第2話 D.S.
━金髪は、金子コウジと名乗った。
うん、やっぱり知らない。で、その知らね~金髪のコウジとか言うヤツが、何故か文化祭でバンドに誘ってる。
何なんだ?
大体、文化祭なんて柄じゃね~んだよ。ましてやバンド??とんでもない。
あんなもん、チャラついた連中が仲間とワイワイして、モテたいが為だけにやるモンだろ。
ましてや人前でそんな事出来るかよ。
しびれを切らせたコウジの仲間が睨む。断ったら今にも殴りつけられそうな状況だ。
ど~する?ど~すんのよ、オレ?
『で、何の曲やんの?』
うわ。何で?何聞いてんだよ、オレ。
『マジか!?やってくれんの!?っしゃ~♪とりあえず、ラスティ・ネイルは堅いよね♪』
コウジはめちゃくちゃテンションが上がった様子で答えた。
かくして僕は、コウジのバンドに加入する事になったんだ。
━バンド。
それはこれまでの人生で、もちろんこの先も自分には全く関係ない・・・むしろ、一番かけ離れてるモンだと思ってた。いや、それさえも思わない位自分には想像も出来ないモノだった。
オレの家は音楽に溢れていた。父親の趣味で60~70年台のR&B、ブルース、ジャズ、ファンク、ロックが常にレコードプレイヤーで流れる。父親自身もバンドをやっていたようで、家には3台もピアノにキーボード。母親もクラシックの虜で、ショパンがよく流れてた。
その子供がピアノを習うのは必然的で、幼少期からピアノ教室に強制的に通わされた。
練習中には、手の甲を長い定規で叩かれたモンだ。
そんな子供も反抗期を迎え、せめてもの反抗で選んだモノは吹奏楽だった。
その日から僕の手は鍵盤からトランペットに持つモノを変えた。
長い音楽漬けの日々。
無理矢理やらされたソレはやがてトラウマになり、高校に入る頃にはすっかり毛嫌いする程に。せめてもの反抗で選んだ吹奏楽もいつの間にか辞めてしまった。
音楽なんてやるモンか。
本気で思ってた。
なのに・・・!!
それなのに・・・!!
今になって・・・!!
コウジはドラマーだった。
それもかなり上手い(・・・と、当時は思ってた。)。
帰り道での初対面から一週間たった頃、地元のスタジオに入った。
一週間で課題曲を覚え、なんとか弾けるようにしたんだ。
コウジは激しいドラミングを見せ、ギター、ベースと合わさり、爆音で耳が痛くなった。
ボーカルは何を歌っているのかサッパリだったが、終始苦しそうな顔をしてた。
毎日、毎日練習を重ね、やがて形になってきたその頃、事件が起こった。それは文化祭でライブをやろうという、最初の目的を白紙に戻す事にもなる重大な事件だった。
コウジが練習に来なくなったのだ。
━重く気まずい雰囲気だ。
ドラムのいないスタジオは練習にならず、本番も近い事もあり皆ピリピリしていた。
元々、コウジの友達連中が集まったバンドだ。周りは元々皆ヤンキーで、『オレ』1人が浮いてる気まずい状況。
誰かが何かを口にすれば、瞬く間に殴り合いのケンカが始まりそうな、そんな空気だ。
その頃には僕は、コウジの『ロックバンドは金髪だろ♪』などという、訳の解らない理屈から髪を染めさせられ、口調も彼らに近いモノになっていた。
だからと言って仲間になった訳ではないし、彼らの事情に口を出すようなポジションでもない。ただただ彼らの話を聞くばかりだった。
『コウジ、学校辞めるらしいよ。』
自慢のリーゼントを揺らして、ギターが言った。
いやいやいやいやいやいやいやいや・・・!!何を言ってる??学校辞める??意味解らんし。
何なんだよ、コレ。
文化祭は?
ライブは?
この、何のポリシーもない金髪は?
ど~してくれんだよ!!
せっかく楽しくなってきたのにさぁ。音楽が初めて楽しくなってきたのに・・・。
その夜、オレは買ったばかりの携帯で、初めてコウジに電話をした。
コウジはケンカ、たばこ、女、そして、高校生が入れないいかがわしい場所に出入りし、酒を飲んではまたケンカを繰り返した。
その結果学校にも居られなくなり、親の力ではもはやどうにもならなくなってしまったらしい。
電話の最後、コウジは言った。
『ライブは絶対ぇやろうな!!』
だから・・・
『どこでだよ!!!!!?』
だからヤンキーは嫌いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます