第19話 ヘックス……、くしゃみではありません
森から
そのため500m程先の民家をぶちぬいて魔獣の集団が現れた時、大型の斧鹿のほかには猪が半数紛れこんだ混成チームであることがすぐに見て取れた。
アステリアが過去に学んだという知識を引っ張り出して、目の前の魔獣について説明をしてくれる。
本物を見たことはないというが、特徴をきちんと覚えて目の前の情報と一致させているのだろう。大したものだと感心する。
「多分ですが、あのうち5頭はアーマードボアと呼ばれている魔獣だと思われます。
ただ、1頭だけ魔獣化していない
アステリアが言う巨猪とは、恐らく集団の後方でのんびりと口を動かしている一個体だろう。
その一頭だけが
だが、それでも名前の通りに巨大すぎる程、巨大だ。
「魔獣化してなくてもあんなにデカいのか!?
確かに他の個体よりは小さいが、それでも体長3mはあるぞ!
そこいらの小屋と同じ大きさじゃないか!」
毎年、真面目に視力調整しているおかげで俺の視力は3.0あるが、アステリアも負けてはいないようだ。
500m先の魔獣の個体の違いをしっかりと見分けている。
「んぉ。魔獣でない奴は右目の下に白い毛が一房あるから、あれは殺さないでペットにしおうよ」
っと、俺ら以上の視力のバケモンいたわ。
あと、ペットは不許可だ。あほう。
……あきれてる場合じゃない。
今後の動きについて指示を入れなくちゃあな。
「なあ相棒、あの群れのトップは鹿と猪、どっちだと思う?」
「んっ。そりゃあイノシシだよぉ。明確にリーダーシップ取ってるわけじゃ無いけど、シカは着いてきてるだけって感じでしょ」
「俺も同意見だ。だから一番デカい猪をこっちに誘導してくれ。それなりに加速をつけてな」
「んにゅ~。
「努力しろ! ロッジ正面300m地点に最終防衛ラインを敷く。
残りドローン600、すべて使って壁を構築してくれ」
「へっくすで?」
「へクスで!」
途端に300m先の路上には真っ白な壁が現れる。
道路脇の空地まで覆うようにしているので、高さは5m幅は20m程にまで広がった霧の壁だ。
これがドローンによるヘックス(六角形)構造の壁である。
ドローンひとつひとつは2cm程度の大きさだが、それが100基単位で距離を詰めて一か所にいれば、少し離れた位置から見ると、まるでそこに霧が生じたかの様に見えるものなのだ。
良し! いい感じだ。
「敵性生物、走り出したよ。へっくす
300m地点を0とする相棒のカウントダウンが始まる。
銃を構えてスコープを覗く。
実弾銃と違って風の影響を受けなくていい、などと考えながらレティクルに先頭を走るひときわ大きな
(レティクル:スコープ内で標的を捕えるための十字)
魔獣化した猪は頭頂部に巨大な一本角が生え始めている。
また、なによりの異常は真っ赤に光った目だ。その光は決して見間違いなどではなく本物の発光である。
角はともかく、身体、それも目から光を発する生き物など地球の自然界には魚類か、後は探しても昆虫ぐらいしかいないだろう。
その異常が、これらの猪や鹿が常識を越えた生き物だということを教えてくれる。
「380、360」
魔獣とは、魔法とは一体なんだろうか?
それは俺たちがこの星で生きる上で、知らなくてはならない重要な事柄のひとつに間違いはないだろう。
もし、地球に帰れないのなら、この星の謎を一つひとつ解くことを楽しみに生きていくのもいいかもしれない、などと考える。
目標は、いよいよ予定した地点に近づく。
「320、310、コンタクト!」
壁が爆発した!
☆ ☆
いや、爆発したかのように見えた。
「あっ、あれは!」
アステリアが驚くのも無理はない。
先頭を走っていた4頭の猪は爆発と見間違えるほどに明るく発光する壁にとらわれ、燃えだした身体を痙攣させながらも逃げ出そうともがいている。
だが、その抵抗もむなしく彼らは完全に捉えられ、その体を震わせるに留まっていた。
また1頭などは空中で捕えられたかのように、足が完全に地面から浮いてしまっている。
まるで魔法のような光景だが、これはドローンを使った空中磁場放電の罠が発動したに過ぎない。
これは単に電気が流れる柵のようなものではなく、磁場を使って物体の突進も物理的に止める力を持つ。
ドローンが自力だけを使って物体を止めようとすれば、国綱も言っていた通り一基当たりで100㎏程度の対抗力しか生み出すことはできない。
しかし、他のドローンと連携して磁場放電を行えば話は別だ。
放電によって生み出される仮想重力ならば1平方センチにつき、600kgもの力を受け止められる。
あの壁全体では数百トンがぶつかってもびくともすることはあるまい。。
つまり、これは奴らの体格に合わせて仕掛けられた馬鹿げて強力な出力を持つ電磁式の『罠』なのだ。
「とは言え、これ以上は稼働中の
その言葉と共に俺は緩やかに四連射を決める。
すると次の瞬間、アステリアにとっては更に不思議な光景が目に飛び込んできた。
4頭の猪の痙攣が止まると同時に壁の発光も止まる。
突進を止められ、あるいは宙に浮いていた猪たちは次々に地面に崩れ落ちた。
踵(きびす)を返して他の方向に向かおうとする残りの獣たちは、4方向すべてが白い霧に囲まれているのに気づいて動くことができない。
「あぅ、つまんないぞ。あいつら、へっくす
「どっちにせよ、足が止まった獣など怖くはないさ」
会話の後は、単なる射的になってしまった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
別作品である「フラグメント・イータ ~やけくそで死んだら異世界では竜甲猟兵だった~」もよろしくおねがいします。
気楽に読めるように工夫して書いたつもりです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます