第8話:同棲とディレクター業務を始める件。

__________________________

【前回のあらすじ】


 姉さん! 事件です!


 れんちゃんのペンネームが決定しました!

 〝ケフカ〟です!


 れんちゃんのイメージからもっともかけ離れている気がしなくもないんだけど、本人が喜んでいるのでOKです。


 良かった!


 そして、社長の発子はつこさんがどさくさに紛れて、れんちゃんを正社員に採用してくれったぽいです。


 良かった!


 そして、よくよく考えたら、そもそも〝乙女ゲー〟について一切考えていませんでした。


 姉さん! 〝乙女ゲー〟って……何!?

__________________________



「はじめまして、〝ケフカ〟です。呼び辛かったら〝ケフちゃん〟って読んでください。よろしくお願いします」


 れんちゃんは、緊張して顔を真っ赤にしながらおじぎした。


 可愛い。


 そして緊張はしてたけど、肩はふるえてなかった。つまり、萎縮はしていなかった。


 良かった。


 おじぎと同時に拍手が起こった、ぼくも、もちろん拍手した。でもって拍手してたら、発子れんさんが叫んだ!


「ケフちゃんの入社祝いに蕎麦シフォンケーキ買ったから、適当に食べたまえ!

 あ、小さいのは乙葉君とケフちゃん専用だから、家に帰ってふたりで食べるように!!」


 は?


 ちょっと意味がわからない。


 あんまりにも意味がわからないので、ぼくは発子はつこさんに思っていることをそのまま聞いた。


れんちゃんは、発子はつこさんの家に居候しているのでは?」


 発子はつこさんは、あっけらかんと答えた。


「ケフちゃんには、今日から君の家に住んでもらうのだよ」


 は!? どういうこと!?


 ぼくは、れんちゃんの机を見た。机の後ろに大きな荷物があった。

 大きなキャリーバックと普通の大きさのボストンバックがあった。


 は!? どういうこと!?


 ぼくは、れんちゃんを見た。れんちゃんは、顔を真っ赤にしていた。


 え!? そういうこと!?


 いやいやいやいや、嬉しい……じゃなくて、困る! 嬉しいけど困る!


 ぼくは、ニヤけてしまいそうな顔を(窓に写った顔を見て修正しながら)どうにかこうにかこうにか困り顔にして、発子はつこさんの手を引っ張って、靴を履いて会社を出て階段の踊り場に行くと、発子はつこさんにコソコソと詰め寄った。


「いやいやいいやいや、いくらなんでも急すぎでしょ!(こそこそ)

 ぼくにだって心の準備がありますよ!(にやにや)」


 ぼくが務めて常識的かつ個人的な事情を言った。こそこそにやにやしながら言った。

 ぼくはヘタレなのだ。

 年齢=彼女いない歴なのだ。


 ぼくが、務めて冷静に、年齢=彼女いない歴人間の常識を説明すると、発子はつこさんは、ものすごい剣幕でこそこそとまくしたてた。


「君はバカか、大馬鹿ものか!!(こそこそ)

 私にだって事情があるのだよ!(こそこそ)

 好きな人とイチャイチャしたいのだよ!(こそこそ)

 それを、ケフちゃんがいるからずっと我慢していたのだよ!(こそこそ)

 私の身にもなってくれ!!(こそこそ)」


 発子はつこさんはシングルマザーだ。そして大人の女性だ。

 きっとぼくの知らない、ぼくが経験したことがない。ぼくもできればれんちゃんと経験してみたい事情が山積しているのだろう。


「たのむ!(こそこそ)」


 発子はつこさんは、ぼくに手を合わせて頼み込んできた。ぼくは、発子はつこさんの普段とは違う、泣き落とし系の同調圧力に気圧けおされた。


「……わかりましたよ。しょうがないですね(にやにや)」


 ぼくは、しぶしぶと言った。そしてついつい、にやにやしてしまった。


 うれしかった。ぼくは、大義名分が出来て嬉しかった。

 ぼくは、発子はつこさんの、仕方なく、仕方なーく、れんちゃんと同棲するのだ。

 うん! 仕方がない! 仕方がないなあ! 仕方がない!!


