八 ロドの語る物語
しかし、もっと古くは、
ところが、星と月では月が明るく美しく人々の崇敬を集め、いつしか月が夜の主と信仰されるようになった。星神もそれを良しとして一歩退いたために、太陽と月による
神々はただそこに在るもので、地上に降りることはない。その代わり、地上に自らの化身を遣わした。
また彼らの側近くには必ず星神の化身である
神殿を通して世界を治め、その世界を託す相手を探す、それが
そうして世界は遥かな時を平和のうちに受け継がれてきた。
しかし千二百年ほど前、各地に争乱が起こり、全世界に拡大。戦火の中でたくさんの神殿が力を失い、あるいは荒廃していった。
神にも死の時が近付くのか、長年の間に形骸化した信仰が弱まり神の護りを得る資格を失ったのか、ともかく戦乱の中で安全と余裕を失った人々からは徐々に祈りが失われ、感謝や喜びよりも悲しみや憎しみが世に満ち、やがて太古の昔から規則正しく続いてきた昼夜と季節が乱れ始める。
太陽が何日も昇らない。あるいは、昇ると三日も沈まない。月が太陽に近づき姿を隠す。また、夜の月が見る間に欠けていく。山の恵みも作物の出来も、潮の満ち引きもめちゃくちゃになった。灼熱の直後に吹雪が続き、作物は凍り、家畜も人もどんどん病みつき、倒れて死んでいった。人はついに神を恨み呪うようになり、救いをもたらさない神殿は恨みを買って、時の
そしてそれゆえに、戦乱はさらに酷く続いた。
神の護りを失った世界を覆い尽くして千年大戦とも呼ばれたこの長い戦乱を勝ち抜いたのが、百万殺しの異名をとる大魔導師、武将王ヴァルナルである。荒れ果てた世界はすでに、戦闘魔法に特化した魔導師たちの直接的な武力でなければ統率がとれなくなっていた、それは確かだ。ただ、ヴァルナルの大躍進には謎が多い。
まず出自が知れない。魔法もどこの筋で修行したか明かされていない。有力な武将の下にいつの間にか現れて武勲を上げ、なぜか主が死ぬがその戦歴から別のより強い武将に迎えられ、それを繰り返して戦の頂点に立ち武将王と呼ばれるに至った。
その時にはもう、ヴァルナルの裏を暴こうと動くことができる者などいなかった。曲がりなりにも戦を
ヴァルナルは弱体化した各地の神殿を立て直しながら世界を治めたが、戦が終わり人々の祈りが戻ってきたにも関わらず、神殿の力も日月の巡りも元には戻らなかった。
この時世界は既に、星をはじめとしたさまざまな神や精霊への信仰を失っている。ヴァルナルは人口の激減などを理由に、復興させる神殿を限定した。太陽や月の神殿を許す一方、星の神殿の再建を認めていない。夜の神への信仰は月の神殿で事足りるという理由で。
ヴァルナルはまた、
神殿はすでに、かつてのように世界と人の仲立ちをする存在ではなく、ヴァルナル治世の信仰部門にすぎなかった。その証拠にヴァルナルは、神殿の意思意向と自分の判断では自分の判断の方を圧倒的優位とした。
そして百年が過ぎようとする頃、月の神殿とヴァルナルの対立が起こった。神殿がヴァルナルに従わない、
月の神殿の神官たちが共謀して太陽を呪い、
ともあれ、この重大事態を謀反としたヴァルナルは太陽の神殿と共に月の神殿の勢力と戦い、当然勝利を納めた。百戦錬磨のヴァルナルに、戦で神殿が勝てるはずもない。
罪に問われた月の神殿の面々が断固拒否したため、太陽は
しかしすべてはヴァルナルの決定通りに動く。
月の神殿の神官や神子たちはすべて罪人として
こうして二年前、
永遠の夜が始まったことを知った人々は不安がり、再び世は不穏な空気に覆われ始める。太陽の神殿は総力をあげて人々のため祈ったが、主神たる太陽を奪われた無能の集団として
そんな中、
* * *
「っていう感じなんだけどめちゃくちゃ自作自演っぽいと思わない?」
両手を広げて言うロドに、アニヤは我慢できないというように声を上げた。
「出自など、どうでもいいことじゃないでしょうか? 生まれが高貴かどうかではなく、その行いが善いかどうかです。それに、歴代の主を殺したような言い方も不愉快です。月の魔導師たちの謀反についても、まるでヴァルナル様の仕組んだことのように言われるのは納得がいきません。あれでどれほどの人々が大変な目に遭ったか。世界中の人々に平和を取り戻すために戦ったヴァルナル様が、そんなことするはずありません」
「そもそも英雄してるのも芝居で、誰がどう死のうが別に心も痛まないとしたら?」
「そんな邪悪な方ではありません!」
アニヤの泣きそうな声が耳と気分に刺さる。俺はそっち側の人間だからだ。これまでどの標的の死体を見ても心が痛んだりはしなかった。これから殺すということ自体にも。
その通りだ、アニヤ。俺は邪悪だ。
早く気付いて、一飯の恩なんか忘れてしまえ。
お前は生きていてくれ、理由は分からないけどそう思う。
誰にもその眼を盗られるな。
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