第8話 理

私は悩んでいた。


「印」は確かにあの子についていた。

つまり、私が転生するのに必要な器はあの子だという事だ。


あとはどのようにその器とコンタクトを取るか、だ。


それは私たちが生まれてくるその遥か昔から当たり前のようにあり、そのシステムに誰もが何の疑問も感じない、この世界の理。


人間の寿命が見える私たちは、その寿命が尽きるその時に、ほんの少しだけ残りの寿命を分けてもらう事が出来る。

そうする事でまた次の年、新しい器を得て転生する事が出来るのだ。

ただ、その器にも条件がある。誰でもいいという訳ではない。


「印」は突然現れる。人間世界で何かしらの縁がある子供にのみ、首の後ろに浮かぶのだ。

魂の器たる人間は、その寿命を奪われると当然ながらもう2度と目覚める事はない。人間として、は。


だがしかし、私たちの世界では器を見つけ寿命を奪う事さえ出来れば、永遠に存在し続けられるのだ。

そう悪い話ではないだろう。


1つの器を手に入れる事さえ出来れば、次の年にまた生まれ変わる事は出来る。しかしその寿命を得た後も、次の「印」は現れる。

次々に現れる「印」は、狩れば狩る程転生後の自身の生まれる環境がより良い物に変わるのだ。つまり、より多くの「印」を狩る必要がある。


そういう仕組みなのだ。


だけど。


今私は悩んでいる。この理は私たちにとって本当に必要な事なのだろうか。本当に正しい事なのだろうか。

人間は、いとも簡単に私たちの命を奪い、私たちの生きる世界を破壊する悪いモノだと大人たちは言う。狩られて当然の存在なのだと。

だから私たちの世界では、それはこれまで当たり前にしてきた生きる術なのだ。今の今まで何の疑問も持たなかった。


しかし、本当に私たちに必要なのは己の寿命を受け入れる事なのではないだろうか。

その最後の瞬間に後悔する事がないように、今を生きる事。それこそが大切な事なのではないのだろうか。限りがあるからこそ、その想いは美しいのではないだろうか。


私は思う。この惑星に生きる生命はもっとお互いを尊重し、大切に思う事も出来るのではないかと。


次の「印」のあの子。病院で寝ていた男の子。あの子とコンタクトを取る時に話してみたい。本当に人間は悪い生物なの?人間をもっと知りたい。







私はアネモネ。この世界の真実を見つけたいの。それが今の私の、純粋な想い。

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