第26話 世の中、銭やねん。あと、地図の出番です

文字を使って地図を作ってあります。

現在、体力が無いのでこれで勘弁してください。

もし読みづらいようでしたら、ご意見いただければ改善に力を使います。



 ひし形から下、本文です。

    ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇



 このフライファエド領はローレンヴェルツ王国の最も東に位置し、その東側は隣国との国境にもなっている大森林だ。

 この森林は南部山脈の北の端にもあたるが、山脈を東に超えても森は長く大きく広がっている。


 簡単な図にすると下の通りだと思って欲しい。

 (★の位置がフライファエド領  〇の位置はゼンガ―リンツ侯爵領)



                 北部諸国連合


               北部丘陵地帯

               荒野  北部丘陵地帯

  ローレンヴェルツ王国   荒野   大森林 大森林  エストクルガン帝国

                 ★  大森林 大森林

                    大森林 大森林 大森林

                 〇  中央山脈

                   (山脈は南に向かって長く伸びている

                    また、この山脈を水源として北に向かう

                    大河が森を二分するように貫いている)

                  


 そして、ここからが重要だが、この大森林への侵入が出来る「森林管理権」を持っている王国貴族は現在フライファエド家だけだ。


 一時期は統治の失敗から辺境伯家に森と土地が奪われたこともあったそうだが、百年ほど前の政変においてフライファエド家は先祖伝来の土地を取り戻すことに成功し、今に至っている。

 国王の座を巡る戦いで勝利者側に付き、同時に歴史的にも森林とその西の土地を所有する正当性があると認められたのである。


 また、このフライファエド家に与えられた特権は森林開発時の利権争いを避けるための王国なりの安全確保であろう。


 利権争いを収められない王家は無能として諸侯に舐められる。

 ならば最初から争いの起きる隙間を潰してしまおうという訳だ。


 何より、ほとんど戦力も無しに魔獣を見張る役目を押し付けられたフライファエド家に対する正当な交換条件とも言えた。

 役割を与えられた後の百年間はフライファエド家にも近隣諸侯にも大森林の開発力が無い以上、決して過大な利権とも言えなかったのだが、この数年で状況が変わったようだ。


 まず国家を揺るがすほどの疫病の流行が収まった。

 それによって国や諸侯の人口が回復すると同時に経済活動も活発化し、諸侯は領地を富ませるために様々な手口を求めるようになって来る。

 新たな農法の導入をする領主、鍛冶や製鉄に力を入れる領主、薬草を栽培し医学のための学校を開く領主など、その取り組みは様々だ。

 更に魔法技術の発展は、魔獣という存在に価値を見出し始める。


 そのような時代の流れの中、フライファエド領の南に位置するゼンガ―リンツ侯爵家は自領の北東部に広がる大森林に目を付けた。

 ここは巨大な原木が獲得できるのみならず、近年発展してきた様々な魔道具の素材となる魔獣とその心臓部の魔石が山と眠っている宝石箱である。


 見逃すには惜し過ぎる獲物だったのだ。


 最初は単に共同での森林開発を持ち掛けるつもりであった。

 だが、不意に訪れた近隣領主の訃報をゼンガ―リンツ候は好機と見た。

 森林そのものを手に入れるのは今しかない、と。


 残された娘には悪いが、後ろ盾も無い小娘ひとりでは森林開発などいつになるやらの話である。


 何より貴族でもない彼女に本来ならば森林への侵入権は無い。

 今のところ百年間の慣習によって森林管理をフライファエド家が行っているだけであり、そこに王国法の根拠は存在しない、というのが侯爵の主張である。


 もちろんアステリアに来春の叙爵が内定している以上、これは詭弁ではある。

 だが、詭弁でも法を根拠としての弁が立っているのが厄介だ。

 討議すれば侯爵が負けるにしても、争いが成り立つ根拠は充分にある。


 無論、侯爵としては跡継ぎの娘に開発連携の話を持ち掛けてもよかったが、結局のところ開発のほとんどを自分たちが行うことになるだろうとも考える。

 また、どの様に公平な契約を結ぼうとも万一にもアステリアが欲深く育ったならば、後々には揉め事の種になるばかりだ。

 これは未来において、“あり得る話”というだけではなく、そのような争いになれば知識のない幼子をたぶらかして利権を得たとアステリア本人、あるいはアステリアの後ろ盾として名乗りを上げる貴族から糾弾されるのは間違いない。

 そうなれば王家を巻き込んでの厄介事にまで発展するであろう。


 だが、最初からすべて手に入れてしまったならどうか?

