第18話:リクルートスーツの美少女が可愛すぎる件。

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【前回のあらすじ】


 姉さん! 事件です!


 きのうはれんちゃんと一緒に、お茶漬けで有名なメーカーがやってるファミレスで定食を食べました。おいしかったです。

 そのあと昨日食べこそねたそばシフォンケーキを食べました。気持ち酸っぱい気が気がしなくもなかったけど、おいしかったです。


 そしてぼくは今、帝国ホテルの前にいます。時刻は11時10分です。


 ぼくはれんちゃんと一緒に、帝国ホテルの前にいます。ぼくとれんちゃんはリクルートスーツを着ています。こんなめっちゃ高級そうなホテル、何着ていっていいかさっぱりわからなかったからです。


 れんちゃんはきょうも可愛いです。


 いつもは、ゆったりとしたトップスでパンツルックのれんちゃんが、体にフィットした黒のリクルートスーツを着ています。膝上タイトなスカートをはいています。しかも黒のストッキングとパンプスです。


 可愛い。


 黒のストッキングは数値の少ないデニールで、絶妙の透け感のひざこぞうとふくらはぎが、もう最高です。最高すぎます。


 可愛い。


 破壊力抜群です。れんちゃんのスタイルの良さが際立っています。

 ぼくなんかにはぜったいに着こなすことができない、体のラインがバッチリでちゃう、リクルートスーツをカンペキに着こなしているのに、めっちゃあどけなくて、思わず「がんばれー」って第一志望に無事就職できることを願ってやまずに応援したくなっちゃうような初々しさが、もう全身から溢れかえっています。


 可愛い。可愛すぎてクラクラします。


 ……でも、今はれんちゃんの可愛さにクラクラしている場合ではありません。


 ぼくとれんちゃんは、崔峰さいほうさんのお見合いをぶっ壊しにきたのです。


 空塚からつかさんの告白を後押しするために、帝国ホテルに来たのです。

 空塚からつかさん、あきらめたらそこで試合終了ですよ!

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 ぼくとれんちゃんは帝国ホテルの中に入った。

 ぼくも緊張しているけど、れんちゃんはもっと緊張しているようだった。

 はき慣れないパンプスだからなのかな? 歩きもどこかぎこちない。


 可愛い。


 ぼくは、そんな可愛くて守ってあげたくなるようなれんちゃんの手を「ギュッ」とにぎって、帝国ホテルの中に入った。


 ラウンジはめっちゃ広かった。全体的にベージュの落ち着いた雰囲気のラウンジだけど、なんだか全体がピカピカしている。天井をみあげると、おっきなシャンデリアがピカピカしている。目眩がするほど高級そうだった。


 めっちゃ高級そうで、めっちゃお上品。まるで崔峰さいほうさんの服装みたいだ。崔峰さいほうさんは言語センスはもうかなりトンチンカンだけど、服とかは本当に上品でセンスがいい。しかも全部自分で作っている。実家の超老舗の紳士服仕立て屋さんで自分で作っている。つまり、フルオーダーメイドってことだ。つまり、もんのすごいお嬢様ということだ。


 そんなお嬢様の崔峰さいほうさんは、今日、ここでお見合いをする。

 

 ぼくは、自分が場違いな場所に来ていることを痛感した。


 リクルートスーツを着ていると言うよりも、感満載のぼくは、完全にこの場所にそぐわない人間だと思った。

 れんちゃんもおなじくリクルートスーツ感じだ。


 可愛い。


 でもれんちゃんの場合は、そこはかとなく田舎の娘さんが就職のために上京した初々しさがある。田舎のいいとこのお嬢さん感がある。育ちの良さが全身から滲み出ている。


 可愛い。


 一緒にいる男の人の身なりが良ければ、全く違和感がないはずだ。

 でも、今は一緒にいる男が悪い。悪すぎる。とにかくぼくがイケテナイ。

 童顔なぼくがとにかくイケテナイ。

 どっからどうみても未成年に見える。無理してリクルートスーツにお子ちゃまに見える。

 だから隣にいる初々ういうい可愛いれんちゃんも、お子ちゃまに見える。


 くやしい。


 リクルートスーツにお子ちゃまカップルは、ホテルの人に案内されて、ラウンジのレストランに座った。


 流れるように、ボーイさんがお水のグラスをだしてくれる。

 ぼくは、ボーイさんが出してくれたグラスを持って、お水を喉に流し込むと、そのままテーブルにたてかけてあるメニューを開いた。


 メニューは高かった。


 一番安いブレンドのコーヒーが、昨日の晩御飯に食べた、お茶漬けで有名なメーカーがやっているファミレスの定食メニューとぴったり同じ値段だ。


 ぼくは、震えながら手をあげてボーイさんを呼ぶと、震える手でメニューのブレンドコーヒーと書かれた文字を指差して、震える手でピースサインをした。つまりは、ブレンドコーヒーが二つ欲しいことを告げた。

