第5話 女史上、最強の勇者

さて……どうしようか。

目の前にはいつものクエスト一覧が載っている掲示板。

僕はひょんなことからランキングがビリから6000までにぶち上がったのだが、どうもここまで急速に上がってしまうと選ぶべきクエストをどうしても決めかねてしまう。

一応、推奨ランキング6000位のクエストもあるけど、どっからどう見ても難しそうだしなぁ…

必死に考え続けた結果、結局僕は自分のランキングに素直に従って推奨ランク6000位のクエストを受注することにした。


「はい っ。受注ありがとうございます。集合場所はスローフィール中央集会所になりますので、そちらの方へ移動お願いします。」


「…はい」


……めちゃくちゃ遠いじゃねーか!

スローフィール中央集会所って言ったら、ルンパナンタ第一集会所のさらに奥の集会所じゃんっ!

僕は完全にやる気を削がれた状況のままで、スローフィール中央集会所に向けてまず、一歩。足を踏み出した。


果たして、そこから何歩ほど歩いただろうか。

息が切れ切れになって僕が疲れ果てた頃ぐらいにはもう、目的地へ到着していた。


「遠かった…」


スローフィール中央集会所の外観を端的に一言で表すとすれば、「清潔」であろう。

それくらい、スローフィール中央集会所は綺麗にされていた。

中庭の噴水の噴水を眺めながら僕はスローフィール中央集会所の内部へと入っていった。

集会所の中にはあまり顔なじみのない、強そうな勇者がうじゃうじゃといた。

居場所がない…

そう感じた僕はとにかく、居場所を探すことが最優先事項だと考え、集会所内の空いているベンチに急いで座った。

僕は軽いため息をつきながら、集会所内の勇者たちを観察し始めた。

僕には驚いたことがある。

それは僕の目に映る全ての勇者がとても強そうだということ。

体重300 kg はありそうな巨大勇者に、チャラチャラしている茶髪勇者。

僕の前を横切るその誰もが僕よりもキャラが濃くて、僕よりも強そうだった。

まぁ…当たり前か。

だって、僕……この間までランキングビリだったもんね。

そんなこと、言い訳だって自分でも分かっている。

あえて、僕はそれを知らんぷりしてここにこういう心情で存在しているのだ。

何かと考えながらぼやっと辺りを見渡していると、突如として集会所内にけたたましい破壊音が鳴り響いた。


「ええっ!?」


びっくりして僕は咄嗟に音が鳴った方に視線を移した。

すると、そこには衝撃的な光景が―。


「何……これ…」


なんと、何かの拍子によって集会所の一部が倒壊してしまっていたのだ。

あんなに綺麗だった集会所の姿の半分が一瞬にして廃墟のようなものに変化してしまっていた…

何が起こっているのだと、じっくり倒壊している部分を見てみるが、倒壊したと同時に舞い上がった砂埃によって何が起こっているのか全く分からなかった。


「えぇ!なんだぁ!?」


これには周りの勇者たちもたまらずざわめきだす。

少し時間が経てば、砂埃たちは落ち着いて、下に落ちていった。

そしてほこりが薄れていくたびに、濃くなっていく誰かのシルエット。

倒壊した部分に誰かがいる……

体勢からして倒れ込んでいるのだろうか。

ついに、そのシルエットの全貌が明らかになった。


「ええっ!?あれGUNFAの隊員じゃない?」


「だよなぁ!」


周囲の勇者たちはより一層、騒ぎ出す。

GUNFA…?グンファってなんだ?

とにかく、埃が薄れた後に現れた人間は怪我を負いまくっていて、とても動けそうにない状況だった。

と、ここで謎の女が倒壊している部分から集会所の中に入ってきた。


「あらら…飛びすぎちゃった。ごめんなさいね、皆さん」


誰だこの人…もしかして、この人が集会所ぶっ壊したのか?

否、違う。

たぶんこの人、今怪我を負っているあの人を集会所までぶっ飛ばしたんだ。

だとしたら強すぎやしないか?

あんなか弱そうな乙女の体で…


「なぁなぁ!あれって、ミラさんだよな!」


「マジじゃん!」


勇者たちの盛り上がりのボルテージは何故か急激に上向いた。

ミラさん…?

ダメだ、全然わからない。


「さー。事実を吐く気になったかしら?」


ミラ…さん?はやけに曲がっている剣を片手で操りながら、どんどん怪我を負っているあの人に近づいていった。


「や……やめてくれっ!」


怪我を負ったそいつは体をブルブルと震わせながらそう言った。

ミラは構わず進む。

そして、怪我をしているそいつのちょうど前で止まった。


「やめないって言ったらぁ?」


ミラさんは意地悪そうな顔を浮かべて、剣をそいつの顔の目の前に向けた。

すると不思議なことに、ミラさんが持っていた剣は突如として自然発火し始めた。

発火の部分は深部から末端にかけて、じわじわと広がっていき、気がつけばその剣は鉄を溶かした時のように真っ赤に光っていた。


「貴方がやったことを吐くまで、私は攻撃をやめませんよ。何があろうとも…ねっ」


ミラさんは満面の笑みで恐ろしいことをサラッと言った。





第5話 ~fin〜








現在の貯蓄ポトフ量 1

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