第15話 アネモネと僕
今この子が喋ったのか?
「あんまり沢山聞かないでよ」そう言ったのか?
「人間と話すのが初めて」そう言ったのか?
目の前で起きているこの状況に理解が追いつかない。
するとまた頭に声が響く。
『そうだよ。私の声が聞こえるでしょう?』
待ってくれ。この子は人間ではないって事なのか?
『うん、だって私アネモネだもの。』
私はアネモネ?何を言っているんだ?
と言うか、心が読まれている?
『今会話してるじゃない。人間は心と心は繋がらないの?』
落ち着け。落ち着け。落ち着け。
アネモネ?この子が?
じゃあ、あの時病室から見かけたこの子が病院の庭に咲いていたあのアネモネ?
そして、今目の前にいるこの子は人間ではなく植物?
意味がわからない・・・。
青い髪の女の子・アネモネが、また目の前でクスクスと笑う。
その笑顔から、どうやら今が危険ではないという事は伝わった。
一つ大きな深呼吸をして、僕はようやく少し落ち着いてきた。
まず、ここは僕のいた世界ではないよね?
そう聞こうと思って気がついた。「声が出ない!?」
しかしどうやら心で思う事はこの子に聞こえているようだ。
青い髪の女の子はこう答えた。
『君のいた世界?そうとも言えるし、そうじゃないとも言える。だってここは私の結界の中だもの。この結界の中でしか、あなた達人間の魂魄こんぱくは狩れないの。』
っ!?「魂魄こんぱく」!?「狩れない」!?やっぱり僕は今ヤバい状況なのか?ってか、魂魄こんぱくって何なの!?狩るってどういう意味なの?僕に再び動揺が走る。
『なんだか人間って忙しいのね。落ち着かないな〜。あのね、そのつもりならもう既に狩ってる。今はね?君たち人間の話が聞いてみたいって、そう思ったの。』
彼女はまたクスクスと笑った。
何を話したいんだろう?
この子は名前もあるのかな?
『だから、私はアネモネだってば。話したい事はね、君たちの世界の事だよ。』
彼女はそう答えた。
そして、観察するようにコチラを見ている。
本間さんの言っていた、鎌を持ったフードの女の子はこの子ではないよな、たぶん。
となると、この子の仲間?アネモネではない、他の花の子なのか?
『そうだね。私たちの世界にも色んな子がいるから。君の友達が見たのはきっとトリカブトね。あの子はいつも大きな鎌を持ってるもの。』
トリカブト!?じゃあるいちゃんは・・・。
『それはわからないよ。あの子が狩った人間まではわからないもの。でも仮にトリカブトが狩ったのだとしたら、そのるいちゃんって子はこの世界に来てるかもね。』
この世界に来てる?という事はるいちゃんはこの世界で生きてるって事なのか?
『その可能性はあるよ、見つけられるかはわからないけど。本当に狩られたのがそのるいちゃんって子だとしたら、その子が次の器なんだと思うから。』
色々わからない事がある。器って何だ?次の器?どういう意味なんだろう?
アネモネは、彼女たちの世界の事を沢山教えてくれた。
彼女たち植物の世界では、「印」のある人間の魂を狩る事で生き続ける事が出来るという。
「印」のある人間は彼女たちの世界、つまり結界の中でその魂を奪われる。その際人間の魂は2つに分かれ、陽に属する魂こんは彼女たちの次の命となり、陰に属する魄はくは彼女たち植物の世界で転生する。
人間は自分たちの世界を脅かす存在であると教えられてきた。だけど、それが本当に正しい事なのか?それを知りたいと思っている、と。
僕にあるこの痣は「印」。つまり、この子にとっての次の器は僕なんだ。それは、僕の寿命を奪う事を意味するもの。話して何かが変わるのだろうか。そう思った。
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