第2話 なんか覚醒

さて、どのクエストを選ぼうか。

僕は頭をフル回転して考えた。

クエストの受注一覧が載っている掲示板をまじまじと見つめていると、気がついた。

これ、推奨ランキングのクエストとかあるけど、ビリの人推奨のクエストとかないじゃないか。

この事実から僕は社会から求められていないということを悟った。


「はぁ…」


しょうがなく僕は一番難易度が低いクエストを受注した。


「はい 、受注 ありがとうございます。このクエストの集合場所はルンパナンタ第一集会所になります」


「…はい」


めちゃくそ遠いじゃねーか!

ルンパナンタって完全に徒歩圏内から外れてるしっ!

僕は重い足を無理矢理動かして、クエスト受注所を出ていった。

レンガが敷き詰められている地面は、地平線の限りずっと続いていた。

その道を僕は変わらないテンポで踏み鳴らす。

5時間後

僕はルンパナンタ第一集会所に着いた。


「はぁ…やっと着いたよ」


ルンパナンタ第一集会所の外観は洋館を想起させるような豪華な造りであった。

なんかうちの地域と経済格差を感じるな。

僕は大きな木の扉から中に入っていった。

中には予想以上に多くの勇者たち。

底辺のクエストだけあって、初心者がここに集まってくるのか。

しばらく集会所を散策していると、知ってる人を見つけた。

あいにく、その知っている人は前のクエストの際に僕を背負い投げしたアイツだった。


「うわっ…お前またいんの?」


「…君こそ…なんでこんな底辺のクエストに…」


僕がすべてを言い切る前に背負い投げ男の横にいたモブみたいな奴らが話を遮って、僕に文句を言ってきた。


「おいっ!グエン様のことを「君」なんて馴れ馴れしい感じで呼ぶんじゃねぇ!」


「この方はグエン様だ。しっかりと敬え」


グエンは誇らしげに腰に手をやる。

こいつが偉いか?僕にとってみればどうもそうには見えないけどな。


「適当にクエスト選んだらまさか、底辺クエストになるとはな」


グエンは頭に手をやる。

いやいや、適当にクエスト選ぶなよ。


「ちょっと、イライラするから殴らせろ」


グエンは僕に向かってそう言った。


「え?」


「なんだよ。そこは「はい喜んで」だろうがぁっ!」


グエンはフルスピードで僕の顔面を殴る。

僕は床に思いっきり倒れ込んだ。


「うわっっ!」


「いいぞーグエン様ーもっとやっちまえぇー」


MOBたちの声に合わせてグエンは僕の顔を何発も殴る。

ジャブの応酬だ。

30発ぐらい僕を殴った後に満足したのか、どこかへ立ち去った。

まだ尚、僕は集会所の床に倒れ込んでいる。

周りの勇者たちは僕を好奇の目で見てくるが、もはやそんなことは気にしない。

僕はただ無言で立ち上がった。

顔はボコボコにされている。そんなの慣れっこだ。

今更、何も思いやしない。





僕を含めた勇者たちは、クエストで討伐を依頼されているモンスターが潜む砂漠へと足を進めた。

我先に討伐しようと、勇者たちは砂漠に着くや否や、モンスターを探すために砂漠の地平線に向かって走って行った。

僕はどうにもやる気が出なくて、砂漠をひとり歩く。勇者たちはどんどん遠ざかっていき、豆のように小さくなって見えた。

文字通り、僕は落ちこぼれだ。

とぼとぼと歩いていると遥か彼方の勇者たちの一部が突然出てきた竜のようなモンスターに食われていくのを目撃した。


「えっ!?」


竜は砂埃を撒き散らしながら、勇者たちを誰ふり構わず喰っていく。

おかしい…おかしいぞこれは!

クエストの受注表には、サルバドールという名の巨大蛙を討伐せよと書いてあったはずなのになんで、あの竜が…

確かあの竜って凄いレベルが高かった気がする。

懐疑的な状況に首を傾げていると、僕の方に向かって人が飛んできた。


「うわぁー!」


鈍い音と共にその人は砂漠の土地に叩きつけられた。砂は舞い上がる。

よく見てみるとその人は、グエンだったのだ。


「え…え?グエン!?」


「う…うるせぇ…グエ…ン様だ…ろ」


グエンはかすれ声で僕にそう言った。

そんなことを言ってられる状況ではないというのに。どうやら、グエンはあの竜に飛ばされたらしい。

いつのまにか、僕の目の前にはあの竜がいた。

鋭い牙―。

剣山とも形容できるような背骨―。

隆々と盛り上がった肉体―。

近くで見てみるとこの龍の名が「シーズドラゴン」だということが分かった。

シーズドラゴンの推奨ランキングは8500位以上。

僕のランキングはびり。653万3221位である僕とのランクの違いは歴然だ。


「お前…とっとと逃げろよ…カスなんだから」


シーズドラゴンが呼吸をするたびに、僕の髪はここまでかというほどになびく。

逃げるか?

僕としてはグエンがどうなってもどうでもいいと思うが、これは僕の問題だ。

今逃げて、運よく逃げ切れたとしても、残るのは後悔と価値のない僕だけ。

それよりかは勇者として、否、男としてこのレベル違いのドラゴンに立ち向かった方が良くないか?

生涯、ビリでもいい。

底辺張っていてもいい。

だけど、せめて……せめて…

死に様くらいはかっこつけさせてくれっ!


「逃げないよ僕は」


僕はそう言って剣を鞘から抜いた。


「はぁ?馬鹿じゃねーの?」


グエンはか細い声で僕をやっぱり罵る。

そんな声も無視して僕は一直線シーズドラゴンを見つめた。

刹那、シーズドラゴンは攻撃を仕掛けてくる。

僕の方に来ると思っていたが、ドラゴンは僕を通り過ぎてそのままグエンを喰らいに行った。


「あっ!!」


ふいをつかれた!


竜は砂埃を撒き散らしながら、すごい勢いでグエンの方に進んでいく。

グエンは負傷しているため、動くことができない。

だから、グエンは何もできなかった。

竜の大きな口がグエンを飲み込もうとしたその時、竜は真っ二つに二等分された。

大量の紫の血を噴き出しながら―。


「えっ?」


グエンは驚きすぎてフリーズしていた。

でも、僕はそれ以上に驚いていたのだ。

なぜなら-。


「ええっ?」


最強クラスのドラゴンを僕が剣の一振りで倒してしまったから。


倒れ込んだままのグエン。

モンスターを真っ二つに切った僕。

偶然かそれとも必然か、

僕とグエンの立場は、蜘蛛のクエストの時と全く逆になっていた。






第2話 ~fin〜





貯蓄ポトフ量 1

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