 ぼくは、にやける顔をだらしなく歪めて、してはいけない妄想をしていると、発子はつこさんは、ぼくの肩をやさしくやさしく「ぽん」と叩いた。


 そして、やさしくやさしく、ぼくを諭すように言った。


「君は優秀だから、わざわざ言う必要はないと思うのだがね。

 今のところケフちゃんの、画力というか表現力は、君に対するラブなパワーというか空想というか妄想というか倒錯というか、私なんぞが遥か昔に失ったイノセントでピュアファンタジーなエネルギーで構築されている。

 私はね。このケフちゃんのとてつもなくイノセントでピュアな、妄想と言うか、妄言というか、倒錯というか、お花畑というか、お気楽ご気楽というか、パラッパラッパーな話を、酒のさかなに延々と聞かされ続けてきたのだよ。うんざりするほど聞かされつづけてきたのだよ。

 君がどれだけ紳士的で、が解るのかを……ね。それが解るからこそ、君はあんなにも可憐な〝男の娘〟になれるのだと……ね」


 発子はつこさんは、ぼくの肩に置いた手に、力を「ぎゅ」っと込めた。


「君は優秀だから、わざわざ言う必要はないと思うのだがね。

 ケフちゃんのこのパラッパラッパーな妄想を汚すとどうなるか……わかってるね?」


 発子はつこさんは、ぼくの肩に置いた手に、更なる力を「ぎゅ」と込めた。

 ぼくの肩の骨は、ミシミシと悲鳴をあげた。


「 は  い  ぃ ぃ」


 ぼくは、声にならない、かすれ声で答えると、発子さんはほがらかに微笑んだ。


「はっはっはっ! ま、そう気張るな少年!

 適当でいいよ。適当で。〝適して当たる〟で。くれぐれも〝当たって砕ける〟のだけは勘弁な! 失敗は許されないし、許さない! いいね!!」


「 は  い  ぃ ぃ」

「はっはっは! 任せた!!」


 そう言うと、発子はつこさんは肩をグルングルン回しながら、渡り廊下のドアを開けて会社に戻って行った。

 ぼくは、空塚からつかさんが言っていた〝カンチョー夫人〟のエピソードは、本当なんじゃないかな? と思いながら発子はつこさんを追いかけた。



 ガチャリ


 会社のドアを開けると、視線の先のミーティングルームで、蕎麦シフォンケーキを切り分けて、社員みんなしてもごもごと食べでいた。

 ぼくが靴を脱いでスリッパに履き替えると、空塚からつかさんが、蕎麦シフォンケーキをもごもごと食べらながら、フロッピーディスクを渡してきた。


「ふぉい〝ふぉとふぇゲー〟ふぉろっとふぉこう」

(訳:ほい、〝乙女ゲー〟プロットの初稿)


 空塚からつかさんは、会社でも自宅でも小説の執筆作業をするからするから、フロッピーディスクで文書データを持ち歩いてる。(メールだと、自宅での作業開始が11時をすぎてしまうから)

 今、空塚からつかさんは、ガッツリ手が空いていた。暇だった。(暇だから自分の小説の原稿書いたり、図書館で資料あさりばっかりしている)

 アホほど執筆速度の早い空塚からつかさんは、暇な時間の方が多い。そんな暇してる空塚からつかさんだから、チャラっとお試しプロットを書いてくれたのだろう。


 ぼくは、フロッピーディスクをガチャコンと入れて、〝op06_01.txt〟と書かれたファイルを自分のPCにコピーして、テキストファイルのアイコンをクリックした。


____________________


乙葉おとは癸生川けぶかわがいちゃラブしながら創る乙女ゲー(仮)


キャラNo6 乙姫 湊(おとひめ みなと)


外観:

身長と体重は乙葉おとはそのまんま。見た目は紫色の魔法少女の方向性で。性格は、もう少し世話焼きにする。精神的に主人公より少しお姉さん。

(メイドロボットだと、ドジすぎて誘導ができん。あれは主人公の属性にする)


概要:

