第12話 どうするアイちゃん?

※前回の第11話に大きな失敗がありました。

 最初の投稿時に、以下の台詞


「確か、さっきは“信用ならない”とか言ってませんでした?」


この後の800文字ほどが投稿されていませんでした。

修正前に読んでしまった方は、台詞から後をお読みくださった後に、

今回、第12話を読んでいただけるようにお願いします。

大変ご迷惑をおかけしております。すいませんでした。




   ◇         ◇          ◇




 錯乱するアステリア嬢を二人でモニタ越しに眺めながら話し合いは進んでいく。


「んぅ~。さて、どうしまそ?」


「しまそ、とか言われても、ねぇ……? う~ん、どうしますかねぇ?」


 色々と考える前に、今は何よりもコイツに身体が無くてよかった、と、思う自分に気づく。

 なにしろ、コイツが考え事を始めると座っている俺によじ登って来ては後ろから俺の頭を抱えるのがデフォルトだったからな……


 それはともかくとして、

「まずは、アステリア嬢を落ち着かせないといかんな」


「ですねぇ。どうしまそ?」


「それ、まだやるのかよ?」


「あとすこし~」


「そ、そう……。まあともかく、だ。彼女は今、金が必要な訳だな」


「んゅ。お金あげるの?」


「そりゃ三つの意味でダメだ!」


「ワン!」


「今だけ金をめぐんでも結局はいつか金詰まりになる。

 彼女、というより彼女の領地には継続的な収入の道が必要なんだよ」


「ツー!」


「つまり金をあげるだけなら必要に応じてずっとめぐまなくちゃいけなくなる。

 彼女がそんな事を望むだろうかね?

 それに、だ。お前は事あるごとに金をねだるような人間と友達になりたいか?」


「ぉう~、毎月毎月お友達代、払うんですね。

 まるでレイの学生時代です。みじめです。それはヤなのですぅ~」


「おらぁ! さらっとひとの過去、捏造してんじゃねぇ!」


「スリー!」


「スルーかよ。

 まあ、ともかくだ、そうやって金を貰うことに慣れた彼女をある日突然、俺たちが見捨てたらどうなる?」


「おもしろくなる?」


「予想外に凄い鬼がいた!」



 俺たちが揚陸艦コルンムーメを盗み出したのは、艦が作戦行動に出る5日前という絶妙なタイミングだった。

 だからこそ艦内には人がほとんどおらずとも物資は満載されており、占領地が安定するまでの間に使用するための緊急通貨である金や銀などの希少金属も大量にあると俺は見ていたのだ。

 戦時下、或いは占領下では電子通貨などの情報端末に頼った通貨は一時的にではあるが停止されるのが普通だ。

 もちろん軍隊側としては軍票のように軍そのものが価値保証を行う臨時通貨が最も望ましいのだが、今回コルンムーメの作戦域となる占領予定地は完全な敵性経済圏であったため、実物そのものに価値のある希少金属通貨を使う必要があったのである。


 この艦は最低でも一度に3000人の海兵隊員を輸送して、そのまま現地で作戦行動に移ることができる。

 つまり目的地の占領後のひと月間には、金貨、銀貨、銅貨をそれぞれの兵士に配布しなくてはならない。


 そうなると海兵隊員の他、現地施設員、艦乗組員を併せると最低でも6000人分ほどの実在通貨が必要だ。

(ちなみに産業必需品として電気配線などに使われる銅は立派な戦略物資である。よって銅貨の産業資源としての価値は環境条件によっては金銀以上に高い場合もある)


 船体乗っ取り後にアイに調べてもらうと、やはりこの艦コルンムーメには通常物資のほかに貨幣までもが俺の予想を超える量で貯蔵されていた。

 内訳は1オンス(約31g)金貨100万枚の他、銀貨、銅やプラチナのインゴットなど辺境惑星で資産として通用するものばかりであり、それらの総重量はおおよそで700トン。

 占領を狙っていた惑星ではかなり長期の軍政が行われる予定だったようだ。


 当初はこれらの金貨、銀貨を手に入れた事を喜んだものだが、異世界の宙域に流された今では、単に重いだけの船内ゴミに過ぎない。

 有効に利用するためには地表に降りた上で現地住民との良好な関係を結ぶ必要がある。


 とは言え「金を使う」という、ただそれだけのために地表に降りるのでは本末転倒だ。

 俺たちは地上でどう生きるべきなのか、それを考えなくてはならないだろう。

 そして、その生き方にアステリア嬢が絡むというなら、まずは彼女自身に真っ当に育って貰わなくてはならないと思うのだ。



「そういう訳で、彼女には自力で金を稼いでもらう」


「んにゅ~。できっかなぁ~?」


「やってもらうしかないんだよ。お前の友達づくりのためにもな。

 友達は彼女一人で終わらせるつもり無いんだろ?」


「それは~そうだけど~……。んぅ? レイさぁ~、随分協力的だよね~?」


「やることないからな……」


「んゅ! なぁ~るふぉい! では、生きがいを作ってやったボクに感謝して、ひれ伏せ~!」


「……おまえは、いつか泣かす」






    ◇        ◇        ◇






閑話 聖輪教における天空神オージェスの神話①




 遥か昔、時間と空間の神である祖神バルバドスと知性の神である祖神リーンの間に三柱の子供たちが生まれた。

 一柱目の神トーレンは父であるバルバドスに倣(なら)い、時空の理(ことわり)を知るための長い長い修行の旅にでた。

 二柱目の神ルードは母に倣って、時空間における全ての知識を身に着けることを目指し、いつ果てるとも知れぬ瞑想に入った。

 三柱目の神であるオージェスはこの時空の果てに生まれたばかりの小さな星を見守ることを命じられた上で、星が目に届く範囲ならという条件付きではあるが、おおよそ自由に生きる事を許された。

そこでオージェスは星の表面を大地と海に分け、川や湖、緑や氷河を生み出して天空から地上を見守ることにした。


 祖神のふたりはオージェスを天空神と呼ぶことにした。


 兄トーレンも姉ルードも知らされていなかったが、オージェスは生まれた時には既に時空を治める力と、その全てに繋がる知識を兼ね備えていた。

 そのため兄と姉から嫉妬されることを恐れた二柱の祖神によって彼は星々の彼方でひっそりと生きるように申し付けられたのだ。

 ひっそりと生きろ、と言われはしたものの、天空神オージェスは利発ないずれの者の例に洩れず好奇心旺盛な神でもあった。父と母が守ってきた今までの静かな宇宙を退屈に感じていたので、眼下に広がる大地に新たな存在を生み出してみようと思った。


 生命いのちの始まりである。









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