美少女が小説家に告白されるルート。

第14話:弊社社員が美少女を好きだった件。

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【前回のあらすじ】


 姉さん! 事件です!


 あざとく可愛い〝乙姫おとひめ みなと〟が三次元と二次元に降臨しました。


 三次元の方は、ぼくのコスプレなので、ちょっとイキッタ言い方に聞こえるかもしれないけど、ほぼほぼ、制服をデザインして作ってくれた崔峰さいほうさんのお手柄です。9割9分5厘6毛、 崔峰さいほうさんのお手柄です。スゴイ!


 そして、二次元の方を担当したれんちゃんのラフスケッチは、マジでヤバかったです! ヤバイ! ぼくをモデルに描いているから、ぼくも少しはれんちゃんのお役に立てたかもしれないけど、やっぱり、9割9分5厘6毛、 れんちゃんのお手柄です。スゴイ!


 そして今、ぼくはこんなことしている場合ではないです。ボケーっとしている場合ではないです。


 姉さん! ぼく、仕事をします。

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 ぼくは、れんちゃんが描いた、あざと可愛くて、ままならずカッコいい〝乙姫みなとみなと〟の妄想が、とんでもなくはかどったった。


 ぼくは大慌てで自分の机のデスクチェアに座って、マウスをコロコロ転がして、モニターにある〝op06_01.txt〟と書かれたファイルのアイコンをクリックした。

 そして、デスクチェアにあぐらをかいて座った。常日頃の鍛錬と、常日頃のお手入れで、可愛く鍛えた艶かしい太ももがあらわにになった。


 でもって、『女性向け学園ラブコメ(乙女ゲー)』というタイトルが書かれたテキストファイルの、〝キャラNo6 乙姫 湊(おとひめ みなと)〟の設定にガリガリと加筆した。さっき駆け巡った妄想を一字一句書き記した。


 そして、フロッピーディスクのアイコンをクリックしてテキストファイルを保存すると、そのままイントラネット(よくわかんないけど会社でしか使えないインターネットだそうです)で繋がっているメッセージアプリで、さっき保存した〝op06_01.txt〟を添付して空塚からつかさんに送りつけた。


 ぼくは、くるりとデスクチェアを180度回転させて、空塚からつかさんの机を見た。いなかった。そして、男性社員の視線が、ぼくのふとももと、その先のスカートの中のイノセントな部分に集中しているのに気づいて慌てて机から足を降ろして、膝と膝をきゅっと合わせた。

 うっかりしていた。今のぼくは、〝乙姫おとひめ みなと〟だった。クラシックとかをよく聴く、あざと可愛い〝乙姫おとひめ みなと〟だった。はしたない行動はつつしまなければ。


 ぼくは、〝乙姫おとひめ みなと〟になりきって、すっくと立ち上がった。

 男性社員がみんなぼくを見ていた。(具体的には、ぼくがめっちゃ自信がある、膝小僧を見る派と、ぼくのあざと可愛い表情を見る派の半々に分かれていた)


 ぼくは、植物公園でれんちゃんがぼくに向かって見せたポーズと表情を思いだしながら、手をうしろに組んで、ちょっと屈みながら悪戯っぽい声でいった。


「みんなのエッチ!」


 男性社員は、ほほを赤らめてカチンコチンに固まっていた。

 ほくは、壁にかかった時計を見た。3時58分だった。


(そっか、空塚からつかさん、お昼寝タイムだ)


 ぼくは、スリッパでもふもふとカーペットの上を歩き、仮眠室に行った。

 そして思い出した。弊社は狭かった。故に、仮眠室の定員はだった。


 空塚からつかさんは弊社の狭い仮眠室で、うなされていた。

 崔峰さいほうさんに上に乗っかられて、うなされていた。

 具体的には、顔ががっつりおっぱいに挟まれていた。


 そう、崔峰さいほうさんのおっぱいはおっきかった。

 ぼくは、コスプレイヤーとして、崔峰さいほうさんの豊かなバストがとても羨ましかった。

 そしてひとりの男性として、崔峰さいほうさんの豊かなバストに挟まれた空塚からつかさんがとても羨ましかった。妬ましかった。


 ぼくがは、妬ましい空塚からつかさんを叩き起こそうとすると、突然肩が「ぽん」と叩かれた。


 鹿島かしまさんだった。

 鹿島かしまさんは、そっと右手の人差し指を口に持っていき、小さく左右に降った。


 え? どうゆうこと?


 鹿島さんの隣に、カメラを構えていろめきだった発子はつこさんがいた。

 

 え? どうゆうこと?


 そしてその背後には、ニヤニヤと笑っている社員一同と、きょとんとしている可愛いれんちゃんがいた。


 え? どうゆうこと?


