第6話 レベル違いの才能

「ほらほらぁ〜、早く言ってしまいなさいよー」


嘲笑を添えたミラさんの顔は一直線、倒されている男に向けられていた。


男は唇を噛み、1回下を向いてから腹を括ったようにミラさんの方を向いた。


そして、悔しそうにゆっくりと口を開く。


「僕達が……やりました…」


「あら〜よく言えました!えらいえらいしてあげよっか?」


男は無言の拒否を貫いた。


そもそも論、なぜこの男はこんなにも拷問じみた追及を受けているのだろうか。


なにかそうしなければならない、深い訳があるのだろうか。


それに、このミラさんという名の女戦士。


先程から只者じゃない雰囲気を醸し出している。


「そっかそっかー」


何故かミラさんは嬉しそうに男に近づいていく。


男はミラさんの足が近づいていくごとにビクビクと体を刻ませていた。


と、ミラさんは突拍子に男を蹴り飛ばした。けたたましい打撲音を響かせながら。


男は推定数十メートルまで飛んで行った。


少しばかり空中を浮遊した後に男は、思いっきり地面に打ち付けられた。


薄目で見ても痛いと分かる。


「悪いやつは成敗しないと…ね?」


ミラさんは体を翻し、僕たちの方を向いてから、おもむろにウインクを放った。


周囲のみんなは口を開けてただ、呆然としている。


今起こっている事実に頭がついてこないのは、僕だけじゃないのか。


少し、なんとも言えない微妙な空気が流れたが、その空気は盛大な拍手とともに健康な空気に入れ替えられた。


「ミラさんすげぇーーー!」


突然、周囲のみんなは拍手を添えてミラさんを褒めたたえ始めたのだ。


ミラさんは謙遜することもなく、左手をあげて誇らしげに胸を張っていた。


なぜ、このミラさんという人はこんなにも有名なのだろうか。


少なくとも、この場にいる僕以外のほぼ全員はこの人のことを知っていると思われる。


そう考えると露呈してくるのは、僕の深刻な世間知らずだ。


興味が無いからなのか、なんなのか分からないが、とにかく僕は時事などに疎い。


だから、このとても有名だと見て取れるミラさんの存在も把握していないのだ。


「あなた達、今からクエスト?」


ミラさんはサラサラな髪をいじくりながら、僕たちに話しかける。


「はい!そうです!」


知らない誰かがミラさんの質問にハキハキと返答した。


普通に会話をしているだけのはずなのに、何故か僕たちとミラさんの間には、大きな壁があるような気がした。


この人には、どんなに正しい努力をしても勝てないと心から思う程の凄みがあるのだ。


「頑張りなさいよ?クエスト。私も初めはここから始まったんだから」


さすがミラさん。言葉にどっしりとした重さがある。


これも凄みを引き出してる要素のひとつなのだろうか。


「はい!!頑張ります!!」


みんなはキラキラとした顔つきで声を合わせた。


ミラさんはその返事を聞いて、軽く口角をあげてから、おもむろにこの集会所を後にした。





僕たちはこんな誰も予想しなかった事件を経て、いよいよクエストに挑むことになった。


前回僕は最強クラスのドラゴンを倒したので、ちょっとは自信を持っていた。


だが、現実はそう甘くないみたいだ。


全然、歯が立たなかった。


この間のクエストとは別物だと感じざるを得ないほど周りの勇者の質が違ったのだ。


初めは意気揚々と前線に狩り出たのだが、全くモンスターにダメージを与えることが出来ずに、ただ、みんなの邪魔をしているだけだった。


終始周りの勇者の実力に圧倒され続けていた。


後続になっても、遠距離攻撃が当たらないので、クエストに貢献している気が微塵もしない。


このままじゃ、また底辺に舞い戻ることになってしまう。


それだけは避けたい。


とは思っていても、時は無情に過ぎていき、結局何も活躍できないまま、クエストが終了した。


集会所に戻った僕は1人、ベンチで黄昏れる。


「はぁ……」


僕ってやっぱ、どこまでいっても無力なんだな……。


そんな無力がどんなに頑張ったって結局、結果は同じところに終着するのだ。


僕は……ミラさんとはまるっきり持っているものが違う。


どうせあのドラゴンを倒したのも、ただのまぐれってやつだろう。


あぁ、早くラミレスのところに帰りたい。


すると、僕の横に一人のおじさんが座り込んできた。


その男は僕をにやけながらまじまじと見つめていた。


「な……なんですか?」


「飲みに行かないかい?」


「へ?の…飲み?」


僕は今、知らないおじさんに飲みに誘われたのだ。


「あぁ、行くでしょ?」


正直な所、早くラミレスの元に帰りたいし、そもそもあまりおじさんと飲みに行こうという気にはならない。


でも、やはり年上の人の誘いは断ることは礼儀に反していると感じてしまう。


いつの日か、誰かが決めた暗黙のルールってやつだ。


しょうがなく僕は世知辛い暗黙のルールに従う事にしておじさんに言われるがまま、集会所を出た。


知らないおじさんと飲みに行くことを選んだのだ。


20分程歩いていると、先導していたおじさんが急に止まった。


「ここで飲むよ」


おじさんが指さす先には―。


「いや、てかここキャバクラじゃないですか!?」


そう、そこにあったのはネオンがキラキラなキャバクラ。


「ここで、酒を飲むんだよ」


嘘だろ…。


何となく酒場とかで飲むのかと勘違いしていた。


これはどうしよう……。


今から断ることは到底出来そうにないが、これ、もしもラミレスにバレたらどんな極刑が待っているのだろうか。


ここから先は、どの道を取ろうが一定のリスクが想定される。


「おい、そんなとこで止まってないで行くぞー」


おじさんはズカズカとキャバクラに入っていく。


そうか、僕をここに連れてきた理由はひとりじゃここは行きづらいからだ。


だからちょうどいい僕を連れてきたんだ。


全く……。


僕は絶対に歳をとってもこんな人にはならないと心に誓いながら、しぶしぶキャバクラに入っていった



現在の貯蓄ポトフ量 1






















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