第14話 帰路
マサオがいない。
いざ合唱コンクール本番が始まるという時に、マサオの姿が見えなくなった。
担任の水嶋先生とクラス全員で探したが、屋上にも校舎裏にもどこにもいない。
何で?嫌々だったかもしれないけど、コンクールに向けて少しずつクラスの輪も出来てきていたじゃないか。
『どうせ気分でバックレたんだよ。』と、クラスのみんなはさほど心配している様子はない。
確かにマサオは不良だし、授業をバックレて屋上で寝ていたり街に出て喧嘩なんて事はこれまでも多々あった。
だけど今日は何か様子がおかしい。何の前触れもないし、他の不良グループのメンバーも何も聞いていないのだ。
しかしもう時間がない。もう本番が始まってしまう。
いないものはいないのだ、どうしようもない。僕たちは仕方なくマサオ抜きでステージに立った。
マサオがいない。いつもなら特段気にする程の事ではない。せいぜい「またか」と思う程度だ。しかし。
何とも言えない気持ちで本番を終えた帰り道、1人、また1人とそれぞれの帰路につく。
やがて一緒に帰る友達と離れ、僕は1人になった。
何故か今日のマサオがいなくなった事が引っ掛かる。嫌な予感とでも言うか、妙な胸騒ぎがするのだ。
本間さんから聞いたあの話。そして僕の痣。あれから僕にも本間さんにも特に変わった事はない。だが、それが逆に何事においても不安感を募らせる。
マサオに何かあったのではないか?
堂々巡りで答えの出ない悩みのせいだ。いつもの曲がり角を間違えた。
今来た道を引き返す。
夕方という事もあり、街は人通りもある。夕食の買い物らしきお母さん。仕事帰りのサラリーマン。そして僕ら学生たち。公園で遊ぶ子供たちの笑い声が遠くで聞こえた。
夕陽がさしたこの街は、茜色の世界で美しい。人と人との影が伸び、そして重なり混ざり合う。
足元の影に見惚れてしまった。アスファルトと影のコントラストが、茜色の世界が、僕の心をどこか遠くへと連れてゆく。
また物思いにふけってしまった。
ハッと我に帰り前を見る。
あれ・・・!?
気が付くと、いつの間にか世界の色がなくなっている。
まるで時が止まったモノクロームの世界だ。人々も消えている。
状況を把握しようと辺りを見渡す僕。
どうなってるんだ?
訳がわからない。
コ・レ・は・ま・さ・か・・・・。
嘘だろ、まだ夕方だぞ?本間さんの話では、夏の夜の祭りか夜中の2時の公衆電話ではなかったか?コレが本間さんの見た景色なのか?
鎌を持った、フードの女の子が来る?今?
全く理解が追いつかない僕は、あまりの動揺で頭がパンク寸前だ。
すると遠くから女の子が歩いてくるのが見えた。
僕は驚いた。
僕はその女の子を知っている。
あれは昔入院中に見たあの女の子だ!!
モノクロームの世界の中、その女の子は白いワンピースを着ている。肩下まで伸びた青い髪がふわりと揺れ、キラキラと輝いていた。
あの時のあの子のまま??
あの時と違うのは、「今はあの子の顔がハッキリとわかる距離にいる」という事だ。淡い青色と緑が混ざり合い美しい大きな瞳。そして優しく微笑んでいる。
僕は動けなかった。見惚れてしまったのか、この状況に怯えているのかわからない。
だが、コレは間違いなく「僕のいた世界」ではない。それだけはわかる。
そしてあの女の子が今、まさに僕の目の前にいる。
逃げる?いや、逃げるってどこへ?でも何故かわからないが、その子の笑顔から危険は感じない。
話せるのか?何て?ひさしぶり?は?
何を考えてるんだ。そもそも何者なんだよ?
落ち着かない僕を見て、その子がクスクスと笑った。
そして、僕はその子の声を初めて聞いたんだ。
『そんなに沢山いっぺんに聞かないでよ。人・間・と・話すのは初めてなんだから。』
それは声であって声ではない、頭の中に直接響く声だった。
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