第7話 噂話

『ねぇ、聞いた?山口くん、また隣街の中学の人たちと喧嘩したらしいよ。』


『聞いた聞いた!なんか相手の子、すごい怪我したって。やだね〜、怖〜い。』


『ねぇねぇ、聞いた?なんかこないだ喧嘩したのって、5組の沢藤くんが絡まれてたの助けたからなんだって!!』


『そうなの?じゃあ、友達を助けに行ったの?』


『そうなんだって!だから本当は友達思いなのかもね、怖いけど。』



『大ニュース!大ニュース!なんか昨日山口くん先生の事殴ったんだって!』


『マジで?昨日早退したのってそれ?』


『あれでしょ?生活指導の樫木先生の事でしょ?あの先生理不尽に殴るからな〜。でも流石に先生殴るとかヤバいでしょ〜、怖すぎるって。』



『ねぇねぇ、聞いた?なんか昨日先生殴ったのって、4組の戸井田くんが先生に不良だからってだけで殴られたからなんだって!』


『何かね、殴らなくても指導出来るだろって怒ってたって。』


『へ〜、先生カタナシじゃん。でも山口くんも殴ってたら駄目じゃんねぇ?』


『なんかやっぱり怖いね、山口くん。』



『山口くん最近けっこう笑うようになったよね。』


『うん、なんか最初誰とも話さなくて怖かったのにね。』


『最近はそうじ当番とかもちゃんと残ってやってくれるようになったんだって。』


『あはは。そうなの?ホントは意外と真面目だったりして。』


『そんな訳ないじゃん。不良だもん、絶対悪い事してるんだよ見えないトコで。』



『ねぇさっき山口くん友達殴ってなかった?』


『あ〜、なんかジャンプ忘れただろとか言ってた。でも、本気じゃないっぽいし冗談なんじゃない?』


『うん、でも痛そうにしてたよ〜?怒らせたら怖いねやっぱ。』



『ねぇねぇ、さっきの見た?山口くん、僕は死にましぇ〜んだって!!』


『あはは、意外!!ドラマとか見るんだね!!全然似てなかったけどね!!』


『シーっ!!駄目駄目、聞かれたら怒るよ〜?』



『なんかさっき山口くん飛び出してったけど何?』


『なんかウチの学校の子が隣街の人達にカツアゲされたんだって!それですごい怒ってたみたいだよ!』


『え?マジで?1人で行ったの?ヤバいって。』


『怪我とかしないといいね。』


『うん、でも後からブッチャー先輩とかも向かったらしいから大丈夫だよきっと。』



『さっき校舎裏で山口くんたち見かけたんだけど、なんかアレやってたよ?CMの!』


『ダッダーン、ボヨヨン、ボヨヨ〜ン!だって!』


『うっそ、馬鹿ウケ!教室戻ってきたらやってもらおうよ。山口くん体格いいからちょっと似てて面白いね!』



『ねぇ、なんか最近山口くん、変わったね。ジャンプの話とかするんだね。給食の時話してるの聞こえた〜。』


『そうそう、なんかろくでなしブルース好きだってね!!』


『え、じゃああの髪型ってさ〜、真似してんのかなぁ?』


『そうなんじゃない?なんか意外だね!!ちょっと可愛い所もあるんだ。』








突然話しかけてきたアイツは、あれから毎日同じように給食の時間になるとオレ達不良グループと昼飯を食べた。

約束通り月曜日にはジャンプも持ってくる。たまに忘れる事もあったが、その度に軽くどついてやる。ほんの冗談のレベルだ。


次第にいわゆる普通の部類に入るクラスメイトも、ソイツと話している事でオレに対する見方も変わってきたようだ。

まぁ、思ったより悪いヤツじゃないのかも?位なモンだろうけどな。

それでも日々の学校生活の中で、少しずつ話しかけてくる女子も増えオレは柄にもなくこういう学校生活も悪くないかもな、なんて思い始めていた。


夏が近づいてきた頃、オレ達のクラスに転校生がやってきた。

自己紹介なんてさせられていたが、なんだか堅そうな女子だ。真面目そうだと言うべきか?暗そうと言うべきか。


それでも周りの連中が休憩時間の度に話しかけに行っていたお陰か、少しずつ緊張も解れてきているように見えた。


そんなある日、前に喧嘩した青中の不良仲間と話してる時に転校生が来たという話になった。

前の喧嘩から青中の不良達とも和解して、たまに遊んだりするような仲になっていたのだ。


『そっちの学校にさ〜、本間まどかって転校してったろ?』


『あ〜、そうそう。最近転校してきたわ。なんかすっげ〜真面目ちゃんな感じのな?』


『そうそう、その子コッチの学区だったから小学校一緒だったんだよ。最後の方学校来なくなっちゃったけどな。一応コッチの中学に進学もしたんだけど、全然来ないウチにいつの間にか転校する事になったんだとさ。』


『へ〜、何?そっちで何かあったの?』


『噂だぜ?あんまり先生とかも詳しく教えてくれないんだけどな?しかも、あの公衆電話の話知ってるだろ?あれ関係あるらしいぜ。』





オレはその噂話に驚いた。まさかこんな身近に殺人事件があるなんて。不良の世界だって、いくら威勢のいい事を言ってみても本当に殺したりなんてしない。その位の程度は流石にオレ達にだってわかる。


幽霊に殺されたという妹。その姉である本間まどかは幽霊が見えるとか言うらしいじゃないか。姉のまどかが言うには、妹は噂の公衆電話が鳴っているのに出て、そして幽霊に連れて行かれたとか言ってるらしい。

幽霊なんてあり得ない。ホントは殺人犯の事見てたりするんじゃないのか?その恐怖でおかしくなってるんじゃないのか?


それにその犯人、まだ見つかってないって言うじゃねぇか。


オレは決めた。その犯人、オレ達の手で見つけて警察に突き出してやる。明日、学校に行ったらみんなに言ってやろう。それで仲間総出で犯人探しだ!!オレ達の街で舐めた事したらどうなるか思い知らせてやる!!


オレは息巻いていた。その後、オレ自身の命が狙われるなんて知らずに。

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