第42話 戦


 その男は、ふらふらと頼りない足取りで現れた。


 グラベル家の巨大な屋敷前、ケルベロス部隊とロベルト傭兵団が血みどろの争いを繰り広げている戦場に、幽鬼のようにガリガリにやせ細った男の姿は、些か場違いに映る。


 周辺で繰り広げられている戦闘など、全く意に介していないかのように男はゆっくりとグラベルの屋敷を見上げた。


 その瞳には、怒りとも悲しみとも取れるような、マイナスの感情がありありと浮かんでいる。


 男は、不意に右手を腹に当てると、グッと強く押し込んだ。


 口から吐き出されるは、握り拳ほどの大きさをした澄んだ青色の宝玉。


 ”崩落”


 死神と呼ばれるその男は、手にした崩落をギュッと握り締め、魔法を発動した。


「”闇よ、在れ”」


 最強の攻撃手段、闇魔法。


 練り上げられた魔力が崩落により爆発的に増幅する。


 自身の身の丈を超えた爆発的な力、体……特に内臓に大きなダメージが加わるが、そのダメージは心臓部に埋め込まれた ”祝福されし完成” の効果によって無理矢理相殺される。 放たれた闇魔法。


 全てを浸食する破壊の波は、死神を中心にして広範囲に広がり、闘争を繰り広げるケルベロス部隊と傭兵たちを巻き込みながら、グラベルの屋敷全体を飲み込んだ。


 ガラガラと音を立てて派手に崩れ落ちる屋敷。


 モウモウと巻き起こる砂埃。


 強大な魔法を放った反動で、死神は派手に吐血した。


 大量の血を吐き出しながら、それでも彼は鋭い視線を屋敷へ向けていた。


 視線の先には、防護魔法で瓦礫から身を守り、無傷で出てきた大魔法使いロイ・グラベル。


 その姿を見て、死神は狂気に満ちた笑みを浮かべる。


「会いたかったぞ!! ロイ・グラベル!!」


「……ふむ、貴様か。今日はよくもまあ不届き者がやってくる日だ」




◇ 

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