四六時中、女装した乙葉おとはみたいなやつ。

主人公の親友。

家は代々、歌舞伎の妻方めかた。先々代の時から、この学園に女性として入学し、女性になりすまして生活するならわし。(事情を知るのは、校長とか一部のお偉方だけ)

男とバレると、学園を強制退学させられる。


性格、劇中の立ち位置:

要するに空気がめっちゃ読めて四六時中女装ししている乙葉おとは

主人公が大好きで、いろいろと恋の相談にのってくれる。

男心がめっちゃわかる(そりゃそうだ)

基本、主人公が他キャラと揉めると、親身になって相談に乗ってくれたり、中をとりもってくれる便利キャラ。メタ的に、こいつの言うことは大抵正解。

男とバレると退学なので、四六時中、女としてふるまっている。(メインにひとりぐらい事情を知ってるやついた方が面白い)

建前的には、貧乳を気にして主人公になげいている。


分岐ルート 4種(仮)

基本的に、誰とも付き合わない場合にかぎり、こいつに分岐。

バッドイベント(友情イベント)


身バレイベントは、4段階くらい(伏線、匂わせ、バレ、トゥルールート)

バレは、全キャラエンド見ないとフラグ立たない。バレ経由すると、以降好感度で分岐。

好感度は、他キャラの相談役で出た時にこまざいて仕込む。


1:女のまま友情エンド(汎用バッドエンド)

2:専用バッド:好感度低い

  身バレイベントアリ。退学して疎遠。

3:専用グッド:好感度高い

  身バレイベントアリ。退学して交際。

4:専用トゥルー:好感度、乙葉おとは癸生川けぶかわに対するストーカー気質並

  トゥルーイベント発生。女の娘のまま学園でいちゃラブ交際。


てな感じ?

発子はつこさんチェック済み。あとは乙葉おとは次第。

____________________


 よく出来ていた。いわゆる隠しキャラ扱いだ。某ときめくゲームのライバルキャラが、親友キャラになった感じかな?

 多分これ、コアファンの人気が爆発する系のキャラだ。存在自体がどんでんがえしなんだもん。


 やっぱりすごいな。空塚からつかさん。ぼくが植物公園行ってる間に、きっちり仕事してる。でもとりあえず、癸生川けぶかわさんと書いてあるから、そこは修正しよう。というか、仮にしてもタイトルが酷すぎるから、至急書き直そう。

 トゥルーエンドの好感度に対しては、これ以上ない表現な気がするけど、恥ずかしいから変えよう。


 ぼくは、キーボードをガチャガチャ言わせて、仮タイトルを、


乙葉おとは癸生川けぶかわがいちゃラブしながら創る乙女ゲー(仮)

』から『女性向け学園ラブコメ(乙女ゲー)』


とし、トゥルールートの高感度説明を、

乙葉おとは癸生川けぶかわに対するストーカー気質並』から『MAX』


に変更した。



「どうよ」


 ぼくが、一旦テキストファイルをセーブしていると、空塚からつかさんがドヤ顔で立っていた。


「すごいです。全く問題ないと思います」


「じゃ、残りの5キャラ設定はよろしく。開発期間とボリューム考えたら、ま、そんぐらいが適当だろう。小説7冊分とちょい?」


「へ?」


「当然だろ、お前がディレクターだ。キャラ設定はお前が起こしてもらわないと困る。そもそも俺は、〝乙女ゲー?〟が一体全体なんなのかさっぱり解らん。どんなキャラが需要があるのか全くわからん。なぜなら俺は男だからだ」


 確かに。というかぼくも男だから知らないのは一緒なんだけど。


「そんなわけで、需要があるキャラ考えて概要プロット起こしてくれ。そもそもこのキャラは隠しだ。メインキャラのシナリオ書いた後じゃないとシナリオなんぞ書けん。整合性がとれん。

 とりあえず1キャラでもいいから、至急頼んだ。じゃないと俺はしばらく、おまえが炊いたご飯を食べるだけに会社に来ることになっちまう」


 空塚さんはニヤニヤしながら、ぼくの肩をやさしくやさしく「ぽん」と叩いた。


「がんばれ、乙葉おとはディレクター。発子はつこさんが適当なこと言ったんだ。お前なら絶対にやれる。間違いない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る