 ボーイさんは、にこやかにうなずいて注文を繰り返し言って確認すると、流れるように去って言った。


 ぼくは、胸ポケットに入れてあるピッチ(携帯電話)を取り出した。

 液晶画面は11時20分をさしている。


 空塚からつかさん……結局来なかったな。


 空塚からつかさんとの待ち合わせ時間は、10時40分だった。

 ぼくとれんちゃんは、念の為10時30分に来た。そして空塚さんを40分待ったけど、空塚からつかさんはこなかった。


 ぼくとれんちゃんは今、崔峰さいほうさんのお見合いをぶっ壊しにきたのだけど、正直言って、空塚からつかさんが来なければ、計画は失敗だ。


 やっぱり、告白は本人がやらないと。もしぼくが、


空塚からつかさんは、実は崔峰さいほうさんのとこが好きなんです!」


って言っても、正直意味がわかんない。小学生の告白じゃあるまいし。


 そもそも、お見合い相手が目の前にいる状態で、伝言で告白なんてどうかしている。

(個人的には、空塚からつかさん本人が言ったとしても、ちょっとお見合い相手に申し訳ないなって思うけど)


 でもまあ、結婚式の式場に主人公が駆け込んできて告白する有名な映画だってあるしさ、ギリギリ許される気がしないでもないでもない。

(個人的には、そこで花嫁さんをかっさわれる人の方に感情移入しちゃうけど。かわいそうにも程がある)


「お待たせしました。ブレンドコーヒーです」


 ぼくは、約束をすっぽかした空塚からつかさんにちょっとイライラしながら、ブレンドコーヒーをすすった。定食と同じ値段のコーヒーをすすった。


 美味しかった。


 猫舌のれんちゃんは、角砂糖をふたつ入れて、よっくかきまぜた後に、ミルクポットのミルクを半分以上入れて、よっくかきまぜたあとに、ふうふうと息をふきかけてから、「あつっ」って声を漏らしながらちびちびと飲んでいる。


 可愛い。


 ちなみに今日の待ち合わせは、ぼくと空塚からつかさんだけの予定だった。でも、れんちゃんが「わたしも行っていい?」って言ったからぼくは「うん」って即答した。


 だって、銀座の帝国ホテルでお茶するなんて洒落しゃれてるじゃない?

 できれば彼女といってみたいじゃない?


 そして案の定、スーツ姿のれんちゃんは、もう最高に可愛い。

 今日はちょうど家の前に停車する、渋谷行きのバスに乗ってきたんだけれども、バスでぼくの隣に座って、ぼんやりと流れる景色を見つめている蓮ちゃんは可愛いってもんじゃなかった。


 バスから降車するときに、ぼくが、運転手さんの横にある運賃入れに小銭を入れようとして、うっかり手をすべらせてお金を落としちゃったときに、しゃがんでお金をひろってくれた蓮ちゃんのパツンパツンのタイトスカートと、伸びやかに白い太ももを透かしているデニールの薄い黒のストッキングのコンボは破壊力抜群だった。


 ぼくは、我を失った。


 ぼくは、きっと今日もお風呂で、その光景を思い浮かべて、のぼせあがってしまうことだろう。


 あれ? ぼく何考えてたんだっけ?


 あ、そうそう! れんちゃんが一緒に来たいって言ったこと。

 なんでだろう。


 ぶっちゃけ、告白が成功する確率なんて、万に一つもないと思うんだよね。なのにさ、


「あのふたりは運命のふたりだから、絶対絶対つきあってほしい!」


って、すっごい息巻いて、わたしも行きたいって、なかば強引について来た。


 でもまあ、れんちゃんには悪いけど、崔峰さいほうさんと空塚からつかさんと付き合うのは、さすがに無理なんじゃないかな?


 崔峰さいほうさんが結婚するのは実家の都合だし、(口調はトンチンカンだけど)大人の女性の崔峰さいほうさんは、それを充分に理解している。自分の立場を理解している。老舗の伝統の中で生きていく覚悟を決めている。


 そしてなにより、空塚からつかさんが来ないんじゃ無理じゃないかな。


 ぼくがぼんやりと、そんなことを思っていると、れんちゃんの肩がぴくってふるえた。


 ぼくは、蓮ちゃんの視線の先を見ると、着物姿の大人の女性の崔峰さいほうさんがいた。

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