第6話 懐疑心 

それはよくある話だ。

小学生の時に両親が離婚した。ある日突然父親が家を出ていったのだ。

理由なんてわからなかったし、興味もなかった。

オレは母親と2人で暮らす、中学1年生だ。


小学生の頃から体格も良く、喧嘩も負けた事がない。元々すぐ頭に血が昇ってしまう所があって、気に入らないヤツは力でねじ伏せてきた。


そんなオレは中学生になって不良と呼ばれるようになる。わかりやすいグレ方だ。


入学間もないある日、クラスメイトの1人が突然話しかけてきた。自分とは対極にいるような、いわゆる優等生タイプだ。


それは給食の時間の事だった。

オレの学校では給食の時間になると5人一組で机を向き合わせ食べる事になっている。

オレはいわゆる不良だったし、クラスメイトにも怖がられその輪には入れずにいた。

オレの周りに集まるのは、同じように不良と呼ばれる連中だけなのだ。


『山口くん、僕もここで一緒に食べていい?』


なんだコイツ。オレが怖くないのか?どう見てもコイツとオレでは住む世界が違いすぎる。話も合わないだろう。だけど特段断る理由もない。オレはソイツを一瞥した後無言で頷いた。


『あのさ、山口くんとまだそんなにちゃんと話した事ないんだけど・・・』


ソイツはコチラの機嫌を伺うような雰囲気で話はじめた。


『もし良かったら友達になれないかなって思ってさ。』


は?なんだそりゃ?わざわざ友達になろうなんて言って友達になるか普通。それにどう見たって「コッチ側」の人間じゃないだろお前。


だけど別にソイツが嫌いな訳じゃない。正直言うと興味がないのだ。


『別にいいけど。』


それだけ言うとソイツは嬉しそうに笑い、『ありがとう』と言って配膳された給食をオレと向かい合わせた机に置いた。


オレの名前は山口正夫。周りの不良仲間からはマサだとか、マサオと呼ばれている。

最近はチャンプロードが愛読書で、免許が取れるようになったら絶対CBXに乗るのだと決めている。

しかし、今目の前で一緒に給食を食べているコイツは絶対そんな話に興味はないだろう。


好きな漫画の話になった。いわゆる王道漫画のジャンプの話だが、オレはろくでなしブルースが好きだった。てっきりそんなヤンキー漫画なんて読んでいないだろうと思ったが、意外にも前田大尊が好きらしい。


だけど何だか気に入らない。何というかオレの機嫌を取るような、そういう話し方に感じるのだ。


オレはコイツを試してみようと決めた。


『お前さ〜、毎週ジャンプ買ってんの?』


『あ、うん。買ってる買ってる。ほら、3丁目のモンマートあるじゃん?あそこ日曜日の朝にはジャンプ売ってるから買いに行くんだ。』


ジャンプは毎週月曜日に発売される人気雑誌だ。だが、そのモンマートは何故か日曜の朝に入荷して売っている。それは知っていた。だが、わざわざ日曜の朝に買いに行くのも面倒くさい。そもそも自分で買う事もほとんどないのだ。


大体不良グループの誰かしらが月曜日に買って学校に持ってくる。それを皆で回し読みしているのだ。


ある日屋上で授業をサボって仲間と屯していると先輩がやってきた。ヤンキーは上下関係が厳しい。先輩の言う事は絶対だ。

お前ら一年だろ?と先輩。どうやらこの屋上は先輩方の特等席らしい。ちゃんと番長に挨拶したのかよ、という事だ。


この学校には斉藤先輩という、いわゆる番長がいる。通称ブッチャーと呼ばれる(理由なんて知らないし、聞ける訳もない)その先輩は3年という事もあるが、人並み外れた体格でとにかく強いとまわりの中学にも名前が通っていた。


オレだって少なくとも同世代の中ではかなり体格もよく、喧嘩も負けた事はない。がしかし、その番長は桁違いだ。どう頑張っても今のオレには歯が立たないだろう。


その3年の不良グループに目をつけられた。この学校の不良グループで上手くやってくつもりなら、毎週月曜日にジャンプを買ってこいと言われた。体のいいみかじめ料だ。そうすりゃ屋上でも体育館の裏でも、いわゆる不良グループの溜まり場になっている場所は好きに使っていいぞ、という事だった。


だがしかしオレにはわかる。買ってこないとどうなる?その場所が使えないだけでは絶対済まない。どうせ呼び出されてシメられるに決まってるんだ。


そして今給食の時間、目の前でジャンプの話をするコイツ。ちょうどいい。コイツに毎週持ってこさせようと決めた。


『あのさ〜、毎週日曜に買ってんだったらさ〜、月曜の朝学校来る時持ってこいよ。オレ達と仲良くしたいんだろ?みんな喜ぶと思うぜ?』


『あ、別いいよ!どうせ毎週買うし。そしたらじゃあ、これから仲良くしてくれるんだね。良かった。』


コイツが何の目的があってわざわざオレ達不良グループと仲良くしたいのかわからないが、とりあえずこれで先輩に呼び出される事もない。ついでにコイツの腹の底を探ってやる。


そう思っていた。

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