一話・魔法の1歩②

 ん?池の反対側に何かいるのでしょうか…?もしかして…魔物ですか⁈魔物なのですか!初めての魔物!こういう時は、だいたいスライムでしょうね!


 スピネルは、もたつく手で地図をポケットにしまい、小走りで池の反対側に向かう。


 そこには、スライム!…ではなく、池に入っている少年がいた。いや、正確にいうと溺れている少年だ。少年は顔を上にして必死に息継ぎをし、バタバタと腕を動かしている。この池は陸地が高くなっており、登りづらい。スピネルはすぐに手を伸ばし、何とか引き上げた。


 引き上げられた少年は濡れた服が気持ち悪いのか、一日働いた後の靴下を嗅いだかのような顔をしている。ポケットから杖を取り出し、何かを唱えながら杖をゆらゆらとしているが何も起こらない。


 それにしても、池に入って何をしていたのだろうか…。服を着たまま池に飛び込むやつは、ゼ〇ダの伝説のリ〇クぐらいだ。世界を救う勇者以外、普通はしない。


 少年は、濡れて色が濃くなった青の服と左手に少し曲がった杖を持っている。見るに魔法使いだろうか…。そうしたら、ウィッチマ国にはかなり近いのかもしれない。


 僕より少し幼く見える。髪は黒髪の短髪と言ったところか…。濡れていてよくわからないけど…。肌は白く、小さいかわいい顔をしている。前世にいたらアイドルにでもなっていただろう。


「大丈夫ですか?早く拭かないと風邪をひきますよ。」


 ポケットから黒猫柄のハンカチを取り出し、少年に渡してやると少年は、恥ずかしそうに杖をしまい、ハンカチを受け取った。


 少年は黒曜石のように黒い髪を優しく拭き、ハンカチを胸のところで抱えた。そして、ぺこりと頭を下げた。


 …可愛い。是非、ハンカチを差し上げたいと思うほどの可愛さだ。おっと、それより初対面の人にはまず、自己紹介からだよな。


 「私は、魔族のスピネルです。あなたが池で溺れそうになっていた理由が気になりますが、まず名前から聞きましょうか。」


 僕の自己紹介に警戒心がマックスの少年は黒猫柄のハンカチをより強く胸に抱いた。そんなに怖いことを言っただろうか…。少年は恐る恐る口を開く。

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