一話・魔法の1歩⑦
「…悔しかったんです…。ウィチマ国は種族ごとに格差がある国。周りの国ではそう言われています。魔力が元々少ない魔法使いは、魔女たちによく魔法で攻撃をされるんです。なので、昼に多くの魔女がいて、夜に変装をした魔法使い達がいるんです…。」
それで、夜に仮面の人たちがいたわけか…。
「…僕は、三人組の魔女にいつもいじめられるんです。昼に町を歩くと馬鹿にされ、魔法を打たれる。この家も元々、きれいな家だったんです。けど、あの魔女たちに壁に穴を開けられ、窓ガラスにヒビを入れられたりしたんです…。」
アンライトの家に来た日に路地裏にいた魔女たちのことだろうか…。でも、その日は魔法を撃ってこなかったな。魔力が少なかった日だったのだろうか…。
「もう辛くて…、スピネルさんと出会ったあの日、池で死んでしまおうと思っていたんです。けど、あなたに助けられた。国に戻ると、あの魔女たちは何もしてこなくなっていたんです。それは、スピネルさんがいたからだとすぐに分かりました。魔族は、魔女よりも魔力が多い種族なので怖かったんだと思います…。」
魔族は魔力が多いのか。なら、自分も魔法を打てるのか?
「え?でもなんで、その魔女たちは私が魔族だって分かったの?私が魔族なのはアンライトさんにしか言ってないはずです。」
「…それは、スピネルさんが白髪だからですよ…。」
魔族は、みんな白髪なのか…。でも、うちのお母さん白髪だったかな?
「…僕は、スピネルさんが居て自信を持てたんです。だから、この国にずっといてください…。」
アンライトは、かなりつらい思いをしてきたのだろう。けど…、
「…私があなたのそばにずっといることはできませんよ…。」
アンライトは、僕の言葉にぴくりと体を震わせる。
「…人に助けてもらうことはいいことです。人は一人で生きていけませんからね。けれど、自分に自信を持つ事が周りの力ではなく、自分の力で自信を持たないといけない…。」
「…自分には特別なものは無いです。そんな自分に自信なんか持てないですよ…。」
アンライトは、悲しそうに言った。この子は、何を言っているのだろうか…。
「…何を言っているのですか?あなたには、魔法があるじゃないですか…。周りの印象を変えるのには、結果として残すのが一番効果的です。ん~。例えば、ウィッチマ・マジックに出てみるとかどうですか?」
アンライトはキョトンとしている。
「え…、でも僕は多くの魔法は使えないし…。大会は、もう数日で始まるし…。」
「…まったく、私にお願いする勇気はあるのに、大会に出る勇気はないんですね。そんなに弱気だと私は地図をあなたから無理やり取り返して次の国に向かってしまいますよ?」
アンライトは毛布をギュッと掴み、慌てて首を横に振る。
「そ、それはいやです。…わかりました。大会に出ます。…でも、一人だと怖いので国の案内をした時の約束でスピネルさんに魔法を覚える手伝いをしてほしい…です。」
まさかそこで、小学生が使うであろう「願い事、何でも聞く券」を使われるとは…。この手は、今後使わないようにしよう。
「…分かりました。約束は約束ですからね。大会の日まであなたのお手伝いをします…。」
アンライトは嬉しそうに笑った。
「で、では…明日からお願いします…。」
魔法を覚えるお手伝いをすることになるとは思わなかったが、アンライトが少し前向きになっている。そのことに僕はうれしかった。
「…明日から忙しくなりますよ。頑張りましょうね…。」
僕の問いかけに返事はなかった。その代わりにアンライトの寝息が聞こえた。僕は毛布を掴み、少し隣に移動させてあげた。
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