一話・魔法の1歩⑧

 魔法大会「ウィッチマ・マジック」は六日後に開催するそうだ。町は赤や青、黄色といった旗が飾られ、着々と準備がされてきている。僕達は急いで受付に行った。そして、受付とともにあのレベルマックスになると貰えそうな魔法のホウキを借りた。家に戻る時、あの三人の魔女がこちらを見ていたが何かしてくる様子はなかった。やはり、僕がいることで手を出せないらしい。アンライトは、魔女達をちらりと見ると再び前に向き直り、家へと歩き出した。


 アンライトは唯一、浮遊の魔法が使える。何かを浮かせることのできる魔法だ。浮遊の魔法は、物にしか使えないようで生物は持ち上げられないらしい。浮遊の魔法が得意な事もあってアンライトは、あっさりとホウキに乗れてしまった。ホウキは、触ると魔力が伝わり、浮くことができるらしい。僕も、アンライトが元々持っていたホウキを借りて、ホウキに乗れるように練習をした。時々、アンライトが乗り方を教えてくれるのだが、これがなかなかに分かりやすい。まだ、ホウキには乗れないが…。


 問題は、魔法だ。魔法は火、水、風の大きく三つに分かれている。アンライトは風の魔法が得意らしい。本人がいうには、だが…。何度もいうが、彼は「浮遊の魔法」しか使えない。まぁ、それでも他の魔法をやるよりは可能性があるだろう。魔法は風の魔法を中心に練習してみることになった。



 大会当日、国中が大会の話題で持ちきりだ。道にはいつもより多くの魔女が通行をしており、隙間がほとんどないくらいだ。道の端には色々な仮面をつけた魔法使いも見える。今日ばかりは魔女も魔法使いにかまっている暇はないらしい。


 大会は、ウィッチマ国の真ん中にあるでかい競技場で行われる予定だ。参加人数は、15人と魔女がほとんどで、魔法使いが大会に出ることは過去の出場選手を見てもほとんどないらしい。それほど、魔女と魔法使いの魔力の差は大きいのだ。


 大会は、競技場に選手がバラバラに配置され、魔法で攻撃するというものだ。ホウキで飛ぶのもあり、暴力で挑むのもアリらしい。魔法の大会なのに暴力はいいのか?


 始まりのチャイムが鳴ると、一斉に魔法の詠唱と放たれる音が競技場に響いた。ホウキに乗って魔法を放つ魔女もいれば、地面から放つ魔女もいる。その光景は、花火を間近で見ているかのようだった。ちなみに僕は、観客席で応援だ。


 地面で魔法に撃たれる者や浮上中に魔法を受けてホウキから落ちる者など、続々と脱落者が出始める。残りの人数を数えるといつの間にか十人になっていた。アンライトは、魔法の練習成果が出ているようでまだ残っている。練習で浮遊の魔法以外に風を凝縮して飛ばす「エア・スライド」をできるようになっているのだ。ホウキを巧みに使い、魔法を杖で弾きながら相手にエア・スライドを打ち込んでいく。


 他の選手が使う魔法は様々で火や水、風と多くいる。意外にも全属性の魔法を使う魔女は一人もいないんだな。


 「おい、見ろよ!チャンピオがまた倒したぞ!」


 「まだ若いのにすごいよな。今回の優勝もアズトが取るんじゃないか?」


 へー、チャンピオンはアズトと言うのか。どの子なんだろう?


 そうこうしていると、残り五人となった。三人はホウキで飛んでおり、空中で撃ち合っている。一方、アンライトはもう一人の相手と地面で戦っている。しかし、アンライトの背中の先に見える相手は、出場選手全員が持っているはずの物を持っていなかった。

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