第47話 鉄との出会い
◇
それは、ほんの気まぐれだった。
退屈な授業を抜け出して、アウロラはふらりと街へと繰り出していた。
たくさんの人で賑わうその様子は、彼女の故郷とは違って、少し刺激的に見えたのかもしれない。
目的も無いまま、アウロラは街を散策する。道行く幾人かが、彼女の美貌に惹かれてチラチラと様子を覗っていたが、それを全て無視した。
学園から支援金が出ているとはいえ、家が貧乏だった彼女の手持ちは多くない。故にショッピングを楽しむ事も出来ず、だた街並みを眺めながらひたすらに歩き続ける。
どれだけの時が過ぎただろう? 少しお腹が減ってきた。
財布の中身を確認すると、どうやら昼食を食べるくらいの持ち合わせはありそうだ。この街に来てから、食事は全て学園内の食堂でとっていた。故に、どこに何の店があるのかだとか、どこのレストランが美味しいだとかいう情報は持っていない。
適当に当たりをつけて、道ばたにあった小さな食事処に入店する(なんとなくだが、こういう小さな店の方が安く食事ができそうな気がしたのだ)。
カウンター席が4つほどあるだけの本当に小さな店。右端の席にはやたらガタイの良い先客がおり、狭い店内と相まって少しだけ圧迫感を感じた。
アウロラは先客とは離れた左端の席に座り、メニュー表を確認する。
どうやら彼女の予想は当たっていたようで、メニューに書かれていた値段は、どれもお手頃で、彼女の少ない手持ちでもどうにかなりそうだった。
旬の野菜を使ったサラダを注文し、料理が来るのを待っていると、食事を終えた先客の男が立ち上がる。
「旨かった。また来る」
そういって料金を店主に手渡す男。
座っている時にも感じていたが、こうして立ち上がった姿を見ると、その巨大さに驚いてしまう。
さらに目を引くのが、男の左腕に装着された無骨な鉄の義手だった。
その義手には、一切の装飾が無く、しかし無駄をそぎ落としたからこその機能美ともいうべき魅力があるように見える。
深い漆黒の鉄は、アウロラの視線を引きつけて止まなかった。
男は、自身の義手を凝視するアウロラをチラリと一瞥すると何も言わずに店から立ち去っていく。
彼が出て行った後も、しばらくアウロラは放心状態にあった。
何故だか理由は分からないが、自分の心臓がドクドクと早鐘を打っている事を自覚する。
脳裏には、あの義手の深い鉄の色が焼き付いて離れなかった。
◇
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