第4話 私がボッチなのはお前が悪い!

「なあ、国綱くにつな。今なんて言った?」


 外宇宙の観測からは何の情報も得られないと判断した相棒は地上に目を切り替えて調査を開始していたのだが、探査開始から5日目にして驚くべき報告をしてきた。


 驚きすぎて、いつもは封印していた相棒のコードネームを呼んでしまったのがまずかった。

 奴は人間でいうなら「不機嫌」という感情?を隠しもせずに抗議してきたのだ。

 ブリッジ計器類の電圧が跳ね上がったようにすら感じてしまう。


「ん~っ、その名前きらい!!」

「じゃあ鬼丸おにまる

「もっときらいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」


「いや、そんなこと言ったって、”鬼丸国綱おにまるくにつな”はお前の名前だろうに」


 そう、こいつの正式なコードネームは『鬼丸国綱』である。

 地球の東洋の島国に古代から引き継がれ、今でも実在する名刀から命名されている。

 何でも夢に出てきた「鬼」を切ったのだそうだ。


 何故それが名前になっているのかというと、聞けばそれなりの理由があるのだが、今はさておく。

 AIプログラムらしからぬヒートアップを始めている相棒を落ち着かせなくてはならない。


「んぅ、だぁ~かぁ~らぁ~! ”アイ”って呼んでっていつも言ってるよね?」


「なあ相棒、お前なんでそんなに自分の名前呼ばれるの嫌がんの?」


「んぅ、そんなの可愛くないからに決まってるでしょ!

 じゃあ、レイは何でボクをアイって呼ぶの嫌がるの?」


「うっ!」

 思わず言葉に詰まってしまう。

 そうだ、おれはこいつをアイと呼びたくない。

 というよりは女性名では呼びたくないのではなかろうか?


 頭の中で感情がぐるぐる回る。

 どう答えればいいのか、と冷や汗をかいていたが、ありがたいことに相棒は最初の話を進めたいらしく自分から話を切り替えてきた。


「んっ、とにかくね。ボクは下に降りたいの。

 ここでなら”妖精”が信じられてるみたいだから、ボクにだって”アイちゃん”って呼んでくれる友達ができると思うんだ」


 そう、相棒はこの星の一部の地域に大量の偵察用ドローンを放出した。

 ドローンと言っても軍用の大型のものや地球やシリウスd2で一般に使われている20センチサイズのレジャー用品ではない。


 磁気浮遊式であることは一般的なドローンと変わらないが、サイズは2センチ程度と小型ものだ。

 これをとりあえず1000機ほど放出したところ、この星には地球人と同じタイプの人間が住んでおり、中世から近世に近い文明程度を維持していることが分かったのだ。


 まさしく俺たちが異世界、あるいは並行世界とでも呼ぶべき空間に”跳んだ”証拠と言える。

 これだけでも俺がどれだけ驚いたか分かって貰えるだろうか?

 

 いや、驚くのはそれだけではない。

 その発見によって更に地上の情報を集めなくてはならないのは分かる。

 分かるのだが、こいつは急いで現地住民との接触を望むとも言い出したのだ。

 それも友達が欲しい、などとぬかして。


「いや、友達っていうか、相棒なら俺がいるだろ?」


「んん~っ! もうおっさんの相手だけするの、やだよ!

 ボクはね、同い年位の女の子のお友達が欲しいの。で、恋バナすんの!」


 地味におっさんと呼ばれてへこんでしまう。

 まあ、ついに30歳になりましたがね。分かってても慣れないんだよなぁ。

 それはともかく、こいつにはどうしてもツッコミを入れたい。

 トラブルのもとになるのだと知ってはいても、今のこいつの心情を知りたいし、何より言わずには居られないのだ。


「なあ、同い年って……、お前……、2歳だろ」


「!! 言ってはならないことを!!!」




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