 どうせ森林の管理者は必要なのだ。

 フライファエド家は現在、正式の貴族ではなくなっている。今なら最小のトラブルで森林管理の実権を得ることができる。

 森に入って実績を上げながらフライファエド家が領域の経営もまともに出来ていないという証拠を探すなり作り上げるなりする。

 これなら、王家も宙に浮いた森林管理権を侯爵家に移すことも考えるだろう。

 叙爵式典が開かれる春までの間が勝負だ。

 住民を虐げ、森の入り口を不法に占拠する“土豪”フライファエドを撃つ。


 ゼンガ―リンツ候が、その様な筋書きを考えたとしても決して悪辣あくらつとは言えない。

 何故なら、力あるものが全てを得ることが、この世界の習いなのだろうから。

 


      ☆              ☆



 以上が、村長の自白と俺の経験から予測したゼンガ―リンツ侯爵の考えだが、。そう間違ってもいないと思う。


「で、アステリアが領民を虐げているとか、領地経営ができていないとかいう証拠づくりに協力してるのがグリーとかいう南集落の長って訳だな」


「はい、仰る通りでございます」


 さて、次に聞いておきたいのは北集落が従順になった理由だ。

 少しばかりドスの利いた声で問いかける。  


「で、ダスモンド。あんたは、ご領主様による魔獣退治の結末と俺やアイの輸送魔術を見て自分の失敗を悟ったって訳か?」


「まことに面目次第もありません。

 少しだけ言い訳を許していただけるなら、私たち北集落は一番力がありません。

 南のグリーに逆らうなど、とても……」


 なるほど地図を見ると、この領地では土地の肥え方と川からの取水の係わりから南集落が最も力を持っているようだ。

 だが、それはひとまず置いて、次は村長に向き直る。

「で、お前はどうなんだ?」


「わ、私は、その、様子見と言いますか」

 自分は罪がないとばかりに言い訳をし始めた村長だが、顔を上げた瞬間に国綱アイと目が合う。

 途端、泣きそうな顔つきになって言をひるがえした。

「いえ、はい、申し訳ありません! 手を貸す約束をしております!

 北に圧力をかけたのも私です!」


 そう、国綱と話しを終えた後の村長は、何やら毒気が抜けたように素直になった。

 もちろん、まだまだ怪しいが、少なくとも国綱の前では嘘が付けなくなってしまったようだ。

 また、アステリアに向き合うときは常に頭を垂れて恭順の意を示す。

 これが本当の変化なら嬉しいのだが、俺としてはしばらく警戒を解く気はない。


 俺は小心で臆病なのだ。


 さて、フライファエド領を簡単な図で示すと、以下の様になっている。


           森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森

↑北の荒野      森森森森森森 北の遺跡 森森森森森森森森森森森森森

            森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森

王都へ← 街道       森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森森

↓                 森森森森森森森森森森森森森森森森森森

        北集落(26名)       森森森森森森森森森森森森森

      畑   畑   畑  開墾中   森森森      森森森森

                       森森森  黒の森  森森森

        中集落+★領主館       森森森      森森森森

         (47名+α)       森森森森森森森森森森森森森

                       森森森森森森森森森森森森森

      牧草地  畑   畑  開墾中  森森森森森森森森森森森森森

                       森森森森森森森森森森森森森

           林   林       森森森森森森森森森森森森森

         南集落(52名)      森森森森森森森森森森森森森

         畑      畑        森森森森森森森森森

      

川 川  橋  川 川 川 川 川 川 川 川 川 川 川   山の裾野


          ゼンガ―リンツ領(フェルダーン地方)



 中集落の人口に+αが付いているのは、領主と使用人、その家族を別にしているからだ。

 俺や国綱を含めて屋敷の人間は兵士と官僚であり村の生産人口とは言い難いので数からは省いて表記した。

 もっとも、家人全員で15人前後はいるので半数は麦の刈り入れなどの応援人員として村人と共に働いてはいるのだ。

 同じ仕事で汗を流し、労をねぎらいあった仲であるはずの村人の裏切りに庭師3人組やメイドの3人娘などは、ひどく落ち込んでいる。

 反面、怒髪天を衝く勢いで怒り狂っているのは侍女のマリーだった。

 裏切り者の代表として名が挙がった南集落長のグリーとは、かつて彼女を農奴として売り飛ばそうとした、彼女の父親なのである。


「あの野郎!

 奴隷商売に手を付けかけた時に首切り落とされていてもおかしくなかっただろ!

 先代様のご慈悲にすがって生き延びたくせに、また裏切るとは! 恥を知れ!」


「んにゅ~。マリーっち、怖いっち!」


 あまりの迫力に国綱が身を縮込ちぢこめてカタカタと震え始めた。

 げっ! こいつ、いつの間にか午後のティータイムの場であった四阿あずまやから逃げ出して俺の足にしがみついてやがる。

 その一方で、立場上逃げる訳にはいかないアステリアはマリーのそばで固まったままドン引き状態である。

 だが、う~ん。確かにあれは怖い。

 あのレベルの迫力は傭兵仲間でもそうそう出せた奴を知らんなぁ、と思わず感心してしまう。


 と、視線を感じたのか、マリー嬢が元に戻った。

「あ、す、すいません。わ、私ったらなんてはしたない。オホホ」


「んぅ、ホントにオホホって言ってごまかす人、初めて見たぉ……」

「見なかった事にしてあげなさい」

「うぃ」

 そう言うと国綱やつはようやっと四阿あずまやに戻っていく。

 小さく、“怖かったよぉ”“ごめんね”というふたりの声が耳に届いた。

 おそらくマリー嬢は奴の友達ナンバー02なんだろうな。


 ともかく敵の姿は見えた。

 ならば、次なる戦闘に向けて作戦会議といこうか。


 あ、その前に飯、飯。



    ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇


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