第41話 戦
◇
右上段から袈裟懸けに切り下ろされた刃。
しかし、ロイの発動した防御魔法により、必殺の刃は見えない壁に阻まれて宙で制止してしまう。
反射的に刃による攻撃を諦め、前蹴りを繰り出すコーデリク。
しかし、ロイが再び右足を地面に打ち鳴らすと、発生した衝撃波がコーデリクを吹き飛ばした。
ゴロリと地面に転がるコーデリク。
追い打ちをかけるように放たれる闇魔法。
背中の装甲に着弾し、その衝撃波で再び吹き飛ばされる。
魔鉄の鍛え上げられた装備の耐久性は桁外れで、ロイ・グラベルの魔法攻撃をまともに受けても傷一つつかない。
しかし、鎧が破壊されないからといって、その衝撃まで殺せる訳では無く、度重なる攻撃魔法のダメージによって、コーデリクの体力は削られていった。
ヨロヨロと立ち上がるコーデリクに、ゆっくりと近寄ってくるロイ。
普通、魔法使いは間合いを詰められる事を嫌う。
いかに魔法の腕が立とうが、剣の間合いに入られては圧倒的に不利だからだ。
しかし、そんな常識は天才ロイ・グラベルには通用しなかった。
「いやしかし、鎧の頑丈さもさるものながら、君自身のタフネスも常識を外れているね……ふむ、なかなか素体として興味深い」
そう言いながら、ロイはその手をコーデリクの鎧に当てる。
瞬時に練り上げられた高密度の魔力を波にして、鎧に流し込む。
魔力の波は鎧を貫通してコーデリクの体に到達し、体の水分に浸透して彼の内臓に直接ダメージを与えた。
コーデリクは吐血して、その場に膝をつく。
本来、魔力そのものに物理的な攻撃力は存在しない。
故に魔法という手段で形の無い魔力をあらゆるモノに変換し、攻撃手段へと昇華させているのだ。
対して、先ほどロイが行った攻撃は、純粋な魔力による攻撃。
高密度に練り上げられた魔力は微量ながら質量を持つ。
無論、それ単体では攻撃と言うにはお粗末すぎるものだ。
しかし、魔力には物体を伝導する性質があり、超至近距離であればそれを利用して好きな場所へ魔力を伝える事ができる(魔法触媒への魔力の伝導も同じ仕組みだ)。
相手に密着し、直接相手の内蔵へと高密度の魔力を送る荒技。
わずかなダメージでも、対象が柔らかな内蔵であれば必要十分な攻撃手段となりうる。
そんな離れ技を披露したロイは、膝をついたコーデリクを興味深げに観察していた。
「ふむ、やはり使い勝手は悪いな。防御を貫通する攻撃といえば聞こえは良いが、射程距離が短すぎるうえに魔力の消費が激しい……これならば同量の魔力を持って攻撃魔法を放った方がコスパは良い……か」
ぶつぶつと呟くロイは隙だらけだが、コーデリクはダメージが大きく、まともに動けそうになかった。
「いやいや、助かるよ。君のような頑丈な素対がいると色々と試しがいがある」
和やかにそう言い放つロイ。
屋敷を燃やされた怒りなど忘れてしまったようで、その瞳には自分の魔法論理を試したいという研究者の欲求に燃えていた。
「では次の魔法の実験に移ろう……すぐに壊れてくれるなよ?」
そう言いながらロイが杖を構えた、その瞬間。屋敷全体が大きく揺れ動いた。
「何事だ!?」
驚いて周囲を見回すロイ。
揺れ続ける屋敷。
そして、
巨大なグラベル邸が倒壊を始めた。
◇
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