第18話 スクエアとは四角形のことなのです
さて、集落すべての領民を一か所に集めることができた。
とりあえず安全管理はこれでいい。
しかし問題はここからだ。
今現在、この村に、いや、この集落に集まっているマイクロドローンは地上に降下した1100基中の900基程だ。
残り200基の内、半数の100基は未だ大陸中を調査のために飛び回っており、半数の100基は先の救出活動に際してレールガン発射時の過負荷ですべてダメになった。
強行偵察用ドローン本来の仕事ではなく緊急時の無理な運用だから仕方ないとはいえ、耐久性の低さが残念だと少しだけ嘆く。
だが、残るドローンの全てがこの戦闘に参加できる。
そして国綱はそのすべてを同時に適切に動かすことができる。
とは言え、コイツは戦闘における”適切”とはどういうことかを知らない。
つまり、どうあっても俺の指示が必要になる。
反対に俺はすべてのドローンを個別単位で動かすことはできない。
当たり前だ。
900基あるドローンの動きを人間が並行処理できるならAIなんぞいらん。
そこで俺が大まかな対応策を示して、国綱が指示された中で最も適切な動きを行うことになる。
更に言うなら、今回が国綱にとって初の実戦における複数ユニット管理ということになるが、経験を積むごとにその能力は飛躍的に伸びていくだろう。
最初に生き延びるのが一番難しいという訳だ。
これは人間の新兵も同じだな。
因みに、国綱が戦闘指揮能力を順調に高めていった場合、理論上ならば最大20万隻の宇宙戦艦をこいつ一基で自在に動かすことができるようになる。
20万隻の艦体が一糸乱れぬ艦体運動を行う……
よっぽどの阿呆が指揮していない限り負けることが出来ない究極の艦隊の出現である。
イングランドが皮肉ったスペイン無敵艦隊(笑)ではなく、本物の無敵艦隊(怖)が宇宙に現れることになるのだ。
真面目に恐ろしい話である。
だがまあ、そんな架空の話はさておき、今は今の戦いを制しなくてはならない。
という訳で、最初の指示は戦場空間の正確な把握だ。
「相棒。まずは俺の眼球拡張モニタに、この集落の航空地図を出してくれ。
上からスクエアをかぶせてな」
(スクエア:縦位置が数字、横位置がアルファベッドで2次元位置を示す方眼図)
視界内の空中(正確には眼球の表層)に仮想地図が現れる。
俺はその指先を使って空中の地図をいじりまわす。スクロールも拡大縮小も自由自在だ。
それから任意に希望するスクエア枠を指先でタップした。
「このブロックを
逆側に記号、数値共に減少として指示するぞ」
『うぃうぃ』
なんだか脱力感のあるやり取りだが、今は無視だ。
マップ上のマス目に指示通りの文字列が現れた。
この反応で今のところは国綱が俺の言葉を正確に捕えていることが分かる。
さて、この後もしっかり頼むぞ。
「第1列、A1からBN1までの各ブロックにカメラを一台ずつ配置。
相互監視により2秒以上の死角を作るな!(この場合の秒は角度を示す単位)
情報集積の結果、最も敵性個体の侵攻が激しい位置に戦力を集中する。
敵前線の突出に合わせてカメラも下げていってくれ!」
『おぅ!』
「次!
第4列各ブロック上空800m地点に攻撃重量まで増量した単ユニットを2基ずつ配置。
突入時形状を
森から平野部に敵性生物が出てき次第、交互に衝突点マッハ2以上で突入させろ。
目標破壊後は磁場逆転により初期位置まで後退、再待機。絶対に地面に衝突させるなよ」
『んっ~。すご~い。お空にはライフルいつでも104丁ですかぁ』
「そうだ。平原上空からなら
『んぅ~。頑張りまっ!
それにしてもレイは鬼です。怖いです。
これ使ってきらいな連中狙ったら絶対逃がさんですよ』
「俺は、さっそく対人戦に応用しようとしてるお前の方が怖いよ。
あと嫌いな連中って何だよ。好き嫌いで人様に銃口向けんな!」
こいつアステリアに反抗的な領民を気軽に撃ちそうで怖いわ。
『うひへへへっ』
笑うな!
「後は指示次第でどのポイントにでも移動できるように遺跡内部で使用したタイプの仮想レールガンを1基待機な。
そうだな、位置は単発ユニット列の中央上空50mで」
『んゅ、たった1基でいいの?』
「こいつは特大魔獣用の保険だ。それに一基以上は作れんよ。ドローンの数が足りん」
『?? だってドローン100基で、レールガン1基出来るんだよ?』
「じゃあ、この家をどうやって守るんだ?」
『ええっ!ドローンでここを守るの? どやって?』
「ドローンそのもので守るわけじゃ無いんだがな。
とにかくロッジの正面30mに残り全部集めろ。前方L12地点に最終防衛ラインを作る。
ドローンの使い方は勉強の時間になったら教えてやる」
『うい、さー』
そこは”アイ・サー”だろ、とツッコミを入れたいがグッと我慢した。
☆ ☆
屋根に上って背中からケースカバーを下ろし、中に潜ませていたレーザーライフルを引き出して構える。
こいつは、砲身内部の磁場空間に最大3300度の熱を発生させ、それを射出することで人体を熱破壊する凶悪な武器だ。
単発は0.4秒以下の瞬間熱なので対物目標には効果が薄く、連邦の特殊装甲車ならば防御可能ではあるが、今回の魔獣相手なら十分に撃破可能と国綱が保証してくれた。
実弾式アサルトライフルも悪くはないが、反動が無いために重心がぶれず、結果として命中率が下がりにくいレーザーライフルの利点は捨てがたい。
今回は大事をとって、こいつを持って降りてきて良かった。
『んっ!2時方向から2体侵入。大型だぉ。
進路から見て、こいつらはレイに任せていいかな?』
最初の獲物の位置を相棒がナビゲートする。
3分後、北東、畑のど真ん中をゆっくりと進んでくる2体の魔獣が見えた。
距離1,000mまで引きつける。
スコープ内の影に向かって引き金を搾ると連続して3本の青い光が空間を切り裂く。
次の瞬間に確かな手ごたえを感じ、同時にスコープの中の魔獣が倒れ伏した。
今回、地上に降りるために使った連絡艇は専用の兵員輸送船ではなく小型の戦闘爆撃機である。
一度などは、それを飛ばして重爆撃に突入することも考えた。
アステリアを全面支援をすると決めた以上、武力・財力ともに自重などするつもりはないからだ。
だが、この世界における敵味方情報がまとまらないうちに過剰に戦力を見せつけるのは果たして正しい事なのだろうか?
