第4話 慟哭

家に戻ると警察の人が来ていた。

お父さんも家に戻っていて、両親に事情を説明しているようだ。


『るい、戻ってないの・・・?』


どうしよう、私のせいだ・・・。


扉の開いた音を聞いた時間。


その時の状況。


何か変わった事がなかったかなど。


警察の人に沢山聞かれたけれど、何て答えたのかはパニックになっていたせいで今は思い出せない。


それでもその時の事はちゃんと伝えたと思う。けれど・・・。


今付近の捜索をはじめたと警察の人が両親に話しているのが聞こえた。


それでも私は家で待っているだけなんて無理だった。いても経ってもいられず、もう一度外を探しに出る事にした。


警察の人が家に来ていたし、お母さんもかなりパニックになっていた。お父さんは落ち着けと怒鳴っている。


私に部屋に戻っていなさいと言っていたが、それどころではない様子だった。私が外に出たのも気付いていないだろう。



家の付近、るいが徒歩圏内で移動出来る範囲は限られている。


自転車?


しかしるいの自転車は家にある。そもそもるいがこんな時間に自転車で出掛けるなんてまずあり得ない。


それにお気に入りのスニーカーは家にあったのだ。


玄関の鍵もしまっていた。


夜中に起きて部屋を出た後、そのまま消えてしまったとしか思えない。


それでも家の中にいないという事は、やはり外に出た以外にあり得ないのだ。


最初に外に出た時は近くのコンビニ付近までしか探していない。


まさかとは思うが、駅の方に?


私が住んでいる青木町から駅方面に向かうには産業道路を渡り、並木町を抜けていかなければならない。


自転車でならまだしも、歩いて行くとは考えにくいけれど・・・。


私は自転車で駅前まで探しに行く事にした。



並木2丁目から駅前を抜けて3丁目方面へ。こんな時間にこの辺りに来た事なんてない。


駅前の繁華街を抜けると街灯も少なくなってくる。いわゆる住宅街だ。


当然だけど外出している人もほとんど見ない。


るいが1人でこんな所まで来るだろうか・・・。


深夜でも人がいる駅前まで戻ろうと引き返す。ちょうど3丁目公園辺りだ。


街灯が少ない事もあって、公園の前の電話BOXが闇に浮かぶように見えた。


電話BOX・・・


一瞬何か違和感を感じた。


自転車を進めると、その違和感の正体が見えてきた。


半開きの扉・・・


電話機の下、受話器が外れて揺れている。


その違和感は、とてつもない恐怖に呑み込まれてしまった。









私は見つけてしまったの。









揺れる受話器の下・・・








あれは今日縁日でるいが取ったスーパーボールだ。


何故だろう・・・。

電話BOXに落ちていたスーパーボール。それがるいの物だ、と直感で感じた。


スーパーボールなんて、同じような色や大きさの物はいくらでもある筈だ。


でも、何故かその直感は確信に近い。


私はここにいたと、るいが言っているように思えたのだ。



すぐさま家に引き返す。恐怖と焦り、それにようやく見つけた手掛かり。


私はどの道を通って家に戻ったのか覚えていない。


家のリビングにはかなり大きいテーブルが置かれている。木目の綺麗なテーブルで、椅子も同様に豪華な彫り細工がなされている。

いつもそのリビングのテーブルで私たち家族は食卓を囲んだ。


お母さんはテーブルに顔を伏せていて、泣いているようだった。その隣にお父さんが座り、お母さんの肩をさすりながら警察の人に説明を受けていた。


私が外から戻った事に気が付いたお父さんは、余計な心配をさせるなと私の頬を叩いた後、優しく抱きしめてくれた。


窓の外、空が白んできている。

るいは戻る事がなく、夜が明けてしまった。

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