを受けることがあります。しかし、ある旅の魔族さんは変わらない態度で僕に接してくれた…。僕のことを一つの種族としてではなく、一人の個人として見てくれたんです…。僕は、ウィッチマ国がそんな国になってくれるといいなと思います。」


 アンライトの声は、ウィッチマ国中に響き、聞いた人たちにそれぞれの思いを抱かせた。


 大会の後、アンライトは魔法大会の公式選手にスカウトされていた。そんなに有名な大会だったんだな。


 夕日がウィッチマ国を赤く照らし、鳥の大群が飛んでいく。新しいホウキを抱えたアンライトは、僕のもとに駆け付けてきた。

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