第16話:美少女のまっしろな◯◯◯を見てしまった件。

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【前回のあらすじ】


 姉さん! 事件です!


 ちょっと……いや随分とハラスメントな発子はつこさんの命令で、コスプレしたまま商店街にフィルムの現像をしに行きました。

 ぼくは、完璧にカワイくてオシャレな制服の女子高生として街に溶け込むことができました。

 崔峰さいほうさんの作る服のセンスはスゴイと思います。本当にスゴイと思います。


 そして写真のフィルムの現像まで一時間ほどかかるから、ぼくは、その間に自社のキャラクターグッズの通販の発送作業を済ませようと思います。

 あと、晩御飯用のお米を研いでおこうと思います。


 姉さん! ぼく、日常業務をがんばるよ。

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 ぼくは、会社にもどった。

 でもって、帰って早々、給湯室でコーヒーを淹れたマグカップをもった発子はつこさんに怒られた。


乙葉おとはくん、なんでウィッグをはずしているのかね?」


 ぼくは、つとめて冷静に返答をした。


「商店街名物の紫のトサカ髪のおばさまに、髪型を不思議がられたからです。

 紫のおばさまだけじゃないです。みんなぼくの緑の髪を不思議そうに見ていました。

 ウィッグを外したら、ふつうにオシャレカワイイ制服を着た女子高生として街中を闊歩できたので、ほんと裁縫さいほうさんのデザインセンスはすごいと思います」


 ぼくの返答に、発子はつこさん納得してうなずいた。


「なるほど、確かにわたしは、〝乙姫おとひめ みなと〟のキャラクターを掴んでほしいから、そのかっこで商店街を歩けと言ったのだからねえ。

 〝乙姫おとひめ みなと〟は、家ので、女の子になりすましているキャラクターだからねえ。確かにコスプレで注目されても仕方がない。女の子として街に馴染むことの方が重要だ」


 発子はつこさんはつづけた。


「いやはや、裁縫さいほうのデザインセンスは本当にすごいな……本当にもったいない……あ、いやなんでもない」


 え? どういうこと??


 ぼくが、首をひねると、発子はつこさんはとっても気まずそうにスタスタと自分のデスクにもどっていった。はっきりと「口をすべらせた」って顔に書いてあった。


 本当にもったいない? なにが? 裁縫さんは、弊社でCGデザイナーとして存分にその才能を発揮しているじゃない。あと同人の世界で、コスプレの服飾デザイナーとしてその才能を存分に発揮しているじゃない。なにがもったいないんだろう??


 ぼくは、そんなことをぼんやりと考えながら、自社のキャラクターグッズの通販の発送作業をかたずけていると、


「おはよーロッパ」


って、フラフラしながら崔峰さいほうさんが仮眠室から起き出してきた。

そして、自分のデスクに座って、おっきめの革製のトートバッグから、まっしろな封筒をとりだした。そしてフラフラしながら発子はつこさんのデスクに向かっていった。まっしろな封筒には、はっきりと「辞表届」って書いてあった。


 え? どういうこと?


 発子はつこさんは、その封筒を受け取ると、明らかにガッカリした顔をして、裁縫さいほうさんになにかを一言告げると、立ち上がった。でもって、スタスタとミーティングルームに移動して、その後ろを裁縫さいほうさんがフラフラとついていった。


 ぼくは、自社のキャラクターグッズの通販の発送作業を終わらせると、仮眠室の布団を干すことにした。


 今日は、ふたりも仮眠室を使ったんだ。しかも空塚からつかさんは、仮眠中にずっとうなされていたんだ。裁縫さいほうさんのおっぱいに、はさまれてうなされていたんだ。(うらやましい)

 きっと布団も随分と汗をすいこんでいるはずだ。ぜったいにそうだ。直ちに布団を干すべきだ。もう随分と日が傾いているけど、ぜったいにそうするべきだ。

 ぼくは、息をころしながら、こそこそと仮眠室の布団を取りに行った。


 仮眠室とミーティングルームを隔てているパーテーション越しに、発子はつこさんと裁縫さいほうさんの声が聞こえてくる。


「……実家を30歳までに継ぐ必要があると言っていたから覚悟は決めていたんだけれどね。しかしだね。こんなに早くに辞めるとはね。だって裁縫さいほうはまだ28だろう?」


