第45話 アウロラ
「まだ少し学んだだけだが、確かに魔法という技術にはいくつか不自然な矛盾が存在している気がするよ。やはり師匠の言葉は正しかったわけだ」
そう楽しそうに話すロイを横目に、アウロラはパクパクと昼食を食べていた。
故郷の味付けとは違う、大ざっぱで濃い味付けの食事にはもう慣れてしまった。たまに故郷の味が恋しくなる時もあるが、あまり細かい事は気にしないタイプにアウロラは、特にホームシックになることもなく学園生活を送っている。
「……なんでそう嬉しそうなの? アナタの師匠が言っていた事が正しいのなら、魔法を学ぶ必要なんてないんじゃない?」
アウロラの質問に、ロイはこれまた嬉しそうに笑う。
「そう思うのも無理はないね。でも僕はこう思うんだ。”知りもしないものを超えられはしない” ってね」
「……超える?」
不審げな顔をするアウロラ。しかしロイは当然とばかりに頷いた。
「僕は魔法を超えた全く新しい技術を生み出すよ……そのためには、まずは魔法を極めなくてはならない……違うかい?」
「そんな事が可能なの?」
「可能か不可能かは知らないけど、僕も師匠もそのために魔法を研究しているんだ」
魔法を超える。
そのスケールの大きさに、少し目眩がした。
しかし目の前の少年は、さも当たり前かのようにそんな大望をキラキラとした眼でアウロラに語るのだ。
少し、うらやましかった。
少なくともアウロラには、そんな風に語れる夢なんてなかったのだから。だから少しだけ意地悪をしてみたくなって、変な質問をしてしまう。
「アナタ、もう学園で学ぶことなんて無いんじゃないの? 授業に出席するより、師匠の元で学んだ方が実りが多いでしょ?」
「まあね。でも、僕が学園に残っているのはコネクション作りのためさ」
「コネクション?」
「魔法使いの業界は狭い。この学園を卒業していない魔法使いは邪道とされ、爪弾きものにされるのさ。ある程度、魔法使い通しの繋がりがあった方が研究もしやすいと思うしね」
その答えに、少し疑問が浮かぶ。
「コネクション作りが目的なら、今こうやって私と話している暇は無いんじゃないの?」
当然の疑問だった。
アウロラは、魔法に対して全く興味が無い。魔法適性が高かったため、魔法学園に入学させられたのだが、別に魔法使いになるつもりも無かった。
コネクション作りというのなら、こんなやる気の無い女を放っておいて、他の有望株に声をかけるべきでは無いのだろうか?
しかし、ロイはキョトンとして事もなにげに答えた。
「だって、君が一番同世代で優秀じゃないか?」
「……私、魔法に興味なんて無いわよ?」
「見てたらわかるよ。でも君は優秀だ。魔法に興味が無いにも関わらず、ここまで優秀なのだったら、きっと魔法使いにならなくても、将来歴史に名を残す偉人になると思っている」
全くの褒め殺しだった。
こうも正面から褒められるとむずかゆくなってくる。
「ねえアウロラ。君の興味のある事って何なの?」
「…………」
答えられなかった。
小さな頃から何をやっても他の誰よりも上手にできた。なまじ優秀だっただけに、アウロラにとって興味がある事なんてなにも無かった。
ただ何となく流されるがままに生きる。それが彼女の人生だったのだ。
「何も無いわ……私は適当に生きて、適当に死んでいくの」
だから私に関わっても得は無い。そう言いたかったのに、その最後の一文は、何故か声にならなかった。
ロイは失望しただろうか?
チラリと視線を上げると、そこには柔らかな笑みを浮かべているロイがいた。
「そうか。なら、僕は君が好きなことを見つけられるように祈っているよ」
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