 そして、壁の時計はキッカリ4時を指していた。


 ピピピピ……ピピピピ……


 仮眠室のキッチンタイマーが鳴った。空塚からつかさんが起きる時間だ。


「ぼ、ぼんばぁ、ぼばあーーーあ!」

(な、なんじゃ、こりゃーーーあ!)


 空塚からつかさんは、崔峰さいほうさんのおっぱいに挟まれながら叫んだ。

 そして、顔をおっぱいからすっぽり外すと、顔を真っ赤にした。


「さ、ささささ崔峰さいほうさん!? なんで?」


 珍しかった。空塚からつかさんも焦ることあるんだ。いつも余裕綽綽よゆうしゃくしゃくで、小説の締め切りも、シナリオの締め切りも、余裕綽綽よゆうしゃくしゃくで、いつもいつもぼくをからかっていた空塚からつかさんも、あんなにも動揺することがあるんだ。


 発子はつこさんは、さっきからずっとカメラを構えて写真を撮りまくっていた。


 崔峰さいほうさんのおっぱいに挟まれた空塚からつかさんと、飛び上がって顔を真っ赤にした空塚からつかさんと、今は顔を真っ赤にして怒っている空塚からつかさんを激写した。


「ちょ! ちょっと! 発子はつこさん、やめてください。マジでやめてください」


 発子はつこさんは、空塚からつかさんの言葉をガン無視して、シャッターを押しまくった。


「いいねぇ! たまんないねぇ! いつもは余裕綽綽よゆうしゃくしゃく空塚からつか君が照れた姿はたまんないねぇ! 青春だねぇ!」


 ぼくは、後ろを振り向いた。社員全員にやにやと笑っていた。ひとりだけ、キョトンとしているれんちゃんを除いて、社員全員がにやにやしていた。


 鹿島かしまさんも、甲林きのえばやしさんも、写真を撮るのをやめた発子はつこさんも、みんなニヤニヤしていた。


 え? そういうこと?


 空塚からつかさんって、崔峰さいほうさんが好きだったんだ。


「図書館行ってきます!」


 空塚からつかさんは逃げるように会社から出て行った。

 多分、閉館まで避難するつもりだろう。


 そんな空塚からつかさんを、発子はつこさんは満足そうな顔をして見送ると、ぼくにカメラを渡しながら言った。


「現像よろしく。あ、面白いからその格好のままで。まだ、キャラを掴み切れてないようだからねぇ。あとトランクスはいただけない。最近で周りはじめた、〝ボクサーブリーフ〟にしなさい。あれならレディースもあるし違和感ない。黒ならスパッツに見えなくもない。無論、スパッツでも構わないがね?」


 え? どういうこと?


 この格好で商店街を歩くの??

 というか、なんですぐに現像するの? 確かに商店街には、超特急で現像してくれるカメラ屋さんがある。今から大急ぎで行って現像をお願いすれば、空塚からつかさんが帰ってくる前に、写真を持ち帰れるはずだ。


 でも、なんでそんなに急ぐんだ? 発子はつこさん、空塚からつかさんのこと、さっき十二分にからかったじゃない。

 まだからかい足りないの? どんだけ真性のドSなの??


「幼なじみとか、いいんではないかい?」


 え? どういうこと?


「普段は頼り甲斐があって、主人公が困っていると余裕綽綽よゆうしゃくしゃくで解決してくてて、でもちょっと口が悪くて普段は主人公の事をからかって、でもそれはもう10年以上も好きで、子供の頃からのクセだからなかなか素直になれない、お隣さんの幼なじみとか、いいんではないかい?」


 え? どういうこと?


「はっはっは! すぐに資料を現像したまえ! 同級生幼なじみキャラの資料なのだよ! 命令!」


 え! そういうこと!?


 メインキャラの一人を、空塚からつかさんをモデルにするの??


 ぼくは、仮眠室で爆睡している崔峰さいほうさんを見た。よっぽど疲れているのだろう。あの騒動のなか、一切起きなかったし、今も起きる気配はない。


 うつ伏せで、おっぱいを空塚からつかさんに乗っけていた崔峰さいほうさんは、仰向けになって、仮面ライダーの変身ポーズみたいになっていた。

 今年からリメイクされた、最新の仮面ライダーのポーズだった。若い女性にも結構人気があって、崔峰さいほうさんも大好きだった。


 崔峰さいほうさん可愛いもんな。ちょっと……いや随分と言葉のセンスはおかしいけれど優しいし、空塚からつかが好きなるのも解る。


 ぼくは大急ぎで、会社を出た。


 そしてうっかり気がついてしまった。崔峰さいほうさんのストライクゾーンって、60代じゃなかったけ? ひょっとして空塚からつかさん、詰んでいませんか? 無理ゲーってやつじゃありませんか?

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