第43話 決着

「何故反旗を翻したのだ? お前は私の描く未来に賛同していたと記憶しているが?」


 ロイ・グラベルの問いに、死神は薄く笑った。


「人類の未来を作りたいと、そのための犠牲なのだとお前はそういったな? しかしどうだ? この私の体は、首を切り落とされてなお死ぬことができなかった……これがお前の言う人類の未来か? こんな化け物を生み出すことがお前の描く人類の繁栄だというのか?」


 首を切り落とされてもしなないなど、それはもはや人ではない。


 生命の理をあざ笑う、悪魔の所行だった。


 死神の言葉に、ロイは得心がいったとばかりに頷く。


「なるほど、私が考えていたよりも貴様は優秀な被検体だったようだ。まさか、それほどのダメージからも回復できるとは想定していなかった」


「問いに答えろロイ・グラベル。何のためにこんな化け物を生み出している!?」


 死神の悲鳴にも似た叫び声に、しかしロイは落ち着き払って、事もなにげに答えた。


「むろん、人類の繁栄のためさ」


「……ふざけるな!!」


 怒りに身を任せ、崩落で増幅させた闇魔法を放つ死神。


 ロイも力の差を見せつけるかのように、同じ魔法を発動して迎え撃つ。


 息もつかせぬ魔法合戦。


 秘宝 ”崩落” を使用した死神と、大魔法使いロイ・グラベルの魔法の威力はほとんど互角。


 しかし、完全に詠唱を覇気して魔法を展開できるロイ・グラベルと、魔法を一撃放つ度に崩落による反動を受ける死神では、勝負は決まっているようなものだった。


 遅かれ早かれ、死神は負ける。


 それがロイ・グラベルの魔法によるものか、それとも崩落の反動による自滅かの違いでしかない。


 結末がわかっている闘い。


 しかし、死神はがむしゃらに魔法を打ち続けた。


 崩落の使用による反動は凄まじく、心臓に埋め込まれた ”祝福されし完全” による相殺も間に合っていない。


 それでも、認める訳にはいかなかった。


 目の前の男が憎い。


 人類繁栄の礎となろうとその身を捧げた、自分の純粋な気持ちを踏みにじった天才を、許すわけにはいかなかった。


 しかし、やがて限界はやってくる。


 何度目かの魔法を発動しようとしたその時、死神は派手に吐血をして地面に膝をついた。


 ガクガクと全身が痙攣し、力が入らない。


 左手に握り締めていた宝玉が、ぽとりと地面に落ちる。


「限界のようだな……まあ、たかが実験体にしては良くやったと褒めておこう」


 もう勝負は決したとばかりに、余裕綽々の表情で歩み寄るロイ。


 瀕死の死神は、しかし嘲るような表情でロイを見上げた。


「油断したな、ロイ・グラベル……後ろがお留守だよ」


 ゾクリ

 背中に走る悪寒。


 天才ロイ・グラベルが生まれて初めて感じる死への恐怖。


 慌てて振り返る。


 目の前には見上げるほどの鉄の戦士の姿。


 屋敷の崩壊に巻き込まれてもなお死なず、瓦礫をかき分けてロイの背後に忍び寄ったのだ。


 振り降ろされるは黒く澄んだ鉄の刃。


 命を絶つその一撃を前に、ロイ・グラベルは何かを悟ったかのように微笑んだ。


「……なるほどな。アウロラ、君だったのか」


 振り抜かれた刃は、まるで何の抵抗もないかのように容易にロイの首を切断。


 こうして、世界最高の魔法使いと呼ばれた男は、呆気なくその生涯を終えたのだった。



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