主人公はポトフで強くなります。ただし、主人公はそれを知りません。

@kkk222xxxooohhh00

第1話主人公はポトフで強くなります

この物語の主人公はポトフで強くなります。


※ 尚、主人公はこのことは知りませんので、主人公には内緒でお願いします。




僕は盛大にずっこける。

地面が砂利だったので、膝には擦り傷ができてしまったようだ。

周囲には鬱蒼とした木々たちが立ち並んでいる。


「いってぇ…」


「何やってんだよ。そんなところで寝転がってっと、あの怪物に喰われるぞ」


僕と同じ、勇者であるそいつはシラけた目で倒れている僕の前を通り過ぎた。

ちぇっ!助けてくれたっていいじゃないか。

心の中で僕はそう文句を言いながら立ち上がった。

不意に目線を上げると現れたのは、超巨大な蜘蛛のようなモンスター。

見ただけで嫌悪感がする。

その蜘蛛モンスターの周りには勇者が群がっており、みんなそれぞれの感覚で攻撃を繰り出していく。

唯一攻撃を出していないのは僕だけだ。

嫌悪を纏ったその蜘蛛は急に進行方向を変えて、超特急で僕の方へ向かってきた。

うわっやばっ…何で僕?僕さぁ、攻撃も何もしていなかったよね。

蜘蛛は周りの木々をなぎ倒しながら、すごい勢いで僕の方へ進んでいく。

恐ろしすぎて逃げようにも足が動かない。


「わ…わっ…」


蜘蛛の大きな口が僕を飲み込もうとしたその時、

蜘蛛は真っ二つに二等分された。

大量の紫の血を噴き出しながら-。


「えっ?」


「ふっ、こんなもんか」


一人の男は剣を鉄の鞘に戻した。

どうやら、この男が怪物を討伐したらしい。


「おい、お前」


唐突に僕はその男に呼ばれる。


「は…はい?」


「お前の剣は飾りか?ちょっとは使えばどうだ」


僕は手元の剣にパッと目を移す。


「あ、すいません」


勇者たちの間では笑いが巻き起こる。

うるせぇよ。僕だって一生懸命頑張ってるんだ。

お前なんかにはナンセンスの辛さが分からないだろうな。


「まぁ、とりあえず何もできないお前は邪魔だ。そこら辺で草むしりでもしてろ。」


男は僕に背負い投げをかました。

僕は為されるがままに倒される。

僕の視界は縦に一回転して、強い衝撃とともに視界は固定された。

僕の目に映る景色はただワンパターンなだけの星空。

どうせ、僕は三等星にもなれないくらいの落ちこぼれなんだ。

いっそ、流れ星になって消えてしまいたいくらいだ。今の僕にとってはあの綺麗な星たちも、ただの現実逃避の材料としかなり得なかった。

そう、僕は勇者とは思えないくらいに弱いのだ。



僕の名前はウェイラー。

家系が勇者の家系だったので、自動的に勇者になったのだが、まぁ、僕には勇者のセンスがなかった…

少し辛くなってきたので、自己紹介の続きはまた今度ゆっくりと話すことにしよう。

さて、僕は今、集会所にいる。先ほどのモンスター討伐が終わった後にそのままこの集会所にきた。

集会所にはたくさんの勇者がいる。

いつも、モンスター討伐が終わった後は集会所で勇者ランキングが発表される。

今回の僕の順位は何位だっただろうか。

そんなことを思っていると、いいタイミングでランキングの発表が始まった。

ちなみにこのランキングは全世界の勇者の総合ランキングなので、これで上位を取ることは相当シビアなのである。

集会所のステージ上にある 映写機によって映し出されたスクリーンでは、ずらずらと、勇者一人一人の順位が流れていく。

周りの勇者たちは結果を見て一喜一憂している。

それにしても僕の名前はまだだろうか…

僕はそれからしばらく待っていたが、一向に名前が出てこない。

焦っていると、前ぶりもなく僕の名前が出てきた。

あぁ、よかった出てきた。

そう思いながら、自分の順位を確認してみると驚愕した。


「えええー!?」


僕の大きな声に周りの勇者はビクッとビビる。

僕の順位はビリだった。

世界の勇者全員を合わせたランキングでビリだったのだ。

正真正銘、僕は世界一弱い勇者だということになった。

嘘だろ…僕は膝から崩れ落ちた。

ビリって何だよビリって…

周囲からは僕をあざ笑うかのような声が飛び交うが、僕はそのことを気にしなかった。

なぜなら、今の僕は自己嫌悪を対処することで手一杯だったから。






「え?何?ビリだった?大丈夫でしょ。ウェイちゃんは才能があるから多分、今だけだよ」


ラミレスはポトフをすすりながら言う。

この子は僕の結婚を前提に付き合っている彼女だ。

特徴的なところといえば、この茶髪があげられるだろう。

サラサラとしている茶髪は、可愛いラミレスの顔をより一層際立たせてくれている。


「そうかな…」


「うんっ!ウェイちゃんが元気なくす必要はないと思うよ」


ラミレスは優しくはにかんだ。

僕も微笑みながら手元のポトフをすする。

ここは二人で住んでいる一戸建て。

去年作った念願のマイホームだ。


「てかうまっ!このポトフ」


「そう?私、ウェイちゃんのために初めて作って見たの」


「マジうまいよ」


そう言って僕はポトフをもう一口。

さすがラミレス。料理の上達にも拍車がかかっている。これで明日も頑張れそうだ。





第一話 ~fin〜


現在の貯蓄ポトフ量 1

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