『1978』

@ryothenmn

第1話 D.C.

━もう、お前らとは一緒に演れねぇな・・・。

 

彼が出て行ったそのスタジオの扉を、見つめる事しか出来なかった。追いかけて、そして何か言葉を掛けなければ、本当に終わってしまうのは解っている。だけどその扉は堅く閉ざされ、もう二度と開く事はない 。

 

僕はその後ろ姿を、きっと忘れる事は出来ないだろう・・・。

 

 

 

 


 放課後、いつもの帰り路。一緒に帰るような仲間もいなければ、彼女なんている訳もない。どうせつまらない毎日だって唾を吐いて歩いてた。だからといって悪にもなり切れず、ただ中途半端なポジションで妥協する日々。僕はどこかに置き去りにされた日々を生きてる。なんとなくそう思ってたんだ。

 

 

『お~ぃ!!』

 

突然後ろから呼び止められる声が聞こえたが、まさか自分だなんて思いもしない。つまり、全くの無視だ。 


ウチの学校の生徒は、ほぼ全員が何かしらの部活に属す。だからこの時間、帰りに1人で歩くのは僕くらいなもんだ。

 

その何にも属さない自分を、何故かカッコいいと勘違いして気取っていた。

 

声は続く。

 

『お~い、無視すんなって!!』


もしやと思い振り向くと、髪を肩まで伸ばし、金髪に染めた見知らぬ顔が走ってくる。

 

なんだ?

 

絡まれんのか?

 

なんとなく、そう思って身構えた。こっちに走ってくるアイツは、間違いなく面識はないし、どちらかと言うとキライなタイプの人種だ。浮ついた作り笑顔と、同じ顔してついてくるチャラついた連中。何かにつけ暴力に頼るクセに、やたらと仲間、仲間と妙な連帯感を押し付ける目障りな連中。


いわゆるヤンキーって人種だ。

 

追いついた彼は、予想外な事を言った。

 

『君さ、ピアノ弾けるんだって??』


━ピアノが弾けるのか?彼は確かにそう言った。

 

アンタどこの誰よ?大体、馴れ馴れしいんだよ。友達か?違うよねぇ?

 

まぁ、考えるだけで言葉にならず、出てきた言葉は『まぁ、多少・・・。』

 

普段、友達とですら話すのが苦手な自分にしちゃ頑張った方だ。

 

『良かったぁぁぁ~♪』と、安堵の表情を浮かべる金髪。

 

は?何を安心しちゃってる訳?こっちは未だに警戒心マックスなんですけど?

 

金髪はこう続く。


『キミんトコのクラスの子に聞いたんだけど、合唱コンクールでピアノ伴奏やったって?うん、うん。ちょうどさ、ピアノ弾ける男、探してたんだわ!!』

 

だから何を言ってんだ?仮に弾けるとして、それが何だ?金髪ロン毛のヤンキーが、何故ピアノを弾けるヤツを探す?新手のカツアゲか何かか?


僕の警戒心丸出しの顔を見てかどうか、金髪はこう言った。

 

『オレら、文化祭でX JAPANの曲やるんだ!!だからさ、ピアノ弾いてくんないかな!?』

 

 

は?何て?文化祭?X JAPAN?一体何を言ってらっしゃる?

 

混乱した頭からようやく出てきた僕の言葉は、『アンタ、誰?』だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る