また、強大な力を他者に示し過ぎた結果、人間の限度を超えた畏怖の対象となったアステリアがこの社会で生きる場所を無くしてしまったなら、俺たちの支援はそのまま彼女の破滅に繋がってしまう可能性もある。
そういうわけで、今しばらくは最小限の力で済ませるべきだと方針を改めた。
『敵性生物の総数把握完了。現在611体! 604、603、602』
俺の視界内にはドローンが把握した魔獣の数がまとめられ、一体が駆除されるごとに減数式にカウンター表示されていく。
小型のものから順当に数を減らしているのであろう。
国綱本体は気づいていないようだが、これは宇宙戦闘において敵味方双方の損耗数をブリッジに知らせるものと同じ動きである。
どうやら奴の能力は順当に育っているようだ。
『んにゃにゃ~。大型が12体、正面やや西側から抜けたよ。図表で示すならK2かな?
とにかく、あと5分弱ではロッジ正面1km地点に到着しちゃう。
いくら何でも個体数が多すぎるよね。レーザーガン1丁じゃ無理だと思うよ。
上空ユニットの一部、そっちに回すぅ? 指示求むよぉ~」
「いや、さっき防衛用に残したドローンの出番だ。相互距離15センチのヘクス(六角形)を組んでロッジ正面に壁を作れ! 4m×10mぐらいの
『へっ? 壁って? そんな穴だらけの並びじゃ壁にならないよぉ。
一基の耐圧能力だって、せいぜい100kg位しかないんだから、どう計算しても無理無理!
相当数を集中して使わない限り小型の魔獣にだって押し負けるって!
んでも、集中したらしたで相手の広がり具合に負けて防衛戦が突破されるのは間違いないだろうから、やっぱり無理だしぃ~』
「あのなぁ、ドローンは使うが、そのものをぶつけて奴らを止めるわけじゃ無い。つまりだな……」
俺の説明を聞いた国綱は一瞬は驚いたものの、すぐに楽しそうな声になる。
『んぅ~! 凄い! それは凄いアイディアだそ!
これ耐久性が3~4回分になってもいいなら最大出力でやってもいい?』
「もちろん、お前のいう通りこの場を抜かれたら終わりだからな。逆に手加減無しで頼みたいぐらいだ」
『おけおけ! ねっ、この壁は直接見たいんだけど、いいかな?』
「はぁ? 直接も糞も、お前の本体はコルンムーメの中だろ?
目はドローンに900もあるんだから、どっからでも
『んぅ、違うって! ボクは今、「アイ」なんだよぉ!
つまりボクはボク自身である「アイ」の目で、この勝利の瞬間を見たいの!』
どうやらこいつは、地上における活動用のマテリアルボディを自分と定義づけたようだ。
一瞬は「まずいかな?」と思わんでもなかったが、どうせこれからは地上生活が中心になるのだ。
それぐらいの
「わかった。好きにしろ!」
「んひゃほ~い。やっぱレイはいい奴だ~!」
最後の声は、俺の耳に直接届いた。
「!」
気が付くと真横に褐色銀髪の
コイツ、いつの間に屋根の上に登ってきたんだ?!
確かに今回作成したマテリアルボディは相当な高性能に仕上げたとは聞いた。
だが、隣に立たれるまで音がまったくしなかったのには驚く。
実戦でコイツが敵だったなら、俺は確実に死んでいただろう。
いや、それより何より、もっと驚いたのは、その小さな背中にアステリアを背負ったままで屋根まで登ってきたという事実なのだ。
「お前……、無茶苦茶だな!」
引きつった俺の声を受けて頭を下げたのは、問題の
「すいません。
「領主としての責任か?」
「はい、横やりを入れてすいません」
アステリアは国綱の背中を降りながらも再び頭を下げる。
貴族の立ち振る舞いというものは詫びの時にすら姿勢が崩れずに美しいな、と感心する。
「そうでもない。俺もそいつは大事な事だと思う。戦う以上はあんたが総大将なんだからな」
そう、なし崩しに始まったが、これは本来、「彼女の」戦いなのだ。
置き去りにしちゃあ不味い。彼女をここに連れてきたのは相棒の殊勲賞と言えるだろう。
だが、それを褒めるのは後回しだ。
「ほれ、敵さんが来たぞ。
あんたの友人で配下でもある二人の戦いぶり、よーく見ときな!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます