第5話 相棒がボッチなのは誰が悪いのだろうか?

「言ってはならないことを言ったなぁ~!!」


 案の定だが相棒がブチ切れてきた。

 いつもなら俺が謝って、さっさとこいつの能力を生かせる仕事に戻ってもらう処なのだが、この世界に来て、どうせ時間はあまっているのだ。

 こうなれば、こいつの今の状態を少しでも把握しておこう。


 それに、たまにはこうして自分を確認させてやらないと危険だからな。

 という訳で、普通はしない反論を試みる。


「いや、良いだろ別に。実際、お前が完成したのって2年前だよね」


「んっ、ダメでしょ! ボクが2歳ってのは君たちの時間においてでしょ?

 ボクというプログラムを使用した場合、卓上のPC程度ですら1秒間に1京回にあたる計算をおこなうことができるんだよ。この船内のハードウェアなら20がい回はいけるね」


「いや、卓上PC程度のCPUにお前は入り込めないから。

 後、お前の場合、この次元での計算速度は性能を測る上での明確な指針にはならないはずでは?」


「んぅ。まあ、ものの例えってやつだよ」


「そうか……、で?」


「で? じゃないよ。つまりボクの中では普通よりずっと速く時が流れてるの。

 つまり、相対的にみればボクが2歳ってのは間違ってるんだよ」


「じゃあ幾つだよ?」


「えっ?」


「いや、だから普通の人間の計算能力を基準とした時間でお前は幾つになるのかっていてるんだが?」


「―^―^^―^――――――――――――――」


「死ぬな、死ぬな」


 まあ、人間でいえばとっくに寿命を突破してるわな。

 と笑おうとしたら、復活してきた。


「んんっ、人間ってのは理屈で生きてるんじゃない」


「お前はプログラムだ」


 相棒の理屈が分からない。本当に困った。


 ただし、こいつがAIとしておかしい状態にある原因に心当たりはある。

 だから、こいつを心底から責められないし、コマンドを叩きこんで強制的に稼働させたくはないのだ。


 まあ、追々何とかするしかあるまい。

 しかし、下に降りるってどうすんだよ?


「で、どうしたい? 分かってるだろうが、この船は降ろせないぞ」


 輸送揚陸艦コルンムーメ。全長1.1キロメートル。全幅420メートル

 芋虫のように長細く丸みのある船体をしており、正面には荷電粒子砲2門、熱線ブラスター砲2門の計4門を主砲として備えている。

 惑星制圧時の最終補給基地としての機能を持ち、場合によっては先陣を切って惑星表面に降下した上で降下兵の戦闘拠点となって前線を押し広げることを目的とした、いわゆる殴り込み部隊の中核となる船だ。


 当然ながら大気圏突破能力が無いわけではないが、中世の感覚で生きている人々の前に持ち出せるシロモノでは絶対にない。

 友達がどうのとかいう前に神や悪魔のお仲間にされるのがオチである。


 なぜ俺と相棒が一人と一基でこの船にいるのかというと、まあ、盗んだのだ。


 まず船内コンピュータにハッキングして相棒がもぐりこむ。後は簡単だ。

 オートモードになった軍艦は船内に異常が発生したとの警報を発してわずかな当直員を退艦させた後、勝手に発進し、勝手に進路を決め、勝手にワープしたのだ。

 それで追われていた訳である。

 当たり前だ。

 戦闘艦を盗まれて追わない軍はない。


 何故盗んだか、という事については思い出したくないなぁ。


 などと現実から目をそむけていると、相棒が降下に向けての手順を説明し始めた。


 どこに降下するかは重要な問題であり簡単に決められない。


 まあ、そうだね。


 そこで最初は、偵察用ドローンのスピーカーとマイクを使って現地住民とのコンタクトを図る。

 その中で信用を得て、連絡用シャトルの降下地点を決めようという訳だ。

 ちなみに自分アイの擬人体(マテリアルボディ)はすでに船内工場で作成中である。


 友だちもいないのに準備だけは万端だな、おまえは。


「んぅ、実はね。もうコンタクト相手の目星は付けてあんの!」


「ほう、どんな人物だ」


「当然、女の子だよ! 凄い可愛いの! 小っちゃくてさ。金髪で瞳が深い水色!」


 音声と共に対象の姿が空中投影される。


 なるほど、瞳に知性を宿した美少女だ。

 と言って、まったくきつい感じはせず、どちらかと言えば優しそうな柔らかさも感じさせる風貌ふうぼうである。

 10年と言わず5年もすれば引く手あまたの美女に成長するだろう。

 ただし、手首や足首の細さから少しばかり栄養状態が良くないのでは、と気に掛かったが、この世界の食糧事情ではこんなものなのだろうか。


 話を先へ進める。


「見た目は分かったから、年齢や能力を」


「あのね。歳は星間標準時で13歳ぐらいになると思う。

 この星は標準時計測で1日が26時間、1年が371日だから、彼女が自分で12歳って言ってたのに加算すれば標準時に1年越えるくらいだね」


「ほう。もう言語解析を終えているのか? 随分早いな!」


「当然! ボクを誰だと思ってんの!」


「なら、俺たちと話をするための知力や判断能力に問題は?

 あと人格に問題はないのか? 秘密や約束が守れる人間か?」


「んぅ~。個人の調査はここ3日間だけだけど、人柄に問題は無いと信じたいなぁ。

 あと対話交渉能力は充分だよ。

 っていうか、周りが低すぎるんだ。彼女の家の外の集落に至っては語彙が600を越えない人がほとんどだよ」


「流石、中世だな。つまり彼女は貴族って訳か?」


「そう!」


「なら、まずは親の方にコンタクトを取るべきだろ 大人と話すのは嫌か?」


「違うって、親はいないんだよ。彼女が貴族家の当主なの」


「ほう、ではどうするか聞かせてもらおうか?」


「んぅ、今、彼女はとても危機的な状況にあります。」


「ふむふむ」


「で、それを助けます」


「うん、うん」


「そこからですね『へへへ、ねーちゃん、借りはちゃんと返さんとなぁ。それが人様の道ってもんやでぇ』と説得します」


「どこのヤクザだよ! どこに友だち要素があるんだよ! こぇ~よ!」


「んぅ~、このような軽いジョークで場を和ませるのです」


「なごむか!」


「仕方ありませんね。ふつーに声を掛けます」


「そうしなさい」


「んぅ?」


「どうした?」


「前々から気になっていたんだけど~」


「?」


「レイって時々、おとーさんみたいになるよね」


「お前に親父がいたとは知らんかったわ」


 あきれ顔でごまかしたが、実は心臓がバクバク言っていた。

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