「30歳までに継ぐってことは、って事です。ずっとおじいさまから急かされていたんで、さすがにもう限界です。

 お見合いをして、半年後に婚約して、その半年後に結婚して、子供をさずかって産む。

 あと2年しかないです。全然時間がないです。実家は本当にじっと待ってくれました。ありがたガールですよ」


「いやしかしだね? いまどきお見合いというのがだね。

 家が用意した人と結婚すると言うのがだね……戦前じゃあるまいし」


「いやいや、発子はつこさんも、わたしのストライクゾーン知ってるじゃないですか。流石に恋愛で理想の60代の執事のおじさまと出会うのは無理ですよ。

 お相手の方は一度お会いしています。とっても優しいいい人ですし、40代ですし、口ヒゲがお似合いの人です。

 わたしには、もったいないくらいの人です。もったいないオバケです」


 ぼくは、仮眠室で息を殺しながら、ミーティングルームの話を聞いていた。


 そうなんだ……裁縫さいほうさん結婚するんだ。

 家を継ぐって言ってたから、お婿さんをむかえるのかな?

 となると空塚からつかさん、無理ゲーどころじゃなくて、もうそろそろ試合時間終了じゃない?


 ぼくが、空塚からつかさんの絶望的な恋の行方を心配していると、随分と沈黙をつづけていた発子さんの声が聞こえてきた。


「……うーん……まあ仕方がないか……となると、すぐにでも後任のCGデザイナー募集しないと」


「それは本当にすみません。ケフちゃんに後任になってもらおうと思ってたのに、わたしがイラストレーターを勧めちゃったから……」


「いやいやいやいや……それはもう本当に感謝している。あんな天才を発掘してくれるなんて、本当に感謝している。あとケフちゃんは明らかに進行管理向きではない。最初から乙葉おとはくんとニコイチで裁縫さいほうの仕事を回してもらうつもりだったから……」


 そうなんだ……れんちゃん、崔峰さいほうさんの後任として雇われたんだ。

 そしてそれは、裁縫さいほうさんが、もう随分と前から退職の意思があり、発子はつこさんもそれを知っていてかつ了承していたことになる。

 ぼくなんかがどうこう言える問題じゃない。崔峰さいほうさんが辞めることは、もう、ずっと前から決まってたんだ。


 しょうがない。これはもうしょうがない。家庭の事情なんだからしょうがない。

 ……でも、せめて〝乙女ゲー〟がマスターアップするまでは、裁縫さいほうさんと一緒に仕事したかったな。

 裁縫さいほうさんがいると場が和むもの。裁縫さいほうさんのトンチンカンな言葉のセンスで、締め切りでひりついていた職場がなごむもの。


 ぼくは、裁縫さいほうさんと発子はつこさんの、すっごく真面目なやりととりを聞きながら、裁縫さいほうさんが、今までどれだけ周囲に気をつかっていたのか思い知らされた。

 あのふざけた口調、だったんだ。

 わざと、ふざけてふるまって、職場を和ませてくれていたんだ……ムードメーカーを自ら買って出てくれていたんだ。


 ぼくが、今まで全然知らなかった裁縫さいほうさんの話を仮眠室で息を殺しながら聞いていると、


「そういうわけで、明日は帝国ホテルでお見合いです。そこで、交際をお受けしようかと思いマスオさん。あ、マスオさんは婿養子ではなかった……わたしはバカだ。本当にバカリズムだ」


 ぼくは、最後の最後で、色々と台無しにした崔峰さいほうさんの言葉を聞きながら、空塚からつかさんのことを思った。

 試合時間終了どころじゃない。もうとっくの前に、ロスタイムに突っ切っているのではないですか?


 審判が、時計を見ている状態じゃないですか?


 

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