第40話 戦


 コーデリクはちらりと横目でロベルトの動向を確認する。


 どうやらコーデリクが壁を壊した事で生まれた隙をついて、ロベルトは閉じ込められていた人々を誘導して避難をしている。


 本当に優秀な男だ。


 これで、全力を出せる。


 余裕綽々な表情をしているロイ・グラベル目がけて、左手に構えていた巨大な盾を上方から思い切り叩きつけた。


 狭い通路、コーデリクが持っている盾は、大人の女性ほどの大きさがあり、至近距離での攻撃を回避する手段など皆無。


 しかし、ロイはニヤリと口角をつり上げると、右足を地面に打ち鳴らした。


 すると、ロイの足下から凄まじい衝撃波が発生。攻撃を仕掛けていたコーデリクの巨体を、いとも簡単に吹き飛ばした。


 先程自身で壊した壁の穴を通って、別の部屋に吹き飛ばされたコーデリク。


 ゆっくりと後を追ってきたロイが、杖を構えながら話しかけてきた。


「君が何者かは知らん。私に恨みを持っている奴なんぞ星の数ほどいるからな。そして、これからも君が何者か知ることも無いだろう。何故なら、君は今此処で死ぬのだから」


 構えられた杖の先に、練り上げられた魔力が集中する。


 放たれた魔法は、死神も使用していた闇属性の魔法。


 しかし、その威力は死神の非では無かった。


 極限まで圧縮された闇の弾が、視認すら難しいほどの超スピードで放たれる。

 咄嗟に盾を構えたコーデリク。


 次の瞬間、盾に直撃した闇魔法の衝撃が手に伝わり、気がつくとコーデリクは盾を手放していた。


 ビリビリとしびれが残る左手と、遙か後方に吹き飛ばされた大盾。


 コーデリクは信じられないとロイを見つめた。


 甘く見ていたつもりは無かった。


 しかし、彼の繰り出す魔法は、今までに体験した魔法とは、圧倒的に次元が違う。


「ほうほう、これは驚いた。まさか今の一撃を受けて人の形を保っているとはね……その装備、常識を逸しているよ」


 事実、ロイ・グラベルは本心から驚いていた。


 屋敷を襲撃されて苛立っていた彼は、人一人に向けるには明らかにやり過ぎな威力の攻撃魔……それこそ、相手の骨すら残さないという意志を持って魔法を放ったのだ。


 しかし結果として、相手は骨すら残らないどころか、怪我一つ負っていない。


 異常事態だった。


 先の魔法の威力は、城の城壁すら破壊しうるほど……。


「いったいその装備は誰の作品かね? 少し興味がわいてきた」


 世界最高と呼ばれる自分の攻撃魔法すら防ぎ得る盾。


 尋常な存在ではない。


 ただの侵入者として認識していた鉄の戦士が、自分の未知の技術を持つ研究対象へと認識が書き換わった。


 自分の未知の技術。


 研究者としてのロイの本能が疼く。


「侵入者君、その装備の制作者を教えてくれたのなら君の命だけは助けてやろう! どうかね? 今のやりとりで実力の差はわかっただろう? 命は大切にしたまえよ」


 ロイにとっては最大限の譲歩。


 しかし、コーデリクは無言で右手の義手を構えた。刃の飛び出た仕掛け義手が、彼の意志を明確に伝えており、ロイは大きくため息をつく。


「話の通じないタイプの人間だったか……仕方が無い、死なない程度に痛めつけてやろう」




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