第3話 伝説の竜を倒したら―。

「え…え?なんで?」


僕は真っ二つに両断された巨大な竜を見て、ひどく驚いた。


「こ…こんなの僕が倒せるわけ…」


「いや、俺はしっかり見てたぞ…お前はこのドラゴンを確実に殺った」


グエンは未だ砂漠の土地に寝そべった状態のままで僕にそう言った。


「いや…ありえないでしょ…」


グエンは急に体勢を起こして立ち上がった。

そして、すぐに僕の方へと向かってきた。


「…なんだよ」


「お前…本当はすごいんだな。見直したよ」


グエンは小さな笑みを浮かべて僕と握手をするために左手を差し出した。


「え?」


僕は訳も分からないまま、グエンと握手を交わした。一体どうなっているのだろうか。

僕の頭はまだ理解に追いつけないままだ。

あの…グエンがあのグエンが僕を認めた?

僕は今一度グエンの顔を覗いてみた。

やっぱり、グエンは従来からは考えられないほどの笑顔を僕に向けていた。


「お前、名前は何て言うんだ?」


「僕はウェイラーだけど……」


「そうか…じゃあ、ウェイラー。一緒に帰ろう」


グエンはびっこを引き、足をかばいながら砂漠の土地を踏み鳴らしていく。

グエンの背中が遠のいていくのを見ていると、グエンは突然僕の方を振り返った。


「早く来いよ『勇者』」


「え?」


「だーかーら。早く来いよ『勇者』」


嬉しかった……叫びたいほどに嬉しかった。

僕を…………こんな僕を…勇者として認めてくれるなんて。


「うんっ!」


僕は清々しい笑顔でグエンの背中に向かって駆け出した。




僕とグエンは集会所についた。

集会所は何やらいつにも増して騒がしかった。


「……なんか騒がしい……」


と僕が言うとグエンはおもむろに言葉を返した。


「まぁ、そりゃそうだろう。クエストに書かれていなかったモンスターが現れたからな」


確かに普通に考えてみれば底辺クエストにシーズドラゴンが出てくるなんてありえない。

政府側の手違いだろうか。

ふと、僕の目の前にいつもグエンの横にいるモブ達が現れた。

そのモブ達は何やら神妙な面持ちを浮かべている。

モブ達は突如として僕の前にひれ伏した。


「申し訳ありませんでしたぁっ!私たち……私たちは!あなたが強いということも知らずにあなたは軽率に見ていましたぁ!申し訳ありません!」


モブたちは集会所の横に何度も頭をぶつける。


「ちょちょちょ、待ってよ!え?どしたの?急に」


「お前がシーズドラゴンを倒したから見直したんだろ。こいつら」


グエンはポケットに手を突っ込みながら言った。


「許してくださいっ!」


モブたちは頭を床にぶつけ続ける。


「待って!わかった!わかったから一旦落ち着こっ!」


急いで僕はモブ達の行為を止めさせた。


「許してくれるんですか?」


「許すも何も……そもそも何とも思ってないから…」


「そうなんですか?」


モブ達は高速で顔を上げる。


「うん…しかも僕そんなに強くないし」


「何言ってるんですか!?」


モブ達の唐突な大声は集会所中に鳴り響いた。


「え?」


「あなたはあのシーズドラゴンを討伐したんですよ!?」


「……」


「ちょっと皆さん!シーズドラゴンを討伐することってすごいと思いますよね?」


周りの勇者たちはみんなこくりと頷く。


「ほらぁ!」


そうか……そうだ。シーズドラゴンを倒すって凄い事なんだ。

誇りに思っていよう。




ステージ上のスクリーンでは、ランキングが掲載され始めていた。

僕が見た頃にはもうベスト6000まで進行していたが、僕にとっては何の関係もない順位なので、問題はないと思う。

ぼやっとなんとなくでランキングを見ていると、横のグエンが急に大声を出す。


「おっおい!ウェイラー!!入ってるぞランキング!」


グエンが焦ってそう言うのでしっかりとランキングを見てみると、本当にあった。

いるべきではない順位に僕がいたのだ。


「ええっ!?」


僕の順位は6211位だった。


「すげーお前、ビリだったんだろ?」


「……そうだけど」


周りの勇者たちからも驚きの声が飛び交ってくる。


「へぇーすげーなぁ」


「すげー」


でも一番驚いてるのは僕だ。

僕が……6211位?

こないだまで653万3221位だった僕が?

ありえない……

無意識に心臓はどんどん高鳴っていく。

その心臓の高まりを抑えることさえも忘れてしまっていた。


「これが証明してるじゃねえか。お前はすごいことをしたんだよ」


グエンは僕を讃える。


何で急にこんなことになったかは全くもって不明だが、とにかく今は心地よくて仕方がなかった。

まるで社会から歓迎されているようで-。




第三話

~ fin〜




現在の貯蓄ポトフ量 1

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